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ローマ神話

ソーラーヌスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Soranus  / ソーラーヌス

冥界 ローマ固有の神

ソラクテ山で祀られた冥界の神。燃える炭を裸足で渡る祭祀で知られる。

ソーラーヌスとは何の神様か

ソーラーヌスはひとことで言えば山の上の冥界の神です。

ローマの北にそびえるソラクテ山、いまのモンテ・ソラッテで祀られました。平野に一つだけ立つ山で、遠くからよく見えます。

ローマ人はこの神を、冥界の王ディス・パテルと同じ神とみなしました。

山の上に、冥界の神が祀られていたわけです。

山の祭祀を担ったのは、ヒルピ・ソラーニと呼ばれる家々でした。名は「ソーラーヌスの狼たち」を意味します。

彼らは、燃える炭の上を裸足で渡ったと伝えられます。プリニウスは『博物誌』第7巻でこの務めを記し、この家々が兵役と公の負担を免除されていたことを書き添えました。

ウェルギリウスは『アエネーイス』第11巻に、この火渡りの祈りの言葉を置いています。

そこでは神がアポッロの名で呼ばれますが、もとは土地の冥界神とみられています。

ソーラーヌスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「ソーラーヌス」「ソラーヌス」の表記が使われます。長音を書き分けない形も広く用いられています。

名は、ソラクテという山の名と同じ語根から来ているとみられます。ただし、山の名が先か神の名が先かは決着していません。

土地の名と神の名が同じ語根を持つ例は、イタリアの古い神に多く見られます。

ソーラーヌス・パテルという呼び方は、冥界の王ディス・パテルと同じ形です。二柱が重ねられたことが、呼び名から読み取れます。

一方、アポッロ・ソーラーヌスという形は後の時代のものです。ウェルギリウスがこの形で呼んだため、注釈の系統でも使われるようになりました。

なお、この神は同じ名の医学者とは何の関係もありません。ラテン語では同じ綴りになるため、検索の際に混ざることがあります。

Soranus(ソーラーヌス)

ラテン語の主格。ソラクテという山の名と同じ語根から来ているとみられるが、意味は確定していない。

Soranus Pater(ソーラーヌス・パテル)

父なるソーラーヌスの意。冥界の王ディス・パテルと同じ形の呼び方で、両者が重ねられたことを示す。

Apollo Soranus(アポッロ・ソーラーヌス)

後の時代に重ねられた呼び方。ウェルギリウスがこの形で呼び、以後の注釈もこれを引き継いだ。

ソーラーヌスの物語

  1. ソラクテ山 ─ 平野に立つ一つ山
  2. ヒルピ・ソラーニ ─ 燃える炭を裸足で渡る
  3. 冥界の王と同じ神 ─ ディス・パテルとの重なり
  4. アポッロと重ねられる ─ アエネーイス第11巻の祈り

ソラクテ山 ─ 平野に立つ一つ山

ソラクテ山は、ローマの北、テウェレ川の右岸にそびえる石灰岩の山です。

まわりが平野のため、一つだけぽつんと立って見えます。 ローマの側からも望むことができました。

目印になる山は、それだけで聖なる場所になります。

この山の頂に、ソーラーヌスの聖域がありました。ローマ人はこの神を、冥界の王ディス・パテルと同じ神とみなしています。

山の上に冥界の神が祀られるというのは、一見あべこべに思えます。

ただし、石灰岩の山には洞や割れ目が多く、地の下へ通じる口とみなされる場所がしばしばあります。 この山にも洞があり、そこから結びついた可能性が指摘されています。

ホラーティウスは、雪をかぶったソラクテ山を詩に詠みました。冬になると白くなるこの山は、ローマの人々にとって見なれた風景でした。

いま山頂には、後世に建てられた聖堂があります。

ヒルピ・ソラーニ ─ 燃える炭を裸足で渡る

この山の祭祀を担ったのは、ヒルピ・ソラーニと呼ばれる家々でした。

名は「ソーラーヌスの狼たち」を意味します。狼は冥界と結びつく獣とされました。

彼らは、燃える炭の上を裸足で渡ったと伝えられます。

プリニウスは『博物誌』第7巻でこの務めを記しました。年に一度、決まった家の者だけがこれを行うという形です。

そしてプリニウスは、大事なことを書き添えています。

この家々は、兵役と公の負担を免除されていました。

特別な務めに、特別な免除が対になっていたわけです。 火渡りは名誉であると同時に、家に課された役目でもありました。

免除は元老院の決議によって続けられたとされます。祭祀が、国の制度のなかに位置を持っていたことがわかります。

なぜ火傷をしないのかについては、古代から議論がありました。薬を塗るという説明も伝えられています。

冥界の王と同じ神 ─ ディス・パテルとの重なり

ローマ人は、ソーラーヌスをディス・パテルと同じ神とみなしました。

ディス・パテルは冥界の王です。ソーラーヌス・パテルという呼び方は、これと同じ形をしています。

父なる神、という呼び方が両者に共通します。

狼という獣も、冥界と結びつけられました。ヒルピ・ソラーニの名が「狼たち」を意味するのも、この結びつきによります。

火渡りという行いも、冥界と無縁ではありません。燃える炭の上を無事に渡ることは、死の領域を通り抜けて戻ってくることになぞらえられます。

つまり、山と洞と狼と火が、一つの筋でつながっていました。

この神は、ローマの国家祭祀の中心にはいません。土地に根ざした祭祀のまま、帝政期まで続いた神です。

ローマは、征服した土地の祭祀をそのまま残すことがしばしばありました。ソラクテの火渡りは、その代表的な例として挙げられます。

アポッロと重ねられる ─ アエネーイス第11巻の祈り

ウェルギリウスは『アエネーイス』第11巻に、この山の祈りを置きました。

戦士アッルーンスが、女戦士カミッラを射るまえに神へ呼びかける場面です。

神々のうちもっとも高き者よ、聖なるソラクテを守る者よ。あなたを敬う私たちは、燃える炭のただ中を踏んで渡ります。

ここで神は、アポッロの名で呼ばれています。

このため、後の注釈でもアポッロ・ソーラーヌスという形が使われるようになりました。

ただし、もとは土地の冥界神であり、アポッロと重ねられたのは後のことだとみられています。

理由は二つあります。一つは、ディス・パテルとの同一視のほうが古いとみられること。もう一つは、狼と冥界という筋が、アポッロの性格とうまく合わないことです。

ローマの詩人が、土地の神をギリシャの神の名で呼び直した。 そう考えるほうが記録には合います。

なお、この一節のおかげで、火渡りの祈りの言葉が残りました。

ソーラーヌスの家系図と家族

ソーラーヌスの性格と人物像

ソーラーヌスには、物語がありません。

伝わっているのは、山の名と、祭祀を担った家々と、火渡りという行いです。

神そのものより、祭祀のほうが詳しく記録されています。

これはめずらしいことです。多くの神は物語が残って祭祀が失われますが、この神は逆になっています。

プリニウスとウェルギリウスという二人の書き手のおかげです。一方は制度として、一方は詩として、この祭祀を書き留めました。

研究上の位置づけとしては、ローマが地方の祭祀をどう扱ったかの例として扱われます。国家祭祀に組み込むのではなく、免除という形で存続を認めたわけです。

土地の神が土地の神のまま残った、数少ない例といえます。

火渡りそのものは、地中海の各地に似た祭祀があります。ソラクテの例は、そのなかで記録がもっとも詳しいものの一つです。

ソーラーヌスを祀った神殿と遺跡

ソーラーヌスの祭祀の場は、ソラクテ山の一つだけが確かめられています。

この神は、ローマ市内に神殿を持ちませんでした。土地に根ざした祭祀のまま、帝政期まで続いた神です。

国家祭祀に取り込まれるのではなく、免除という形で存続が認められました。

なお、ストラボンは、この山の麓にもフェーローニアの聖域があり、そこでも火渡りが行われたと伝えています。ただし、この聖域の位置は特定されていません。

山頂の聖域についても、古代の建物は残っていません。ここに示した座標は山そのものの位置です。

ソラクテ山(Soracte mons)

ソーラーヌスを祀った山上の聖域

地図で開く

ソラクテ山の住所: イタリア ラツィオ州 モンテ・ソラッテ(北緯42.2456 東経12.5019)

ソラクテ山の祀られた神: ソーラーヌス

ソラクテ山に残るもの: 古代の聖域の建物は残っていない。山頂には後世の聖堂が建つ

ソラクテ山のご利益: 火から守る・冥界の守り

ローマの北にそびえる石灰岩の山です。まわりが平野のため、一つだけ立って見えます。

頂にソーラーヌスの聖域があり、ヒルピ・ソラーニと呼ばれる家々が祭祀を担いました。彼らは燃える炭の上を裸足で渡ったと伝えられます。

プリニウスは、この家々が兵役と公の負担を免除されていたと書き残しました。

古代の聖域の建物は残っていません。 山頂には後世に建てられた聖堂があり、そこまで道が通じています。

サントレステの町から山頂へ登山道が通じ、ローマ方面の平野を一望できる。

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ソーラーヌスが現代に残した痕跡

ソーラーヌスの名は、山の名と火渡りの記録として残りました。

モンテ・ソラッテ: 山の名がいまも古代の呼び名を残しており、ローマ方面から望むことができる。

火渡りの記録: プリニウスの記述が、古代の火渡りを伝えるもっとも詳しい記録の一つとして引かれる。

兵役免除の制度: 祭祀を担う家々が公の負担を免れた例として、ローマの宗教と制度の関係を示す。

ホラーティウスの詩: 雪をかぶったソラクテ山を詠んだ一節が、いまも広く読まれている。

ソーラーヌスが司るもの

火から守る

燃える炭を裸足で渡っても傷つかないという祭祀から、火の災いと結びつけられた。

冥界の守り

冥界の王と同じ神とされ、死者の領域を司る神として祈られた。

務めへの免除

祭祀を担う家々が兵役と公の負担を免れたことから、務めの重さと結びついた。

ソーラーヌスが登場するゲーム・アニメ

作品でのソーラーヌスは、神そのものより祭祀のほうが取り上げられます。

燃える炭の上を裸足で渡るという場面が、絵になりやすいためです。

山の風景としては、ホラーティウスの詩を通じて知られてきました。

近年では、火渡りの民俗を扱う本や番組で、地中海の古い例としてこの祭祀が引かれることが多くなっています。

ソーラーヌスが登場するゲーム

神話を扱う対戦型ゲーム

冥界と火に関わる神として、名前が登場することがあります。

ローマを扱う歴史戦略ゲーム

地方の祭祀の要素として、山の聖域が現れることがあります。

ソーラーヌスが登場する絵画・彫刻

雪のソラクテ山を描いた風景画

ホラーティウスの詩を踏まえ、雪の山として繰り返し描かれてきました。

火渡りを描いた図版

近世の古代研究の書物に、この祭祀を想像で描いた図版が収められています。

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ソーラーヌスについてよくある質問

ソーラーヌスはどんな神ですか。

ローマの北のソラクテ山で祀られた冥界の神です。ローマ人は冥界の王ディス・パテルと同じ神とみなしました。ヒルピ・ソラーニと呼ばれる家々が祭祀を担いました。

ヒルピ・ソラーニとは何ですか。

ソーラーヌスの狼たちを意味する呼び名で、ソラクテ山の祭祀を担った家々です。燃える炭の上を裸足で渡ったと伝えられ、その務めのため兵役と公の負担を免除されていました。

アポッロと同じ神ですか。

ウェルギリウスがアエネーイス第11巻でアポッロの名で呼んだため、そう扱われることがあります。ただし、もとは土地の冥界神であり、重ねられたのは後のことだとみられています。

ソラクテ山はいま行けますか。

行けます。ローマの北のモンテ・ソラッテがそれで、麓の町から山頂へ登山道が通じています。ただし古代の聖域の建物は残っていません。

なぜ火渡りをしても火傷をしないのですか。

古代から議論がありました。あらかじめ薬を塗るという説明も伝えられていますが、確かなことはわかっていません。