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ローマ神話

クゥイリーヌスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Quirinus  / クゥイリーヌス

古い三柱神

古い三柱神の一。神になったロームルスの姿とされた、市民の守り手。

クゥイリーヌスとは何の神様か

クゥイリーヌスはひとことで言えば忘れられた大神です。

カピトリウムの三柱神より前に、ローマにはもう一つの三柱がありました。

ユーピテルマールス、クゥイリーヌス。

この三柱にはそれぞれ専属の神官が置かれ、その位は帝政期まで残りました。ローマの神官の序列では、この三人が最上位です。

ところが、何の神なのかは、ローマ人自身にも分からなくなっていました。

有力なのは「平時のマールス」という見方です。マールスが戦に出た市民を守るのに対し、この神は町の中の市民を守る。

ローマ市民を呼ぶ古い言葉クィリーテースと、この神の名は同じ形をしています。

後には、神になったロームルスがこの神だとされるようになりました。

2月17日のクィリナーリアが祭日です。

クゥイリーヌスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「クィリヌス」「クイリヌス」「クゥイリーヌス」が使われます。

ローマの七つの丘の一つ、クイリナーレの丘の名はこの神によります。現在のイタリア大統領官邸がある丘です。

市民を意味するクィリーテースと同じ語幹とされる。

将軍が兵士を叱るとき、「兵士たちよ」ではなく「市民たちよ」と呼びかけることがありました。戦う者としてではなく、ただの市民として扱うという侮辱です。

この言葉と神の名が同じ形であることは、この神の性格を考える手がかりになっています。

Quirinus(クゥイリーヌス)

ラテン語。市民を意味するクィリーテースと同じ語幹とされる。

Quirites(クィリーテース)

平時のローマ市民を呼ぶ古い言葉。

クゥイリーヌスの物語

  1. 三大神官 ─ 位だけが残った神
  2. 神になったロームルス ─ 後から結びついた話
  3. クィリナーリア ─ 愚か者の祭

三大神官 ─ 位だけが残った神

ローマの神官には、はっきりした序列がありました。

最上位の三人をフラーミネース・マイオーレース(大いなる神官)と呼びます。

フラーメン・ディアーリス(ユーピテル付き)
フラーメン・マルティアーリス(マールス付き)
フラーメン・クィリナーリス(クゥイリーヌス付き)

この三つが並んでいることが、古い三柱神の存在を示す最大の証拠です。

ところが、クゥイリーヌスの神官が実際に何をしていたかは、ほとんど分かりません。

記録に残るのは、この神官が他の神の祭にも出ていたことです。

- ロービーグス(麦の病の神)の祭
- ラールンダの祭
- コーンススの祭

自分の神の祭より、他の神の祭に出ている記録のほうが多い。

神の中身が薄れても、神官の位だけが制度として残り続けました。ローマの祭祀のあり方がよく出ています。

神になったロームルス ─ 後から結びついた話

ローマの伝えでは、建国者ロームルスは死んでいません。

軍を閲兵していたとき、突然の嵐が起こり、雲に包まれて姿を消したとされます。

人々は元老院が殺したのではないかと疑いました。そこへ、ユリウス・プロクルスという男が現れて言います。

ロームルスが天から降りてきて、私にこう告げた。
「ローマは世界の頭になるだろう。私をクゥイリーヌスと呼んで祀るように」。

こうして、建国者と古い神が結びつきました。

この結びつきは後から作られたものと考えられています。

理由は二つあります。一つは、クゥイリーヌスの祭祀のほうが古いこと。もう一つは、神になった王という筋書きが、ギリシャの英雄崇拝の影響を受けていることです。

ただし、この話はローマ人に強く受け入れられました。建国者が神になった都市という自己像を、ローマは長く持ち続けます。

クィリナーリア ─ 愚か者の祭

2月17日がクィリナーリアです。

この日には、変わった呼び名が付いていました。

愚か者の祭。

2月にはフォルナカーリアという穀物を炒る祭があり、これは氏族ごとに日を決めて行いました。

ところが、自分の氏族の日を知らない者がいます。都市が大きくなり、氏族のつながりが薄れたためです。

そうした者のために、2月17日が用意されました。

どの日か分からなくなった者は、この日にやればよい。

この日を「愚か者の祭」と呼んだのは、そのためです。

神の祭日が、手続きを取りこぼした人の救済日になっている。

ローマの祭祀は、正しい手続きを何より重んじました。同時に、手続きから漏れた者を拾う日も用意していました。

この一点は、クゥイリーヌスという神の性格をよく示しています。市民を、誰一人こぼさずに数える神です。

クゥイリーヌスの家系図と家族

クゥイリーヌスの妻・夫: ヘルシリアホーラ・クゥイリーニとして並んで呼ばれる

クゥイリーヌスの性格と人物像

クゥイリーヌスは、ローマの神々のなかでもっとも「輪郭を失った」神です。

三大神官の一人が付けられる重い神でありながら、何の神か分からない。

制度だけが残り、中身が抜けた。

近代の研究では、この三柱を社会の三つの働きの表れと見る説が提出されました。

- ユーピテル … 祭祀と主権
- マールス … 戦
- クゥイリーヌス … 生産と市民

この見方は広く知られていますが、当てはめが強引だという批判も強くあります。

はっきり言えるのは、次の二点だけです。

この神が古いこと。そして、市民という言葉と結びついていること。

それ以上のことは、分かっていません。

クゥイリーヌスを祀った神殿と遺跡

クゥイリーヌスの聖域は、すべてクイリナーレの丘に集まっています。

同じ丘にはカピトリウム・ウェトゥス(古いカピトリウム)もありました。カピトリウムより古い三柱神の聖所とされますが、位置は特定されていません。

この丘は、ローマの七つの丘のうち北東に位置します。伝えでは、サビニ人が住み着いた丘とされます。

クゥイリーヌスをサビニ人の神とする説は、この伝えによる。

ただし、確かめられてはいません。

丘の上には現在イタリア大統領官邸が建ち、地下の遺構はほとんど調査されていません。

クゥイリーヌス神殿(Aedes Quirini)

古い三柱神の一柱の神殿

地図で開く

クゥイリーヌス神殿の住所: イタリア ローマ クイリナーレの丘(北緯41.9000 東経12.4833)

クゥイリーヌス神殿の祀られた神: クゥイリーヌス

クゥイリーヌス神殿に残るもの: 地上に残っていない

クゥイリーヌス神殿のご利益: 市民の守り

前293年、ルキウス・パピリウス・クルソルが奉献した神殿です。父が前325年に立てた誓いを、子が果たしました。

伝えでは、共和政期のこの神殿はより古い聖所の上に建てられたとされます。

丘の名クイリナーレは、この神の名によります。現在のイタリア大統領官邸がある丘です。

神殿には日時計が置かれ、ローマで最初の日時計だったと伝えられます。

地上に遺構はない。丘の上に大統領官邸が建っている。

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クゥイリーヌスが現代に残した痕跡

クゥイリーヌスの名は、丘の名として残りました。

クイリナーレの丘: ローマ七丘の一つ。この神の名に由来する。現在はイタリア大統領官邸が建つ。

クイリナーレ宮殿: イタリア大統領官邸。もとは教皇の夏の離宮として建てられた。丘の名がそのまま建物の名になっている。

三機能仮説: ユーピテル・マールス・クゥイリーヌスの三柱を、社会の三つの働きの表れとみる説。広く知られているが、批判も強い。

クゥイリーヌスが司るもの

市民の守り

平時の市民を守る神とされた。

共同体の結束

氏族の祭から漏れた者を拾う日が設けられていた。

建国の記憶

神になったロームルスとして祀られた。

クゥイリーヌスが登場するゲーム・アニメ

作品に出ることはほとんどありません。

物語を持たない神であり、性格もはっきりしないためです。

何の神か分からない神は、描きようがない。

一方、クイリナーレという地名は、イタリアの政治を伝える報道でいまも毎日のように使われます。

神の名が、国の政治を指す言葉として生き残りました。

クゥイリーヌスが登場するゲーム・アニメ

女神転生シリーズ

ローマの古い神として登場します。

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歴史ものの作品

ロームルスが神になった姿として言及されます。

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クゥイリーヌスについてよくある質問

クゥイリーヌスは何の神ですか。

はっきり分かっていません。「平時のマールス」つまり町の中の市民を守る神という見方が有力です。ローマ人自身も、共和政の末期には由来を説明しきれなくなっていました。

ロームルスと同じ神ですか。

後から結びつけられたものと考えられています。クゥイリーヌスの祭祀のほうが古く、建国者が神になったという筋書きはギリシャの英雄崇拝の影響を受けているとされます。

なぜ「愚か者の祭」と呼ばれたのですか。

2月のフォルナカーリアという祭は氏族ごとに日を決めて行いましたが、自分の氏族の日を知らない者のために2月17日が用意されました。手続きから漏れた者を拾う日でした。

クイリナーレの丘とは関係がありますか。

あります。丘の名はこの神に由来します。現在はイタリア大統領官邸が建っており、イタリアの政治を指す言葉としても使われています。

クゥイリーヌスと併せて覚えたい言葉・用語

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。