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北欧神話

ハティとは何の神様か|家系図・物語

Hati  / ハティ

巨人

月を追い続ける狼。名は「憎しみ」「敵」を意味する。

ハティとは何の神様か

ハティはひとことで言えば月を追う狼です。名は古ノルド語で「憎しみ」「敵」を意味します。

太陽を追うスコルと対になる存在で、こちらが追うのは月の神マーニです。マーニが急いで天を渡るのは、この狼から逃げているからだとされます。

新エッダギュルヴィたぶらかし』第12章は、この狼を「ハティ・フローズヴィトニルソン」と呼びます。フローズヴィトニルは狼フェンリルの別名で、つまりフェンリルの息子という意味になります。

月食は、この狼が月を捕らえたために起こると考えられました。そして終末の日、狼はとうとう月に追いつき、これに大きな損害を与えるとされます。

なお、同じく月を追う狼マーナガルムと同一視されることがあります。分けて数えるか一つにするかは、いまも決着していません。

ハティの名前の表記と読み方

古ノルド語では Hati(ハティ)。「憎しみ」「敵」を意味する語です。日本語ではハチと書かれることもあります。

二つ名のフローズヴィトニルソンは「フローズヴィトニルの息子」を意味します。フローズヴィトニルは「名高い狼」ほどの意味で、フェンリルを指す言い換えです。つまりこの狼は、名の中に父の名を抱えています。

兄にあたるスコルの名が「嘲るもの」であるのと並べると、二頭とも感情を表す語で名づけられていることがわかります。追いかけるという行いではなく、追いかける気分のほうに名が付いています。

Hati(ハティ)

古ノルド語の表記。「憎しみ」「敵」を意味する。

Hati Hróðvitnisson(ハティ・フローズヴィトニルソン)

新エッダ第12章の呼び名。「フローズヴィトニルの息子」の意で、フェンリルの子であることを示す。

Mánagarmr(マーナガルム)

「月の犬」の意。同じ狼だとする説がある一方、別の狼と見る立場もある。

ハティの物語

  1. 月を追う ─ 逃げ続ける神
  2. 月食 ─ 捕らえられた夜
  3. ラグナロク ─ 追いついた夜
  4. マーナガルムと同じ狼か ─ 分けて立てる理由

月を追う ─ 逃げ続ける神

北欧神話の月は、静かに満ち欠けしているのではありません。

月の神マーニは馬車を駆って天を渡ります。その理由がはっきり書かれています。新エッダはこう記します。

月は常にハティという狼に追いかけられているため、急いで運行しなければならない。

月の速さは、恐怖の速さです。 空の運行そのものが、追跡の結果として説明されています。

太陽についても同じ形が使われます。追う者がいるから天体が動く。北欧神話では、天の動きに理由が与えられており、その理由がどちらも狼です。

月食 ─ 捕らえられた夜

月が欠け、赤黒く濁って見える夜がありました。

人々はそれを、狼が月を捕らえたしるしと考えました。日食が太陽を追う狼の仕業とされたのと、まったく同じ組み立てです。

日食や月食を天の怪物の仕業とする話は世界各地にありますが、北欧からゲルマンの一帯では、その怪物にほぼ決まって狼が当てられます。

狼は当時の暮らしでもっとも身近な脅威でした。家畜を襲い、人を追う。空の異変を説明するとき、いちばん恐ろしいものの形が呼び出されたことになります。

ラグナロク ─ 追いついた夜

『ギュルヴィたぶらかし』第51章によれば、終末の日にこの狼はとうとう月に追いつきます。

言い回しに注意が要ります。原典は「呑みこんだ」とは書かず、大きな損害を与えると記します。太陽が呑まれるのに対し、月は損なわれる。少しだけ書き分けられています。

同じ章は、月を捕らえるのが「ハティ、もしくはマーナガルム」だとも書きます。終末の場面でさえ、原典は二頭のどちらなのかを決めていません。

星は空から落ち、大地は震え、あらゆる縛めが解けます。空の光がすべて消えたところから、神々と巨人の戦いが始まります。

マーナガルムと同じ狼か ─ 分けて立てる理由

本書はハティとマーナガルムを別の項目として立てています。理由を書いておきます。

第一に、原典が二つの名を別々に出しているからです。『ギュルヴィたぶらかし』は、鉄の森の狼たちを紹介する中で、月を追う狼をハティと呼び、一族で最強の狼をマーナガルムと呼びます。同じものだとは書いていません。

第二に、語られる内容が違うからです。ハティは月を追うだけですが、マーナガルムは死者の肉を腹に満たし、天と空に血を塗ります。働きの規模がまるで違います。

第三に、同一視そのものが後の解釈だからです。アクセル・オルリックは、マーナガルムをスノッリの読み違いから生まれた狼と論じました。同じだと決めてしまうと、この議論そのものが見えなくなります。

そのうえで、両者を結ぶ線は関係図に引いてあります。同じだとする説も、はっきり残しておくためです。

ハティの家系図と家族

ハティの親: フェンリル「フローズヴィトニルの息子」と呼ばれる

ハティのきょうだい: スコル鉄の森から出た狼どうし

ハティの性格と人物像

ハティは、役目だけでできた存在です。

言葉を発しません。誰とも取引せず、誰も裏切りません。生まれたときから月の後ろにいて、終末の日までそこにいます。

名が「憎しみ」であることは、少し立ち止まる価値があります。憎む理由は、どこにも書かれていません。 月が何かをしたわけではないからです。理由のない敵意が、名前として与えられています。

兄のスコルが「嘲るもの」であるのと合わせると、二頭は感情の名を負わされた自然現象だといえます。空の運行に、人が持て余す気分の名が貼られている。

止められないものという点では、この神話の狼はみな同じです。縛るか、追いかけられ続けるか。どちらにしても、いつか解ける日が来ます。

ハティゆかりの地と遺跡

この狼を祀った場所は見つかっていません。 社も祭りも、地名として残った確かな例も知られていません。

そもそも北欧の民間信仰に「月を呑む狼」の言い伝えは無かった、とアクセル・オルリックは指摘しています。月食を狼と結びつける話は、書物の中でだけ確かめられます。

残ったのは、空を見上げたときの記憶のほうです。

ハティが現代に残した痕跡

この狼の名は、現代の天文の名づけに残っています。

土星の衛星ハティ: 土星の第43衛星。北欧群に属する不規則衛星で、2004年から2005年にかけての観測で発見された。2007年4月5日にこの狼の名が与えられている。

月食の言い伝え: 月が欠けるのは狼が捕らえたためだとする語り。北欧からゲルマンの一帯では、天の異変の担い手はほぼ狼で語られる。

送り狼の言い伝え: 人の後をつけ、最後に襲うという狼の習性。天体を追い続けてついに捕らえるという筋は、この観察から来たとされる。

ハティが司るもの

月の運行そのものと結びついた存在で、人が願う対象ではない。

予兆を知る

月食を天の異変として読み取り、身構えるという見方に結びつく。

ハティについてよくある質問

ハティとは何ですか。

北欧神話で月を追い続ける狼です。名は「憎しみ」「敵」を意味します。ラグナロクの日に月へ追いつき、大きな損害を与えるとされます。

ハティは誰の子ですか。

新エッダ第12章で「ハティ・フローズヴィトニルソン」と呼ばれます。フローズヴィトニルは狼フェンリルの別名なので、フェンリルの息子ということになります。

ハティとマーナガルムは同じ狼ですか。

同一視する説がありますが、原典は二つの名を別々に出しており、語られる働きも違います。本書は別に立てたうえで、同じだとする説を関係図に残しています。

月食はハティのせいですか。

北欧神話ではそう語られます。ただしアクセル・オルリックは、月を呑む狼の言い伝えは北欧の民間信仰には見当たらないと指摘しています。

ハティと併せて覚えたい言葉・用語

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。