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北欧神話

オーズとは何の神様か|家系図・物語

Óðr  / オーズ

アース神族

フレイヤの夫。旅に出たきり帰らず、探す妻の涙は黄金になった。

オーズとは何の神様か

オーズはひとことで言えば帰ってこない夫です。愛の女神フレイヤの夫で、名は「激情」を意味します。

この神について語られることは、驚くほど少ないものです。名前は繰り返し現れます。古エッダ『巫女の予言』では、フレイヤが「オーズの妻」と呼ばれます。

しかし、自身の活躍は語られず、ラグナロクでどうなったかもわかっていません。 姿の描写もありません。

伝わっているのは、ひとつの筋だけです。しばしば長旅に出たこの神が、あるときいつまでも帰らなかった。 フレイヤは夫を恋しがって世界中を探し歩き、行く先々で別の名を名乗りました。

そのとき流した涙が黄金となって少しずつ大地に染みこんだため、黄金は「マルデルの涙」とも呼ばれます。

主神オーディンと名も性格も重なるため、同じ神の別の姿ではないかと考える研究者もいます。

オーズの名前の表記と読み方

古ノルド語では Óðr(オーズ)。日本語ではオズル、オーズル、オード、オデル、オヅルと、実にさまざまに書かれます。

名は「激情」を意味します。同時にこの語は、詩の霊感、憑かれたような高ぶりも表します。主神Óðinn(オーディン)の名は、この語から作られています。

二つの名の関係は、単なる似寄りではありません。オーディンの名は「オーズを持つ者」ほどの成り立ちだとされ、語としては親子のような関係にあります。

妻の名にも同じ形があります。フレイヤの別名フリーンと、オーディンの妻フリッグも近い形です。二組の夫婦の名が、そろって重なっていることになります。

Óðr(オーズ)

古ノルド語の表記。「激情」を意味する。オズル、オーズル、オード、オデル、オヅルとも書かれる。

Óðinn(オーディン)

主神の名。同じ語根から作られており、同一起源とする説がある。

Mardöll(マルデル)

フレイヤが夫を探す旅で名乗った別名のひとつ。黄金を指す「マルデルの涙」の由来。

オーズの物語

  1. 名前だけの神 ─ 何が書かれていないか
  2. 帰らない旅 ─ 黄金になった涙
  3. 見つけた話 ─ 花の咲く帰り道
  4. オーディンと同じ神か

名前だけの神 ─ 何が書かれていないか

この神について、原典が書いていることを数えてみます。

『巫女の予言』では、フレイヤが「オーズの妻」と呼ばれます。続柄だけです。

『ヒュンドラの歌』では、女巨人ヒュンドラがフレイヤを皮肉る場面に名が出ます。いつもオーズに欲情して追いかけていたが、その前掛けの下にはたくさんの男がもぐり込んだ、という言い方です。ここでもフレイヤを責める材料として名が使われています。

出自は書かれていません。何を司るのかも、どこに住むのかも、誰の子なのかも書かれていません。ラグナロクでどうなったかさえ、伝わっていません。

北欧神話には記録の乏しい神が多くいますが、妻がこれほど有名なのに本人がこれほど不明という例は、他にありません。

帰らない旅 ─ 黄金になった涙

唯一まとまって伝わるのが、この筋です。

この神はしばしば長旅に出ました。あるとき、いつまでも帰ってきません。

フレイヤは夫を恋しがり、世界中を探して歩きました。 行く先々で別の名を名乗ります。マルデルヘルンゲヴンスュール。フレイヤに別名が多いのは、この旅のためだとされます。

そして、探しながら流した涙が黄金に変わり、少しずつ大地に染みこみました。黄金が世界中で少しずつ産出されるのは、そのためだと語られます。

この涙から、黄金を指す言い換え「マルデルの涙」が生まれました。

『エッダ』は、夫と出会えたかを書いていません。探しに出たところで話が終わっています。

見つけた話 ─ 花の咲く帰り道

別の伝えでは、続きがあります。

フレイヤは南の国で夫を見つけました。天人花の咲くなかに、放心して座りこんでいたといいます。

呼びかけると、この神は正気を取り戻しました。

二人は連れ立って帰ります。そのときの描写が印象に残ります。

二人が一歩ずつ進むにつれて、それまで枯れていた大地に花が咲いていった。

妻の不在によって枯れていた大地が、二人の歩みとともによみがえります。

愛の女神が地上を離れているあいだ、実りが止まる。豊穣の神が去ると世界が枯れるという筋は、他の神話にも見られる型です。この神の失踪は、その型に当てはめて読むことができます。

二人の娘にフノスゲルセミがいます。どちらもあまりに美しく、北欧では美しいものをこの二人の名で呼んだと伝えられます。

オーディンと同じ神か

この神をめぐる最大の論点は、主神オーディンとの関係です。

共通点が多すぎます。

第一に、名が似ています。 オーディンの名は、この神の名から作られています。

第二に、妻の名も似ています。 フレイヤの別名フリーンと、オーディンの妻フリッグ。

第三に、どちらもよく旅に出ます。 オーディンは正体を隠して世界を歩き回る神です。

第四に、戦死者の分配です。戦死者の半分はオーディンのものになりますが、残りの半分を持っていくのは妻のフリッグではなく、フレイヤです。夫婦の組み合わせが、ずれています。

ここから、オーディンとフリッグが、かつてオーズとフレイヤという名で信仰されていた時期があったのではないか、あるいはそれぞれの若い時代の名ではないか、と考える研究者もいます。

決着はついていません。本書は別に立てたうえで、同一とする説を関係図に残しています。

オーズの家系図と家族

オーズの妻・夫: フレイヤ

オーズの性格と人物像

オーズは、不在によって形をなす神です。

言葉も、行いも、姿も伝わっていません。この神について語れることは、いなくなったことだけです。

それでいて、その不在が神話に大きな跡を残しています。フレイヤの別名の多さも、黄金が世界中に少しずつあることも、この神が帰らなかったせいだと説明されます。

何もしていないのに、世界のあり方をひとつ決めている神です。

名が「激情」であることは、皮肉に響きます。激しく高ぶるという意味の名を持ちながら、この神が高ぶった場面は伝わっていません。高ぶったのは、探し歩いた妻のほうです。

南の国で放心して座りこんでいたという伝えも、奇妙な余韻を残します。帰らなかったのではなく、帰れなくなっていた。 そう読むと、この神の像は少しだけ人間に近づきます。

オーズゆかりの地と遺跡

この神を祀った建物は見つかっていません。 北欧神話の神には現役の信仰が無く、社そのものがほとんど残っていないためです。

名を含む地名の報告も、いまのところ確かめられていません。主神オーディンの名を含む地名がデンマークのオーデンセをはじめ各地にあるのに対し、この名の例は乏しいのが実情です。

同一とする説に従うなら、オーディンに関わる場所が間接的なゆかりの地ということになります。ただしこれは推測にもとづくため、欄には挙げていません。

オーズが現代に残した痕跡

この神の名は、黄金を指す言い回しと、名前の研究のなかに残りました。

「マルデルの涙」: 黄金を指す詩の言い換え。夫を探して歩いたフレイヤが流した涙が黄金になったという話にもとづく。黄金が世界中で少しずつ産出される理由の説明にもなっている。

オーディンの名の語源: 主神オーディンの名は、この神の名と同じ語から作られている。「オーズを持つ者」ほどの成り立ちだとされ、二つの名の関係が研究され続けている。

フレイヤの別名の多さ: マルデル、ヘルン、ゲヴン、スュール。フレイヤに別名が多いのは、夫を探して各地を回ったときに名乗ったためだとされる。

オーズが司るもの

しばしば長旅に出た神として語られる。

世界中を探し歩いた妻フレイヤとの物語で知られる。

金運

フレイヤが流した涙が黄金になったと語られる。

オーズについてよくある質問

オーズとは誰ですか。

北欧神話の神で、愛の女神フレイヤの夫です。名は「激情」を意味します。ほとんど名前だけが伝わっており、活躍は語られていません。

オーズはどこへ行ったのですか。

しばしば長旅に出た末、あるときいつまでも帰りませんでした。フレイヤは世界中を探し歩き、そのとき流した涙が黄金になったと語られます。

オーズとオーディンは同じ神ですか。

同じではないかとする説があります。名が同じ語根で、妻の名も似ており、どちらもよく旅に出るためです。ただし原典が同一だと書いているわけではありません。

オーズの子はいますか。

フレイヤとのあいだに娘フノスがいます。『ユングリング家のサガ』はもう一人の娘ゲルセミを挙げます。どちらも美しさの代名詞として名が使われました。

オーズと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。