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北欧神話

ギュルヴィとは何の神様か|家系図・物語

Gylfi  / ギュルヴィ

大地 人間

スウェーデンの伝説の王。神々に問い、北欧神話を聞き出した人。

ギュルヴィとは何の神様か

ギュルヴィはひとことで言えば質問した人です。スウェーデン最古の王とされますが、実在の人物ではないと考えられています。

この名が広く知られているのは、新エッダ第一部の題が『ギュルヴィたぶらかし』だからです。ギュルヴィはガングレリと名を偽ってアース神族の館へ入り、高座に並ぶ三人へ次々と問いを発しました。

世界はどう始まったのか。神々には誰がいるのか。終わりはどう来るのか。いま私たちが読む北欧神話の骨格は、この王の質問への答えとして書かれています。

もう一つ、有名な挿話があります。旅の女に土地を与えると持ちかけたところ、相手は女神ゲフィオンでした。その一晩で、島が一つできてしまいます。

ギュルヴィの名前の表記と読み方

古ノルド語では Gylfi(ギュルヴィ)。Gylfe、Gylvi、Gylve など綴りに揺れがあります。

重要なのは、この王が名乗った偽名ガングレリ(Gangleri)です。「旅に疲れた者」ほどの意で、同じ名をオーディンも別の場面で名乗っています。 素性を隠して訪ねてくる者の名として、使い回されていたことがわかります。

書名の『ギュルヴィたぶらかし』も、そのまま読むと意味が重くなります。「たぶらかし」とあるとおり、この王は神々にまんまと欺かれる筋になっています。北欧神話の入門書が、はじめから「これは騙しである」と名乗っているわけです。

Gylfi(ギュルヴィ)

古ノルド語の表記。ギュルヴェ、ギュルヴィとも書かれる。

Gangleri(ガングレリ)

ギュルヴィがアースガルズで名乗った偽名。「旅に疲れた者」ほどの意。

Gylfaginning(ギュルヴァギンニング)

新エッダ第一部の原題。「ギュルヴィたぶらかし」と訳される。

ギュルヴィの物語

  1. 一晩で島ができる ─ ゲフィオンとの取引
  2. アースガルズへ ─ 三人の高座
  3. たぶらかし ─ 広間が消える
  4. 王としてのギュルヴィ ─ 神話と歴史のあいだ

一晩で島ができる ─ ゲフィオンとの取引

ギュルヴィのもとへ、旅の女が訪ねてきました。王は褒美として、四頭の牛が一昼夜で鋤いた広さの土地を与えると持ちかけます。

相手は女神ゲフィオンでした。ゲフィオンはヨトゥンヘイムへ行き、巨人とのあいだにもうけた四人の息子を牡牛に変えます。

四頭は犂をつけ、島をつくるのに十分な土砂を鋤き取って海へ運びました。

こうして西の海にできたのがデンマークのシェラン島、えぐられた跡がスウェーデンのメーラレン湖だとされます。島の岬と湖の地形はよく似ていると、古くから語り継がれてきました。

アースガルズへ ─ 三人の高座

ギュルヴィは、アース神族がなぜこれほど強いのかを確かめようとしました。ガングレリと名を偽り、老人の姿で旅立ちます。

通されたのは、三つの高座が縦に並ぶ広間でした。座っているのはハール(高き者)、ヤヴンハール(同じく高き者)、スリジ(第三の者)。

王は問いを重ねます。最も高貴な神は誰か。世界はどう始まったか。虹の橋とは何か。終末には何が起こるか。答えるほうも隠しません。問われれば、順に語ります。

三人の名がいずれもオーディンの別名であることに、読者は途中で気づきます。王は、一柱の神と三通りに話していたことになります。

たぶらかし ─ 広間が消える

問答の終わりは唐突です。ラグナロクのあとの新しい世界まで語り終えたところで、ギュルヴィは大きな物音を聞きます。

見回すと、広間も高座も三人の姿も、跡形なく消えていました。 王は自分の国へ帰り、聞いた話を人々に語り伝えます。

この結末が、書名の「たぶらかし」の中身です。神話を教えられたのではなく、幻を見せられたのだと種明かしされます。

スノッリがこの枠を用意した理由は、はっきりしています。キリスト教の時代に、異教の神々の話を書き残すためです。「これは騙されただけの話です」という体裁が、書物を守りました。

王としてのギュルヴィ ─ 神話と歴史のあいだ

『ユングリング家のサガ』は、この王を歴史の側から書きます。

そこでのオーディンは、東方から移ってきた首領です。ギュルヴィは魔法で争いますが、常にアース神族の側が勝ち、かなわないと悟って和睦します。 オーディンはメーラレン湖のほとりに土地を得て、そこをシグトゥーナと名づけました。

ギュルヴィから続く四世紀から五世紀ごろまでのスウェーデン王は、多くが神話伝説上の存在と考えられています。

ただし、王という制度そのものは古くからありました。スヴェーア人とその王は、九十八年という早い時期に記録されています。 伝説の王の列の背後に、実在の王がいたことは間違いないとみられています。

ギュルヴィの家系図と家族

ギュルヴィの性格と人物像

ギュルヴィは、知りたがった人です。

王でありながら、素性を隠して老人の姿で旅に出ます。相手が敵かもしれない神々であることも承知のうえで、広間に入り、問いを重ねました。恐れよりも、知りたさが勝っています。

ゲフィオンとの取引を見ると、この王は損得に鈍いわけでもありません。四頭の牛が一晩で鋤ける広さ、という条件は、ふつうなら安く済むはずでした。相手が女神だったのが誤算です。

二度とも、この王は上手をいかれています。 島は持っていかれ、神話は幻として消えます。

それでも聞いた話は残りました。騙された者が持ち帰った話が、いま読まれている北欧神話です。 そう考えると、この王の役どころは決して負けではありません。

ギュルヴィゆかりの地と遺跡

ギュルヴィを祀った場所は見つかっていません。 実在の人物ではないと考えられており、墓も社も伝えられていません。

名の結びついた土地はあります。ゲフィオンが土砂を運んでできたとされるシェラン島(デンマーク)と、えぐられた跡とされるメーラレン湖(スウェーデン)です。ただしこれは物語が土地の成り立ちを説明したものであって、この王をそこで祀った記録ではありません。

ギュルヴィが現代に残した痕跡

この王の名は、書名と、地形をめぐる言い伝えのなかに残りました。

『ギュルヴィたぶらかし』: 新エッダ第一部の題。この王が神々に問い、答えを聞き出す形で北欧神話の全体が語られる。

シェラン島とメーラレン湖: ゲフィオンが鋤き取った土砂で島ができ、その跡が湖になったとされる。岬と湖の地形が似ていることが古くから語られてきた。

ゲフィオンの噴水: この伝説を記念して一九〇八年に制作された彫刻。デンマークの首都コペンハーゲンにあり、四頭の牛と女神が犂を引く姿を表している。

ギュルヴィが司るもの

学問

神々に問いを重ね、その答えを国へ持ち帰った王として語られる。

知恵

素性を隠して敵地へ入り、知りたいことを聞き出した振る舞いによる。

土地

女神ゲフィオンとの取引が、島と湖の成り立ちとして語り継がれてきた。

ギュルヴィについてよくある質問

ギュルヴィは実在の王ですか。

実在の人物ではないと考えられています。スウェーデン最古の王とされますが、そこから四世紀から五世紀ごろまでの王は多くが神話伝説上の存在とみられています。

『ギュルヴィたぶらかし』とはどういう意味ですか。

新エッダ第一部の題です。ギュルヴィが神々に問答をいどみ、最後に広間ごと幻が消えて、欺かれていたと明かされる筋によります。

ギュルヴィが名乗った偽名は何ですか。

ガングレリです。「旅に疲れた者」ほどの意で、同じ名をオーディンも別の場面で名乗っています。

シェラン島はなぜギュルヴィと関係があるのですか。

四頭の牛が一昼夜で鋤いた広さの土地を与えると持ちかけた相手が女神ゲフィオンで、鋤き取られた土砂が海へ運ばれて島になったと語られるためです。

ギュルヴィと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。