誓いを破った者を罰する冥界の神。その名は後世の怪物の呼び名に残った。
オルクスとは何の神様か
オルクスはひとことで言えば罰する冥界です。
ローマの冥界には、ギリシャのハデスに当たる神が一柱に定まっていません。
プルートー … 富を分ける、穏やかな面。
ディース・パテル … 富める父。名も同じ意味。
オルクス … 誓いを破った者を罰する、恐ろしい面。
このうち、民衆に近かったのがオルクスです。
墓の碑文や芝居の台詞に、この神の名で人が連れ去られる言い回しが繰り返し出てきます。
オルクスに引かれていった。
死ぬことを指す、日常の言い方でした。
エトルリアのタルクイニアには、この神の名を付けられた墓があります。壁には冥界の場面が描かれています。
牙と毛むくじゃらの姿で描かれることがあり、後世の物語に出る人食いの怪物の呼び名は、この神の名に由来するという説があります。
オルクスのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「オルクス」「オルコス」が使われます。
冥界そのものと、そこを治める神の両方を指す語です。ローマ人はこの二つを区別せずに使いました。
オルクスへ行く、と言えば死ぬことを意味した。
近代の物語に出る人食いの怪物の呼び名は、この神の名に由来するという説があります。
イタリア語の古い語形を経て、フランス語の物語に入り、そこから広まったという道筋です。ただし、確定した説ではありません。 ラテン語の別の語から来たとする見方もあります。
Orcus(オルクス)
ラテン語。冥界そのものと、そこを治める神の両方を指す。
Dis Pater(ディース・パテル)
「富める父」。冥界の神の別の呼び名。
Pluto(プルートー)
ギリシャ語由来の呼び名。穏やかな面を指す。
オルクスの物語
三つの名を持つ冥界 ─ 定まらない神
ローマの冥界の神は、一柱に定まっていません。
呼び名が三つあり、それぞれ性格が違います。
ディース・パテル(富める父)… 国家の祭祀で呼ばれる正式な名。
プルートー … ギリシャ語から入った名。穏やかな面。
オルクス … 罰する面。民衆の言葉。
ローマの国家祭祀では、ディース・パテルの名が使われました。世紀の祭で黒い獣を捧げる相手です。
一方、芝居や墓の碑文にはオルクスの名が出てきます。
公の言葉と、日常の言葉が違っていました。
なぜ「富める父」なのか。地の下からは穀物も金属も出てきます。死者を受け入れる場所が、同時に富を生む場所でもある。 ギリシャのハデスにも同じ考え方があります。
三つの名がどう関係するのか、ローマ人自身も整理していません。神を体系に整えることに、あまり関心がなかったためです。
エトルリアの墓 ─ 壁に描かれた冥界
ローマの北、タルクイニアには、彩色された墓が数多く残っています。
その一つが「オルクスの墓」と呼ばれます。
壁には、冥界の場面が描かれています。
宴の席に着く死者。
蛇を持つ女の悪霊。
槌を持ち、耳の尖った男の悪霊。
エトルリアの冥界は、ローマのそれよりはるかに具体的で恐ろしい姿をしています。
槌を持つ悪霊はカルン、あるいはトゥクルカと呼ばれます。この姿が、ローマのオルクスの図像に影響したとみられています。
牙を持ち、毛むくじゃらで、槌を手にする。
罰する神としてのオルクスの姿は、エトルリアから来た可能性があります。
タルクイニアの墓地は、いまも見学することができます。
誓いを破る者 ─ 何を罰する神か
オルクスは、誓いを破った者を罰する神とされました。
ローマの社会では、誓いが法より重い場面がありました。
神々を証人に立てて誓う。破れば神が罰する。
その罰を実行する側に、この神が置かれます。
ただし、この性格を伝える記録は多くありません。 後代の著述家がそう書いているだけで、共和政期の資料には乏しいものです。
はっきりしているのは、この神が「連れて行く」神だったことです。
芝居の台詞、墓の碑文、日常の言い回し。どれも、人が連れ去られる場面でこの名が出てきます。
姿も物語も持たないまま、名前だけが日常語として生き続けた神です。
ローマの神々のなかには、こうした形で残ったものが少なくありません。体系の中の位置ではなく、言葉の中の位置で生きています。
オルクスの家系図と家族
オルクスの性格と人物像
オルクスには、物語がありません。
恋も争いも、連れ去りの場面もありません。それらはすべてプルートーの側、つまりギリシャから入った物語に属します。
この神にあるのは、恐れだけです。
罰する者。連れて行く者。
ローマ人は、冥界の神の名を直接呼ぶことを避ける場面がありました。「あの神々」と婉曲に言うのです。
それでいて、芝居では気軽にこの名を使います。
恐れながら、日常語として使う。 死をめぐる言葉の扱い方は、どの文化でもこうした二面を持ちます。
牙と毛むくじゃらの姿は、後世の人食いの怪物の像につながったとされます。神が怪物になり、物語の中で生き延びました。
オルクスを祀った神殿と遺跡
オルクスを祀った神殿は、ローマには確かめられませんでした。
冥界の神には、原則として神殿を建てません。
地の下にいる神を、地の上に招かない。
代わりに用いられたのが、ムンドゥスと呼ばれる穴です。年に三度だけ蓋を開け、そのあいだは公の仕事をしてはならないとされました。
この穴の位置も特定されていません。
ここに挙げたのは、この神の図像に関わる墓地だけです。祀った場所ではありません。
タルクイニアの墓地(Necropolis Tarquiniensis)
「オルクスの墓」がある墓地
タルクイニアの墓地の住所: イタリア ラツィオ州 タルクイニア モンテロッツィの墓地(北緯42.2588 東経11.8015 の聖域に近接)
タルクイニアの墓地に残るもの: 彩色された地下の墓室
エトルリアの都市タルクイニアの墓地です。彩色された墓室が数多く残っています。
そのうちの一つが「オルクスの墓」と呼ばれます。壁に冥界の場面が描かれています。
槌を持つ悪霊カルンの姿が、ローマのオルクスの図像に影響したとみられています。
ここに挙げた座標は、同じ町の聖域アラ・デッラ・レジーナのものです。墓地はその近くにあります。
一部の墓室が公開されている。見学は時間が決められている。
オルクスが現代に残した痕跡
オルクスの名は、怪物の呼び名として残った可能性があります。
人食いの怪物の呼び名: 近代の物語に出る怪物の名は、この神の名に由来するという説がある。ただし確定した説ではない。
幻想文学の種族名: 20世紀の幻想文学が、この怪物の名を種族の名として用い、そこから広く定着した。
シャチの学名: シャチの学名に、冥界を意味するこの語が含まれる。
オルクスが司るもの
死者の受け入れ
冥界そのものを指す語でもあった。
誓いの守り
誓いを破った者を罰する神とされた。
地の下の富
ディース・パテル(富める父)の名は、地の下から出る富を指す。
オルクスが登場するゲーム・アニメ
この神が作品に出るのは、神としてではなく怪物の名としてです。
幻想文学の種族名として定着した。
もとがローマの冥界の神であることは、ほとんど意識されていません。
神の名が、まったく別のものの名として生き延びた例といえます。
オルクスが登場するゲーム・アニメ
幻想世界を舞台にした作品
この神の名に由来するとされる怪物の種族名が、広く用いられています。
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オルクスについてよくある質問
オルクスは何の神ですか。
冥界の神です。ローマの冥界の神には呼び名が三つあり、ディース・パテルは公の名、プルートーは穏やかな面、オルクスは罰する面を指しました。
オルクスの神殿はありますか。
確かめられませんでした。冥界の神には原則として神殿を建てません。代わりにムンドゥスと呼ばれる穴が年に三度だけ開かれましたが、位置は特定されていません。
幻想文学に出る怪物の名はこの神に由来しますか。
そういう説がありますが、確定していません。イタリア語の古い語形を経てフランス語の物語に入ったという道筋が唱えられています。
オルクスの墓とは何ですか。
イタリアのタルクイニアにあるエトルリアの墓です。壁に冥界の場面が描かれ、槌を持つ悪霊カルンの姿がローマのオルクスの図像に影響したとみられています。