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北欧神話

ナンナとは何の神様か|家系図・物語

Nanna  / ナンナ

大地 アース神族

バルドルの妻。夫の亡骸を前に、悲しみのあまり息絶えた女神。

ナンナとは何の神様か

ナンナはひとことで言えばバルドルの妻です。父はネプという神で、司法神フォルセティの母にあたります。夫とともにアースガルズの館ブレイザブリクに暮らしました。

この女神が神話に刻まれるのは、夫の死の場面です。ロキの企みでバルドルが倒れたとき、ナンナは悲しみに打ちのめされて、その場で息絶えました。

遺体は夫と並べて船フリングホルニの薪の上に置かれ、燃える船とともに海へ送り出されます。北欧神話でも屈指の場面ですが、その船に乗っているのは一人ではありません。

そして死者の国でも、二人は並んでいました。バルドルを取り戻しに来たヘルモーズは、高座に夫と並んで座るナンナを見ています。

ナンナの名前の表記と読み方

古ノルド語では Nanna(ナンナ)。日本語でもそのままナンナと書かれます。

名の語源は定まっていません。「母」に通じる幼児語だとする説、「大胆な者」に通じるとする説などが並びますが、決め手はありません。

父の名も揺れます。新エッダネプの娘とし、古エッダ『ヒュンドラの歌』はネクヴィの娘とします。ただし『ヒュンドラの歌』のほうは、女神ではなく人間の祖先を指している可能性が高いとされます。 同じ名でも別人かもしれない、という難しさがつきまといます。

Nanna(ナンナ)

古ノルド語の表記。語源は定まっていない。

Hringhorni(フリングホルニ)

バルドルとナンナが並べて置かれ、燃やされた船の名。

Nep(ネプ)

ナンナの父とされる神の名。ネクヴィとも伝えられる。

ナンナの物語

  1. ブレイザブリク ─ 夫と暮らした館
  2. 燃える船 ─ 二人で送られる
  3. 死者の国の高座 ─ 託した贈り物
  4. もう一つのナンナ ─ 恋敵の物語

ブレイザブリク ─ 夫と暮らした館

ナンナとバルドルが暮らしたのは、ブレイザブリクという館でした。名は「広い輝き」ほどの意です。

古エッダ『グリームニルの言葉』は、この館について変わった説明をします。そこには汚れたものが何ひとつ無い、と。

光の神の住まいにふさわしい描き方です。そしてその隣に、この女神が置かれています。

新エッダ『詩語法』では、海神エーギルのために開かれる晩餐を主催する八柱の女神の一人として名が挙がります。女神としての位置は、はっきり認められていました。

燃える船 ─ 二人で送られる

盲目のヘズが投げた宿り木の枝で、バルドルは倒れました。

神々は葬儀の支度をします。バルドルの船フリングホルニを海へ押し出そうとしましたが、動きません。女巨人ヒュロッキンが呼ばれ、ようやく動きました。

そこへ、ナンナが運ばれてきます。夫の亡骸を見て、悲しみのあまり息絶えたのです。 遺体は夫と並べて薪の上に置かれました。

火が放たれ、船は燃えながら海へ出ていきます。北欧の葬送を描いた最も有名な場面ですが、そこには夫婦二人が乗っています。 ナンナは殺されたのでも、あとを追って死を選んだのでもありません。ただ、耐えられなかったのです。

死者の国の高座 ─ 託した贈り物

物語には続きがあります。バルドルを取り戻しに、ヘルモーズが死者の国へ下りました。

ヘルの館に入ったヘルモーズが見たのは、高座に座るバルドルでした。そしてその隣に、ナンナが並んで座っていました。

二人は一晩を過ごしたヘルモーズに、地上への贈り物を託します。バルドルからは父オーディンへ腕輪ドラウプニル

ナンナからは、義母フリッグへの布と、女神フッラへの指輪でした。死者の国から、義理の母と、その侍女へ。この短い一行が、この女神の人柄をいちばんよく伝えています。

もう一つのナンナ ─ 恋敵の物語

サクソ・グラマティクスが書いたデンマークの歴史書『デンマーク人の事績』では、まったく別の話になります。

そこでのナンナは人間の女性です。そして人間の王ホテルス(ヘズにあたる)と半神バルデルス(バルドルにあたる)は、兄弟ではありません。

二人は、ナンナの愛をめぐって争う恋敵です。

エッダでは、ヘズは目が見えないままロキに枝を握らされた無実の弟でした。こちらでは、女をめぐって正面から戦う相手になります。

同じ三人が、書物によってまったく別の関係で描かれています。 北欧神話の伝承が一本道ではないことを、この食い違いはよく示しています。

ナンナの家系図と家族

ナンナの妻・夫: バルドル

ナンナの性格と人物像

ナンナは、台詞を持たない女神です。それでいて、読んだ人の記憶に残ります。

理由ははっきりしています。この女神は、死に方で語られているからです。 戦って死んだのでも、あとを追って自ら死を選んだのでもありません。夫の亡骸を見て、そのまま倒れました。

北欧神話には、意志の強い女性が数多く出てきます。ブリュンヒルドは裏切った男を殺させ、シグルーンは兄に呪いをかけました。ナンナはそのどちらでもありません。

ただ、死者の国での振る舞いには芯があります。夫が父へ贈り物を返す横で、この女神は義母とその侍女に品を託しました。取り戻せないと決まった場所から、生きている者へ気を配っています。

悲しみに耐えられなかった人が、最後に見せたのが心配りでした。

ナンナゆかりの地と遺跡

ナンナを祀った場所は見つかっていません。 神殿の記録も、この名を含む確かな地名も確認できていません。

夫と暮らした館ブレイザブリクは神話の中の場所で、実在の土地に当てられたことはありません。北欧の神で参拝できる社はほとんど残っていませんが、この女神についても信仰の痕跡は確認できていないのが実情です。

ナンナが現代に残した痕跡

この女神の名と場面は、書物と、近代以降の絵画のなかに残りました。

船フリングホルニ: バルドルとナンナが並べて置かれ、燃やされた船。北欧の船葬を描いた場面として最もよく知られる。

「ナンナの義母」: 『詩語法』が伝えるフリッグの言い換え。この女神を基準にして、主神の妻を呼ぶ形が使われていた。

『デンマーク人の事績』の恋敵譚: ナンナを人間の女性とし、バルデルスとホテルスをその愛をめぐる恋敵として描く。エッダとまったく異なる伝承。

ナンナが司るもの

夫婦

夫バルドルと死後も並んで座る姿で語られ、夫婦の縁の象徴とされてきた。

嘆き

夫の死に耐えられず、その場で息絶えたという物語による。

葬りの整え

燃える船フリングホルニで夫とともに送られた、北欧の葬送を代表する場面による。

ナンナについてよくある質問

ナンナは何の女神ですか。

司る領域ははっきりしていません。バルドルの妻であり、司法神フォルセティの母として語られます。

ナンナはなぜ死んだのですか。

夫バルドルの亡骸を前にして、悲しみに打ちのめされて息絶えたとされます。遺体は夫と並べて船に置かれ、ともに焼かれました。

ナンナの子どもは誰ですか。

司法神フォルセティです。正義と平和と真実を司り、その裁きを受けた者は判決に従うかぎり安全に生きられたとされます。

『デンマーク人の事績』のナンナは同じ人物ですか。

同じ名ですが、扱いがまったく違います。そこでのナンナは人間の女性で、バルデルスとホテルスは兄弟ではなく、彼女をめぐって争う恋敵として描かれます。

ナンナと併せて覚えたい言葉・用語

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。