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北欧神話

スキールニルとは何の神様か|家系図・物語

Skírnir  / スキールニル

大地 人間

フレイの使者。剣と引き換えに、巨人の娘への求婚を成し遂げた。

スキールニルとは何の神様か

スキールニルはひとことで言えば話をまとめてくる者です。豊穣神フレイの従者にして幼なじみ。名は「輝く者」を意味します。

神話に現れるのは二度。どちらも使者としてです。一度目はフレイの求婚のためヨトゥンヘイムへ、二度目はオーディンの命で小人の国へ。

この人物が動いた二回とも、北欧神話の行く末が変わっています。 求婚の礼にフレイの剣を受け取ったことが終末での敗因になり、小人に作らせた紐が狼フェンリルを縛りました。

何者なのかははっきりしません。ゲルズに「妖精か、アース神族か、賢いヴァン神族の子か」と問われ、そのいずれも否定しています。 おそらく人間だろうと考えられていますが、確かめられていません。

スキールニルの名前の表記と読み方

古ノルド語では Skírnir(スキールニル)。日本語ではスキルニル、スキルニールとも書かれます。

名は「輝く者」を意味します。skír は「澄んだ」「明るい」にあたる語です。仕える相手が光と実りの神フレイであることを考えると、主人の性質を分け持った名といえます。

この点をとらえて、松谷健二はスキールニルをフレイの分身だとし、『スキールニルの歌』の物語をにぎやかにするために作られた人物ではないかと考えました。主人が動けないあいだ、代わりに動く自分。 そう読むと、この人物の位置がわかりやすくなります。

Skírnir(スキールニル)

古ノルド語の表記。「輝く者」を意味する。

Skírnismál(スキールニスマール)

古エッダの一編『スキールニルの歌』の原題。この人物の名を冠している。

Gleipnir(グレイプニル)

スキールニルが小人に作らせて持ち帰った、フェンリルを縛る紐の名。

スキールニルの物語

  1. 高座から見えたもの ─ 遣わされるまで
  2. 贈り物から脅しへ ─ 求婚の三段構え
  3. 剣の代償 ─ ラグナロクへの伏線
  4. もう一つの使い ─ フェンリルを縛る紐

高座から見えたもの ─ 遣わされるまで

きっかけは、フレイがしてはいけないことをしたためでした。

オーディンの高座フリズスキャールヴに腰かけ、戯れに世界を見渡したのです。そこでヨトゥンヘイムのゲルズを見つけ、一目で心を奪われました。

フレイは食事も眠りもできなくなります。誰も声をかけられずにいたところ、遣わされたのがスキールニルでした。

動けなくなった神の代わりに、動く者が要る。 この物語は、そこから始まります。旅の危険を承知したスキールニルは、フレイのを貸してほしいと申し出ました。

贈り物から脅しへ ─ 求婚の三段構え

ゲルズの館を囲むのは、暗く揺らめく炎でした。スキールニルの馬はそれを越えられます。

交渉は三段構えでした。まず黄金の林檎を十一個。断られます。次にオーディンの腕輪ドラウプニル。これも断られます。

三つめが違いました。呪いのルーン文字を刻むと脅したのです。 独りきりで生きること、望まぬ相手のものになることなど、次々と呪いの中身を並べていきます。

ゲルズはついに折れ、「バリの森」で九夜のうちにフレイと会うことを承知しました。贈り物では動かなかった話が、脅しで動いています。 北欧神話でも読み手を落ち着かなくさせる場面です。

剣の代償 ─ ラグナロクへの伏線

旅から戻ったスキールニルは、フレイの剣を手にしたままでした。

新エッダギュルヴィたぶらかし』第37章は、これを褒美として与えられたと記します。古エッダ『スキールニルの歌』では、危険な旅のために貸してほしいと申し出て、フレイが快く承知したことになっています。

返したという話は、どちらにも出てきません。 このため、褒美として与えられたまま手元に残ったと考えられています。

結果は重大でした。ラグナロクの日、フレイは剣を持たないまま炎の巨人スルトと向き合い、鹿の角で戦って討たれます。恋のために手放した武器が、世界の終わりの勝敗を決めました。

もう一つの使い ─ フェンリルを縛る紐

この人物には、もう一つ大きな仕事があります。

新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』第34章によれば、オーディンに命じられて小人の国スヴァルトアールヴヘイムへ出向き、狼フェンリルを縛るための魔法の紐グレイプニルを作らせて持ち帰りました。

猫の足音、女の髭、山の根、熊の筋、魚の息、鳥の唾。この六つで編まれた紐です。

神々が世界を守るために打った最大の手を、実際に取りに行ったのはこの人物でした。 なお、この役をヘルモーズのものとする紹介もありますが、原典ではスキールニルとされています。

スキールニルの家系図と家族

スキールニルの性格と人物像

スキールニルは、主人のために手を汚す者です。

フレイは平和と実りの神で、争いを好みません。その神の望みを叶えるために、代わりに呪いを唱えたのがこの人物でした。主人が持てない残酷さを、従者が引き受けています。

見返りへの態度も特徴的です。旅立つ前に剣と馬を求め、それを最後まで手元に置きました。忠義一辺倒ではありません。

そして、その二回の働きがどちらも神話の骨格に食いこんでいます。フェンリルは縛られ、フレイは剣を失いました。

自分の物語は持たないのに、他人の運命は動かしている。 ラグナロクでこの人物がどうなったかは、まったく語られていません。

スキールニルゆかりの地と遺跡

スキールニルを祀った場所は見つかっていません。 神ではなく従者として語られる人物であり、信仰の対象になった記録もありません。

ゆかりの場所として名が挙がるのは、ゲルズと会う約束をした「バリの森」ですが、これは神話の中の地名です。「バリ」は大麦を意味する語が語源だろうと考えられており、実在の土地に当てられたことはありません。

スキールニルが現代に残した痕跡

この人物の名は、古エッダの一編の題として残りました。

『スキールニルの歌』: 古エッダの一編。この人物の名を題に冠しており、フレイの求婚の一部始終を伝える。

紐グレイプニル: スキールニルが小人に作らせて持ち帰った、フェンリルを縛る紐。猫の足音や山の根など、この世に無いもので編まれたとされる。

バリの森: ゲルズがフレイと会うことを承知した場所。「バリ」は大麦を指す語が語源とされ、豊穣の婚姻という読み方の根拠になっている。

スキールニルが司るもの

交渉

断られ続けた求婚を、最後にはまとめて帰ってきた役どころによる。

縁結び

フレイとゲルズの結婚を成立させた使者であることによる。

旅の安全

炎に囲まれた館へ、また小人の国へと、危険な旅を二度果たしている。

スキールニルについてよくある質問

スキールニルは神ですか。

はっきりしません。ゲルズに「妖精か、アース神族か、ヴァン神族の子か」と問われ、そのいずれも否定しています。おそらく人間だろうと考えられています。

スキールニルは何をした人物ですか。

フレイの使者として巨人の娘ゲルズへ求婚し、成功させました。もう一度、オーディンの命で小人にフェンリルを縛る紐グレイプニルを作らせています。

フレイの剣はどうなったのですか。

求婚の褒美としてスキールニルに与えられ、返された記録はありません。そのためフレイはラグナロクで剣を持たずにスルトと戦い、討たれます。

ラグナロクでスキールニルはどうなりましたか。

語られていません。終末の日にこの人物がどうなったかは、原典にまったく記されていません。

スキールニルと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

ヴァン神族(ヴぁんしんぞく)

豊穣と富を担う神々の一族。アース神族と戦って和睦し、ニョルズ・フレイ・フレイヤが人質としてアースガルズへ渡った。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

グレイプニル(Gleipnir)

フェンリルを縛った魔法の紐。猫の足音・女の髭・山の根・熊の腱・魚の息・鳥の唾という、この世に存在しない六つのもので作られている。