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北欧神話

ゲフィオンとは何の神様か|家系図・物語

Gefjon  / ゲフィオン

大地 アース神族

四頭の牛に大地を鋤かせ、島をひとつ作った女神。

ゲフィオンとは何の神様か

ゲフィオンはひとことで言えば土地を作った女神です。アース神族の一柱で、ゲヴィオン、ゲフュンとも書かれます。

この女神の話は、北欧神話のなかで地形の由来を語る数少ない筋です。スウェーデンのギュルヴィ王から「四頭の牛が一昼夜で鋤いた土地を与えよう」と持ちかけられ、その言葉どおりに動きました。

用意したのは、自分が巨人との間にもうけた四人の息子です。息子たちを巨大な牛に変えて犂をつけ、大地をまるごと鋤き取らせました。 運ばれた土は西の海で島になり、えぐられた跡は湖になります。

もうひとつの顔もあります。『ロキの口論』で、主神オーディンはこの女神を人間の運命をすべて知っている者と呼びました。運命を知りながら口にしない、という点でフリッグと重なります。

『ギュルヴィたぶらかし』第35章では処女神とされ、処女のまま死んだ女性はこの女神のもとへ行くと記されます。

ゲフィオンの名前の表記と読み方

古ノルド語では Gefjon(ゲフィオン)。写本によってゲフユンとも綴られ、日本語ではゲフィオン、ゲフュン、ゲヴィオンなどと書き分けられます。

名は「与える者」に通じるとされます。豊かさを与える女神という性格に合う読み方です。

ここで問題になるのが、フレイヤの別名「ゲヴン」との近さです。 音が近いうえ、フレイヤが戦死者の半分を迎えるのに対し、この女神のもとへは死んだ女性が召されるという共通点もあります。そのためフレイヤの別名にすぎないとみる説と、シェラン島で篤く崇められた別の女神とみる説が並んで立てられてきました。

Gefjon(ゲフィオン)

古ノルド語の表記。もっとも一般的な綴り。

Gefjun(ゲフユン)

写本によって現れる別綴り。

Gefn(ゲヴン)

愛の女神フレイヤの別名。名が近いため、両者を同一視する説の根拠にされる。

ゲフィオンの物語

  1. 四頭の牛 ─ 島がひとつできる
  2. 運命を知る女神 ─ 語らない知
  3. 処女神 ─ 死んだ女性が向かう先
  4. デンマーク王家との縁

四頭の牛 ─ 島がひとつできる

『ギュルヴィたぶらかし』の冒頭に置かれた話です。

スウェーデンの王ギュルヴィのもとに、一人の旅の女が訪れました。王は褒美として、こう持ちかけます。

四頭の牛が一昼夜で鋤いた土地を与えよう。

女は実はゲフィオンでした。巨人の男との間にもうけた四人の息子を巨大な牛に変え、犂をつけて大地を鋤かせます。

鋤き取られた大量の土は海へ運ばれ、西の海に新しい島ができました。 島の名はセールンド、いまのシェラン島です。デンマークの首都コペンハーゲンが置かれている島にあたります。

えぐられた跡には水がたまり、湖になりました。スウェーデンのメーラレン湖です。島の岬の形と、湖の入り江の形はよく似ていると語り継がれてきました。

運命を知る女神 ─ 語らない知

古エッダ『ロキの口論』第21節で、主神オーディンがこの女神についてこう言います。人間の運命をすべて知っている、と。

同じ性格を与えられている女神がもう一柱います。オーディンの妻フリッグです。すべてを知りながら決して語らない。北欧神話の女神には、この形がしばしば現れます。

ただし同じ詩のなかで、この女神は手ひどい扱いも受けています。ロキの暴言を諫めようとしたところ、首飾りをもらった男と関係を持ったと暴かれるのです。

知恵の女神として立てられ、同じ詩のなかで貶められる。 『ロキの口論』は居並ぶ神々の秘密をひとつずつ暴いていく詩であり、この女神も例外ではありませんでした。

処女神 ─ 死んだ女性が向かう先

『ギュルヴィたぶらかし』第35章は、十数柱の女神を順に挙げていきます。この女神は四番目に置かれました。フレイヤは六番目です。

そこにこう記されます。この女神は処女であり、処女のまま死んだ女性はこの女神のもとへ行くと。

戦って死んだ男がオーディンとフレイヤに分けられるように、女にも行き先が用意されている。死後の行き先が身分や生き方で分かれるという考えが、この神話には一貫しています。

ただし、四頭の牛は自分が巨人との間にもうけた息子でした。処女神という記述と、子がいるという話は、そのままでは重なりません。同じ本のなかで食い違いが残されているのが、この女神の資料の実情です。

デンマーク王家との縁

『ユングリング家のサガ』第5章は、この女神のその後を伝えます。

オーディンの息子スキョルドと結婚し、フレイズラ、いまのレイレで暮らしたというのです。レイレはシェラン島にある土地で、デンマークの古い王家ゆかりの地とされてきました。

つまりこの女神は、自分が作った島に住みついたことになります。

島を作った話と、王家の祖先につながる話。この二つが結びつくことで、デンマークという国土そのものの由来譚になっています。 神話が土地の来歴を説明する役目を負っていた、よい例です。

ゲフィオンの家系図と家族

ゲフィオンの性格と人物像

ゲフィオンは、約束の言葉を額面どおりに実行する女神です。

「四頭の牛が一昼夜で鋤いた土地」と言われれば、その四頭を巨大な牛に仕立てて、島がひとつできるほど鋤かせる。言われたとおりにやって、言った側の想定を粉々にする。 ずるいというより、言葉に忠実です。

運命をすべて知っているとオーディンに言わせながら、それを語る場面はありません。知は蓄えられるだけで、使われない。北欧神話の女神は、力を持ちながら黙っている形で描かれることが多くあります。

『ロキの口論』では、諫めようとして逆に恥をかかされました。それでも詩のなかで最初にロキを咎めたのは、この女神です。

気づいたことを黙って実行する。 目立たないが、動くときは大きい女神でした。

ゲフィオンゆかりの地と遺跡

この女神を祀った社や神殿は、いまのところ確認されていません。 北欧神話には現役の信仰がなく、建物もほとんど残っていないためです。

ゆかりの土地として語られるのは、デンマークのシェラン島と、スウェーデンのメーラレン湖です。前者はこの女神が作った島、後者はその跡にできた湖とされます。あわせて『ユングリング家のサガ』は、この女神がシェラン島のレイレに住んだと伝えます。いずれも物語のうえでの結びつきで、遺跡として確かめられたものではありません。

ゲフィオンが現代に残した痕跡

この女神の名は、デンマークの地形と、首都の風景のなかに残っています。

ゲフィオン噴水: コペンハーゲンの港の近くにある大噴水。四頭の牛に犂を引かせる女神の像を備え、この神話を主題にしている。

シェラン島とメーラレン湖: 鋤き取られてできた島と、えぐられた跡にできた湖として語られる。岬と入り江の形が似ていることが、話の裏づけとして語り継がれてきた。

小惑星ゲフィオン: 小惑星の一つ(1272)に、この女神の名が付けられている。

ゲフィオンが司るもの

豊穣

牛と犂で大地を鋤き、実る土地を生み出した女神であることによる。

大地

島と湖という地形そのものを作ったと語られる。

予知

人間の運命をすべて知っている女神とオーディンに呼ばれた。

ゲフィオンについてよくある質問

ゲフィオンは何の女神ですか。

アース神族の女神で、大地と豊かさに結びつけられます。四頭の牛に大地を鋤かせて島を作った話でよく知られ、人間の運命をすべて知っているとも言われます。

ゲフィオンが作った島はどこですか。

デンマークのシェラン島とされます。コペンハーゲンがある島です。鋤き取られた跡はスウェーデンのメーラレン湖になったと語られます。

フレイヤと同じ女神なのですか。

定まっていません。フレイヤの別名「ゲヴン」と音が近く、死んだ女性を迎える点も共通するため同一視する説があります。一方でシェラン島で崇められた別の女神とみる説もあります。

処女神なのに子どもがいるのはなぜですか。

同じ新エッダのなかで、処女神という記述と、巨人との間に四人の息子をもうけたという記述が並んでいます。食い違いは解消されないまま残されています。

ゲフィオンと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。