大地そのものの女神。孕んだ牛を捧げる祭で祀られた。
テルースとは何の神様か
テルースはひとことで言えば大地そのものです。ギリシャ名はガイア。
ただし、ローマでのこの女神は神話を持ちません。 天と交わって神々を生む話は、ギリシャから入ったものです。
ローマ側にあるのは祭です。
4月15日のフォルディキディアでは、孕んだ牛が犠牲にされました。
母牛の胎から、生まれる前の仔を取り出す。
大巫女がそれを焼き、灰を集める。
灰は6日後のパリーリアで使われます。清めの煙を上げるためです。
産む力そのものを大地に返すという考え方です。
祭はローマの各区で行われ、同じ日にカピトリウムでも執り行われました。
契約や誓約?のときに名を呼ばれることもあります。大地は動かない。 動かないものに誓う形です。
テルースのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「テルス」「テルース」が使われます。
ラテン語では大地を意味する普通名詞でもあります。ガイア、ウェスタと同じく、名がそのまま概念です。
もう一つの呼び名はテッラ・マーテル(母なる大地)。こちらの語は、地球や陸地を指す語としてヨーロッパの諸言語に残りました。
地形、地帯、テラス。
いずれも同じ語源から出ています。
Tellus(テルース)
ラテン語。大地を意味する普通名詞でもある。
Terra Mater(テッラ・マーテル)
「母なる大地」。同じ女神を指すもう一つの呼び名。
テルースの物語
フォルディキディア ─ 生まれる前の仔を焼く
4月15日のフォルディキディアは、ローマの祭のなかでもとりわけ生々しいものでした。
犠牲にされたのは孕んだ牛です。
母牛の胎を裂き、まだ生まれていない仔を取り出す。
ウェスタの大巫女が、それを焼く。
灰は集められ、6日後のパリーリアで使われました。羊飼いが火を焚くとき、この灰を混ぜます。
なぜこの時期なのか。
オウィディウスは、種をまいた大地が孕んでいる時期だからと説明しています。大地が孕んでいるときに、孕んだ牛を返す。
祭はローマの三十の区それぞれで行われ、同じ日にカピトリウムでも執り行われました。
ローマの祭のなかで、もっとも古い形を残したものの一つとされます。
神話を持たない女神 ─ ガイアとの違い
ギリシャのガイアには、はっきりした物語があります。
ひとりで天ウラノスを生み、その天と交わってティタン神族?を生む。
子に鎌を渡して父を討たせる。
ローマのテルースには、こうした話が一つもありません。
あるのは祭だけです。
これはローマの神々に共通する特徴でもあります。ローマ人は、神を系図に並べることにあまり関心を持ちませんでした。
その代わり、いつ、何を、どうやって捧げるかを細かく決めています。
4月15日。孕んだ牛。大巫女が焼く。灰を残す。
手続きが神話の代わりでした。
ギリシャの物語が入ってきたあと、テルースはガイアと重ねられます。しかし、国家の祭祀のほうは変わりませんでした。
平和の祭壇の浮き彫り ─ 誰が彫られているのか
テルースの家系図と家族
テルースの性格と人物像
テルースは、性格を持たない神です。
物語も、姿の決まりも、伝説もありません。
あるのは動かないことだけです。
大地は逃げない。だから誓いの相手になる。
ローマ人は、契約や誓約のときにこの女神の名を呼びました。動かないものに誓う形です。
一方、この女神には恐ろしい面もあります。
大地は死者を受け入れる場所でもあります。裏切り者を罰するとき、テルースと冥界の神々に捧げるという言い方が使われました。
与える大地と、呑み込む大地。 ローマ人は、この両方を一つの名で呼んでいました。
テルースを祀った神殿と遺跡
テルースの神殿は、住所を確かめられませんでした。
前268年、カリーナエと呼ばれる一角に神殿が奉献されたと記録されます。地震のあとに立てられた誓いを果たしたものでした。
しかし、位置は特定されていません。
あったことは分かっている。どこにあったかが分からない。
ここに挙げたアラ・パキスは、この女神とされる浮き彫りがある祭壇です。この女神を祀った建物ではありません。
アラ・パキス(Ara Pacis Augustae)
この女神とされる浮き彫りがある祭壇
アラ・パキスの住所: イタリア ローマ カンプス・マルティウス(北緯41.9028 東経12.4791)
アラ・パキスの祀られた神: パークス(平和)
アラ・パキスに残るもの: 祭壇と囲壁(復元され、専用の建物に収められている)
アウグストゥスが前9年に完成させた平和の祭壇です。
一面に、子を二人抱いた女性の浮き彫りがあります。この女性がテルースなのかどうかは、いまも決着していません。
テルース、ウェヌス、パークス、イタリア。いくつもの説が並んでいます。
祭壇そのものは平和の女神に捧げられたものです。この女神を祀った建物ではありません。
現在は専用の建物の中に移されて保存されている。
テルースが現代に残した痕跡
テルースの名は、大地を指す語として残りました。
地球を指す語: テッラ・マーテル(母なる大地)のテッラが、ヨーロッパの諸言語で大地・陸地・地球を指す語になった。
地形・地帯を指す語: 同じ語源から、土地の広がりを指す多くの語が生まれた。
アラ・パキスの浮き彫り: 子を抱いた女性像。テルースとする説が有力だが、決着していない。
テルースが司るもの
土地の実り
孕んだ牛を捧げて、大地が実ることを願った。
誓いの守り
動かないものとして、契約と誓約の証人にされた。
死者の受け入れ
大地は死者を受け入れる場所でもあった。
テルースが登場するゲーム・アニメ
作品では、ガイアの名のほうが使われます。
ローマ名のテルースが単独で出てくることは、ほとんどありません。
一方、大地・陸地を指す語としては、この女神のもう一つの呼び名が世界中で使われています。
名は消えたが、語は残った。
テルースが登場するゲーム・アニメ
大地を扱う作品
ガイアの名で登場することが多く、ローマ名で出ることは少なくなっています。
地球を指す名
架空の世界で地球を指す語として、この系統の語が広く使われます。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
テルースについてよくある質問
テルースとガイアは同じ神ですか。
同一視されますが、ローマのテルースは神話を持ちません。天と交わって神々を生む話はギリシャから入ったもので、ローマ側にあるのは祭だけです。
フォルディキディアとは何ですか。
4月15日の祭です。孕んだ牛が犠牲にされ、生まれる前の仔をウェスタの大巫女が焼きました。その灰は6日後のパリーリアで使われます。
アラ・パキスの女性像はテルースですか。
そうとする説が有力ですが、決着していません。ウェヌス、パークス、イタリアとする説もあります。
テルースの神殿はどこですか。
確かめられませんでした。前268年にカリーナエという一角に奉献されたと記録されますが、位置は特定されていません。
テルースと併せて覚えたい言葉・用語
誓約(うけい)
神意を問うための占い。あらかじめ結果の意味を決めておき、どちらが起きるかで是非を判断する。
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。