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北欧神話

ディースとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Dísir  / ディース

大地 精霊

一族を守る女性の霊。名を持たないまま、もっとも熱心に祀られた。

ディースとは何の神様か

ディースはひとことで言えば一族につく女性の霊です。単数形が dís(ディース、「ご婦人」の意)、複数形がディーシル。日本語ではディースまたはディーシルと書かれます。

性格は一つに定まりません。同じ存在が、人を守ることも、人に牙を剥くこともあります。 味方するときは危機を夢で告げ、敵に回るときは死の前触れとして現れます。

よく知られているのは氏族の守護霊としての働きです。家に代々つき、その家の者を見守るとされました。

もとの姿は豊穣の女神だったと考えられています。根拠になるのが、ディーサブロートという実際に行われた祭りです。私的にも公的にも執り行われ、スウェーデンでは春先の市とともに長く続きました。

個々の名前はほとんど伝わりません。 語られるのはいつも複数形で、ひとまとまりの存在として現れます。

ディースの名前の表記と読み方

古ノルド語の dís は、もともと「ご婦人」を意味するふつうの語でした。それが霊的な存在を指す言葉としても使われるようになります。

女神の名にも入りこみました。フレイヤを指す呼び名の一つがヴァナディース、「ヴァン神族のディース」です。大女神の呼び名に使われるほど、この語の格は高いものでした。

西ゲルマンの古い呪文に Idisi という語が出てきます。捕らわれた者の縄をほどく女たちを指し、語のうえでも役どころのうえでもディースと結びつくとする研究者がいます。ただし大陸側の証拠は限られており、断定はされていません。

Dís(ディース)

古ノルド語の単数形。「ご婦人」を意味する語である。

Dísir(ディーシル)

複数形。原典ではほとんどこの形で現れる。

Dísablót(ディーサブロート)

ディースに捧げる犠牲祭の名。実際に行われた祭りである。

ディースの物語

  1. ひとまとめに語られる ─ 名を持たない霊
  2. ディーサブロート ─ 実際に行われた祭り
  3. もとは豊穣の女神か
  4. 死の前触れとして ─ 恐ろしい側面

ひとまとめに語られる ─ 名を持たない霊

北欧の原典で、ディースはほとんど複数形で現れます。個々の名前が挙がることはめったにありません。

しかも、いつも他の存在と並べて語られます。ワルキューレ、ノルンフュルギャ(人につく守り霊)、ヴェーッティル(土地の霊)。これらは原典で常にひとまとめに言及され、境目がはっきりしません。

そのため「ディースは女性の守り霊の総称ではないか」と考える研究者もいます。個別の一族ではなく、同じ働きをする存在をまとめて指す言葉だという見方です。

名前がないことは、この存在の欠点ではなく性質です。一族の背後にいて、名乗らないまま働きます。

ディーサブロート ─ 実際に行われた祭り

ディースは物語の中だけの存在ではありません。この霊に捧げる祭りが、実際に行われていました。

ディーサブロート(ディースの犠牲祭)といいます。家々で私的に行われる形と、共同体が公に行う形の両方がありました。

サガには、この祭りの最中に事件が起きる場面がいくつも出てきます。祭りが人の集まる場であり、政治の場でもあったことがうかがえます。

スウェーデンでは、この祭りが春先の大きな市と結びついて長く残りました。キリスト教が広まったあとも、市のほうは名前を変えて続いています。

信仰が消えても、人が集まる日付だけは残る。祭りというものの生き延び方が、よく出ている例です。

もとは豊穣の女神か

ディースが本来は豊穣の女神だったとする見方があります。

根拠は二つです。ひとつは、犠牲祭が行われる時期が農事の節目にあたること。もうひとつは、フレイヤの呼び名ヴァナディースのように、豊穣にかかわる女神とこの語が結びついていることです。

一方で、ディースへの崇敬は死者の霊への畏れから派生したとする説もあります。一族の先に死んだ女たちが、家を見守る存在になったという読み方です。

実りを願う気持ちと、死者を恐れる気持ちが、同じ存在の中で重なっている。 どちらが先かは決着していません。

家の暮らしに最も近い信仰だったからこそ、はっきりした形が残らなかったとも考えられます。

死の前触れとして ─ 恐ろしい側面

ディースは守るだけの存在ではありません。敵に回ることもあります。

サガには、旅立とうとする者の夢に女たちが現れ、行くなと告げる場面があります。従わなければ死にます。逆に、武器を持った女たちが自分に向かってくる夢は、その者の死の前触れとされました。

夢に女たちが現れ、抜き身の剣を手にして立っていた。

守り霊が牙を剥いた瞬間に、その者の命運は決まっています。 これはワルキューレの働きとほとんど区別がつきません。

味方でも敵でもありうる、というより、その家の運命を告げる存在だったと考えるのが近いでしょう。告げられる内容が、そのまま吉にも凶にもなります。

ディースの家系図と家族

ディースの性格と人物像

ディースは、輪郭を持たない守り手です。

個々の名前がなく、姿の描写もなく、単独の物語もありません。それでいて、北欧の人々がもっとも身近に祀っていた存在の一つでした。大きな神殿の神ではなく、家と一族の神です。

名の知れた神より、名の無い霊のほうが熱心に祀られていた。 この逆転は、北欧の信仰を考えるうえで見落とせません。

そして、優しいだけではありません。守ると同時に見放し、告げると同時に決めてしまう。運命を握っている相手は、必ずしも味方ではない。

ワルキューレとも、ノルンとも、区別がつかないまま語られ続けました。その境目のなさこそが、この存在の本当の姿だったのかもしれません。

ディースゆかりの地と遺跡

ディースを祀った建物は見つかっていません。 祭りは家々で行われ、専用の社を必要としなかったと考えられます。

かわりに残ったのが祭りの名前と場所です。スウェーデンのウプサラでは、ディーサ祭と呼ばれる春の集まりが長く続きました。犠牲祭そのものは消えても、人が集まる日付と場所は残っています。

個々の家で行われた祭りの痕跡は、性質上ほとんど残りません。もっとも広く行われた信仰が、もっとも証拠を残さないという、よくある形です。

ガムラ・ウプサラの王塚(Gamla Uppsala högar)

古い北欧の祭祀の中心地

地図で開く

ガムラ・ウプサラの王塚の住所: スウェーデン ウプサラ県ウプサラ市ガムラ・ウプサラ

ガムラ・ウプサラの王塚に残るもの: 大型の墳丘墓と祭祀の跡

スウェーデンの古い信仰の中心地です。大きな墳丘墓が並び、周辺から祭祀にかかわる遺構が見つかっています。

この地では、ディーサ祭と呼ばれる春の集まりが長く続きました。ディーサブロートの流れを汲むものとされ、市と裁きの場を兼ねていました。 祭りの名は、キリスト教が広まったあとも地域の年中行事として残っています。

ディースそのものを祀った建物が確かめられているわけではありません。祭りの名前と場所が結びついているという関係です。

屋外の遺跡群で、いまも見学できる。

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ディースが現代に残した痕跡

この存在の名は、祭りの名と、女神の呼び名の中に残りました。

ディーサ祭と春の市: スウェーデンのウプサラで続いた春の集まり。ディーサブロートの流れを汲むとされ、市と裁きの場を兼ねていた。

ヴァナディースという呼び名: 女神フレイヤを指す呼び名の一つで、「ヴァン神族のディース」を意味する。この語の格の高さを示す。

西ゲルマンの Idisi: 古い呪文に出てくる女たちを指す語。捕らわれた者の縄をほどく働きが、ディースと結びつくとする見方がある。

ディースが司るもの

守護

一族につき、その家の者を見守る守護霊として祀られた。

豊穣

本来は豊穣の女神だったとする見方があり、犠牲祭も農事の節目に行われた。

予知

夢や幻に現れて、その家の者の行く末を告げる働きを持つ。

ディースについてよくある質問

ディースとは何ですか。

運命にかかわる女性の霊です。とくに氏族の守護霊として働き、その家の者を守るとされました。人に味方することも、敵に回ることもあります。

ワルキューレやノルンとどう違いますか。

はっきりした区別がありません。原典では常にひとまとめに語られるため、ディースを女性の守り霊の総称とみる研究者もいます。

ディーサブロートとは何ですか。

ディースに捧げる犠牲祭です。家々で私的に行う形と、共同体が公に行う形の両方があり、スウェーデンでは春の市と結びついて長く続きました。

ディースに個別の名前はありますか。

ほとんど伝わっていません。原典は複数形で語ることが多く、ひとまとまりの存在として扱われます。

ディースと併せて覚えたい言葉・用語

ヴァン神族(ヴぁんしんぞく)

豊穣と富を担う神々の一族。アース神族と戦って和睦し、ニョルズ・フレイ・フレイヤが人質としてアースガルズへ渡った。