光の神。宿り木の一撃で死に、終末の始まりとなる。

エミール・デプラー 「バルドルの死」 / パブリックドメイン 出典
バルドルとは何の神様か
バルドルの名前の表記と読み方
古ノルド語では Baldr。語源には「主(lord)」とする説と「白い・輝く」とする説があります。
古英語の bealdor(主・君主)と同語源とされ、英語の bold(大胆な)とも関わりがあるとする見方もあります。
Baldr(バルドル)
古ノルド語の表記。語源は「主」または「輝く」に通じるとされる。
Balder(バルデル)
デンマーク語・英語圏での綴り。
Bealdor(ベアルドル)
古英語で「主・君主」を意味する語。同語源とされる。
バルドルの物語
死の夢を見る
ある夜、バルドルは自分が死ぬ夢を繰り返し見ました。
神々はこれを重く受け止めます。オーディンは自ら馬を駆って死者の国へ下り、古い巫女を呪文で呼び起こして問いました。
なぜヘルの館が飾り立てられ、蜜酒が用意されているのか。
巫女は答えます。
バルドルを待っているのだ。
予言はすでに確定していました。
万物に誓わせる ─ ただ一つを除いて
母フリッグは、息子を守るために動きました。
火にも水にも、鉄にもあらゆる金属にも、石にも大地にも、木にも病にも、獣にも鳥にも蛇にも、バルドルを傷つけないと誓わせた。
これによってバルドルは、何によっても傷つかない体になりました。
神々はこれを遊びにします。集会の場でバルドルを立たせ、石を投げ、矢を射り、剣で斬りつける。 すべて弾かれ、傷ひとつつきません。神々は笑って楽しみました。
しかしフリッグは、ひとつだけ誓わせていませんでした。
宿り木。 まだ幼すぎて、誓わせるまでもないと思ったのだ。
宿り木の一撃 ─ 弟の手によって
取り戻せなかった ─ 一人だけ泣かなかった者
神々は使者を死者の国へ送り、返還を求めました。
女王ヘルは条件を出します。
世界のあらゆるものが彼のために泣くなら、返そう。ひとつでも泣かぬものがあれば、彼はここに留まる。
神々は世界中に使者を出しました。人も、獣も、鳥も、石も、木も、金属さえも泣きました。
ただ一人、洞窟にいた老女だけが拒みます。
生きているうちも死んだあとも、彼から得たものは何もない。ヘルは持つものを持たせておけ。
その老女はロキでした。
バルドルは戻れませんでした。
遺体は船に載せられ、火をつけて海へ送り出されます。妻ナンナは悲しみのあまり胸が張り裂けて死に、同じ船で焼かれました。
そして戻る ─ 新しい世界の王
バルドルの死は、ラグナロクの引き金になりました。神々は最善を尽くして失敗し、ロキは縛られ、終末への流れが動き出します。
しかし物語はそこで終わりません。
世界が焼け落ち、海に沈み、やがて新しい大地が浮かび上がったとき──
バルドルとヘズが、ヘルの館から戻ってくる。 二柱は共に、かつてのアースガルズ?の跡に住まう。
殺された者と殺した者が、並んで戻ってきます。
そして新しい世界を治めるのは、この神です。
北欧神話が完全な悲劇に終わらないのは、この一点によります。
バルドルの家系図と家族
バルドルの性格と人物像
バルドルは、何もしないまま物語の中心にいる神です。
戦わず、旅もせず、事績と呼べる行動がありません。スノッリが記す「最も賢く、最も言葉が巧み」という評価も、具体的な場面が示されていません。
むしろ印象的なのは「その判決はどれも実現しない」という一文です。正しい判断を下しても、それが世界に届かない。善であることと、力を持つことは別だと言っているように読めます。
そして死に方も受け身です。守られ、遊びの的にされ、盲目の弟の手で倒れる。自分では何ひとつ選んでいません。
それでもこの神の死が終末を招き、この神の帰還が新しい世界を始めます。存在そのものが、世界の状態を示す指標になっています。
書物によってバルドルの記述が異なるところ
北欧神話は一冊にまとまっていません。バルドルについても、 書物によって記述が分かれる箇所が1件あります。 どちらか一方に決めず、両方を出典つきで載せています。
ヘズは騙されて兄バルドルを殺したのか、恋を争って討ったのか
新エッダ1220年頃
ギュルヴィたぶらかし 第49章
- ヘズ ─ 宿り木で射る ─ バルドル
ヘズは盲目の神であり、ロキに枝を握らされ、方向を教えられて投げた。殺意はなく、何を投げたかも知らなかったとされる。
デンマーク人の事績12世紀末
第3巻
- バルドル ─ 恋を争って討つ ─ ヘズ
デンマークの年代記『デンマーク人の事績』では、ヘズは盲目ではなく人間の英雄であり、バルドルとナンナという女性を巡って正面から戦い、勝って殺したとされる。エッダとはまったく別の話になっている。
バルドルゆかりの地と遺跡
バルドルを祀った神殿は見つかっていませんが、「バルドル」を含む地名がノルウェーとアイスランドに残されています。
またキリスト教への移行期の遺物に、この神の物語と結びつく図像が多く見られます。死んで蘇る神という構図が、キリスト教の受容と重ねられたためと考えられています。
バルダルスヘイムル(Baldursheimur)
神名を残す地名
バルダルスヘイムルの住所: アイスランド北部 ミーヴァトン湖周辺
バルダルスヘイムルに残るもの: 地名
「バルドルの住まい」を意味する地名です。アイスランドの入植期に名づけられたと考えられています。
19世紀にこの地の塚からヴァイキング時代の墓が発掘され、船の一部、武具、そしてセイウチの牙で作られた駒が出土しました。北欧最古級のボードゲームの駒として知られています。
出土品はレイキャビクのアイスランド国立博物館に収蔵されています。
ミーヴァトン湖周辺は火山地形の観光地としても知られる。
バルドルが現代に残した痕跡
バルドルの名は、植物の名として北欧の日常語に残っています。
Baldursbrá(バルドルの眉毛): アイスランド語・ノルウェー語でカミツレ(カモミール)を指す。白く輝く花びらが、この神の眉を思わせるとされた。北欧では今も日常的に使われる呼び名。
地名 Baldursheimur: アイスランド北部の地名。「バルドルの住まい」を意味する。
古英語 bealdor: 「主・君主」を意味する語で、バルドルと同語源とされる。
人名 Baldur・Balder: アイスランドやノルウェーで現在も使われる男性名。
バルドルが司るもの
光・美
光り輝く神とされることによる。
公正・調停
最も公正な判決を下す神とされたことによる。
再生
世界の再生とともに戻ってくる神であることによる。
バルドルが登場するゲーム・アニメ
バルドルが登場するゲーム
バルドルが登場するアニメ・漫画・音楽
北欧神話を扱った作品全般
その死が物語の転換点として描かれることが多くあります。
メタル音楽
北欧のメタルバンドがしばしば題材にします。バルドルの死とラグナロクは、この分野で繰り返し歌われる主題です。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
バルドルについてよくある質問
バルドルは何の神様ですか。
光と公正を象徴する神です。オーディンとフリッグの子で、もっとも愛された神とされます。
なぜ宿り木でだけ死んだのですか。
母フリッグが万物に「バルドルを傷つけない」と誓わせた際、宿り木だけを「まだ幼すぎる」として見落としたためです。
バルドルを殺したのは誰ですか。
直接投げたのは盲目の弟ヘズですが、宿り木の枝を渡して方向を教えたのはロキです。ヘズに悪意はありませんでした。
なぜバルドルは戻れなかったのですか。
死者の国の女王ヘルが「あらゆるものが泣くなら返す」と条件を出しましたが、老女に化けたロキだけが泣かなかったためです。
バルドルはラグナロクのあとどうなりますか。
世界が再生したあと、殺した弟ヘズとともに死者の国から戻ってきます。新しい世界を治めるのはこの神です。
バルドルと併せて覚えたい言葉・用語
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
アースガルズ(Ásgarðr)
アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。