太陽の女神。狼に追われて天を渡り、終末の後は娘が跡を継ぐ。
ソールとは何の神様か
ソールはひとことで言えば追われている太陽です。太陽の運行を司る女神で、ソルとも書かれます。
北欧神話の太陽は、堂々と空を巡る存在ではありません。馬車を駆り、後ろから迫る狼スコルから逃げ続けています。急いで進まねばならない理由が、恐怖として説明されている点が、この神話の太陽の特徴です。
生まれもふるっています。ムンディルファリという男が、自分の二人の子があまりに美しいことから、娘にソール(太陽)、息子にマーニ(月)と名づけました。神々はこれを驕りとみて怒り、二人を捕らえて天を渡らせたと語られます。
もうひとつ、忘れられがちな事実があります。北欧神話の太陽は、大地を照らしていません。 地上を照らすのは、昼の神ダグの役目とされます。
終末の日、太陽はついに狼に呑まれます。しかしその前に娘を産んでおり、新しい世界ではその娘が母と同じ道を巡ります。
ソールの名前の表記と読み方
古ノルド語では Sól(ソール)。そのまま「太陽」を意味する語です。日本語ではソルとも書かれます。
この名は、インド神話のスーリヤ、ガリア神話のスリス、リトアニア神話のサウレ、スラヴ神話のツァー・ソルニッツェと同じ語源にさかのぼります。太陽の名だけは、遠く離れた神話どうしでつながっています。
なお、日本語で「ソール」と書かれると雷神トールと紛れることがあります。トールの古ノルド語表記は Þórr で、翻訳の流儀によっては「ソール」と写されるためです。本書は太陽の女神をソール、雷神をトールと書き分けています。
古エッダ?は太陽を「天の花嫁」とも呼びます。
Sól(ソール)
古ノルド語の表記。そのまま「太陽」を意味する。日本語ではソルとも書かれる。
Álfröðull(アールヴレズル)
「妖精の栄光」を意味する言い換え。『ヴァフスルーズニルの言葉』第47節で太陽の運行を指す。
Sunna(スンナ)
大陸ゲルマンで太陽の女神を指した名。同じ存在の別系統の呼び名とされる。
ソールの物語
名づけの罰 ─ 美しすぎた姉弟
新エッダ?『ギュルヴィたぶらかし』第11章から第12章に、この女神の由来が記されています。
ムンディルファリという男に、二人の子がいました。あまりに美しかったので、父は娘に太陽の名、息子に月の名を与えます。
神々はこれに怒りました。人の子に天体の名を付けることが、越えてはならない線だと見なされたのです。
罰として二人は捕らえられ、天を渡る馬車の馭者にされました。娘は太陽の運行を、息子は月の運行と満ち欠けを司ることになります。
名を付けた罰が、その名のとおりになることでした。 北欧神話には、こうした皮肉のきいた処分がしばしば出てきます。
馬と鞴 ─ 熱をどう処理するか
太陽の馬車を引く馬には、名前が付いています。アールヴァク(早起き)とアルスヴィズ(快速)です。
興味深いのは、この二頭に鞴(ふいご)が取り付けられていることです。体を冷やすためだと説明されます。
太陽を運ぶ馬が熱で参らないように、送風装置を付けておく。神話でありながら、道具の工夫として書かれています。
熱への対処はもうひとつ語られます。『グリームニルの言葉』第38節によれば、大地と太陽のあいだにはスヴェルという楯が立っており、太陽の膨大な熱を大地から遮っています。
遮ってしまうため、北欧神話では太陽は大地を照らしていません。 地上を照らすのは、夜の女神ノートとその夫デリングの子である昼の神ダグです。
追われ続ける ─ 逃げるから速い
この女神は、休みなく走り続けています。
理由は単純です。狼スコルが、すぐ後ろにいるからです。新エッダは「太陽は常にスコルという狼に追いかけられているため、急いで運行しなければならない」と記します。
日食は、その狼が追いついた姿だと考えられました。地上の人々は鍋を叩いて騒ぎ、狼を驚かせて吐き出させたと伝えられます。
天体の速さを、恐怖で説明する神話はそう多くありません。 ギリシアの太陽神が威風堂々と馬車を駆るのに対し、北欧の太陽はひたすら逃げています。
弟のマーニも同じです。追う狼がハティに変わるだけで、構図はそのまま。空の運行そのものが、追跡の結果として語られています。
呑まれる日と、その次の太陽
『ギュルヴィたぶらかし』第51章によれば、ラグナロク?の日、太陽はついに狼に呑まれます。
空から光が消え、星は落ち、大地は震えます。神々と巨人の戦いは、その後に始まります。
ところが話には続きがあります。同書第53章と『ヴァフスルーズニルの言葉』第47節は、こう伝えます。ソールは呑まれる前に、一人の美しい娘を産んでいました。
新しい世界では、その娘が母の軌道を巡る。
太陽は死にますが、太陽そのものは終わりません。 同じ道を、次の太陽が走ります。
バルドルがよみがえって新しい世界を治めるのと、同じ形です。北欧神話の終末は、消滅ではなく交代として書かれています。
ソールの家系図と家族
ソールのきょうだい: マーニ姉弟
ソールの性格と人物像
ソールは、選んでいない神です。
自分から太陽になったのではありません。父が名を付け、神々が怒り、罰として空へ上げられました。罰として与えられた仕事を、世界が終わるまで続けている女神です。
不平を述べる場面はありません。逃げ切ろうとする場面も、狼と戦おうとする場面もありません。ただ毎日、決まった道を全速力で走ります。
この淡々とした姿は、北欧の暮らしと重なります。冬の太陽は低く、短く、すぐに沈む。待っていれば必ず戻ってくるが、留まってはくれない。 その手ざわりが、そのまま神の姿になっています。
そして最後に、娘に道を渡します。逃げ切れなかったことより、次の走者を用意していたことのほうが、この女神の芯にあたります。
ソールゆかりの地と遺跡
この女神を祀った建物は見つかっていません。 北欧神話の神には現役の信仰が無く、社そのものがほとんど残っていないためです。
ただし、太陽への祈りの跡そのものは北欧に数多く残されています。青銅器時代の岩絵には、車輪や円盤で表された太陽の図がくり返し刻まれています。これらがこの女神の信仰だと確かめられたわけではないため、欄には挙げていません。
名が残ったのは言葉のほうです。北欧諸語で日曜日は「太陽の日」を意味する語であり、いまも使われています。
ソールが現代に残した痕跡
この女神の名は、曜日と天文の名づけに残りました。
「太陽の日」としての日曜日: 北欧諸語で日曜日は太陽を意味する語から作られている。ゲルマン語圏に共通する数え方で、太陽を人格として扱った古い層の名残とされる。
土星の衛星ムンディルファリ: 土星の第25衛星。北欧群に属する不規則衛星で、2000年に発見され、2003年にこの女神と月の神マーニの父の名が与えられた。
同語源の太陽神たち: インド神話のスーリヤ、ガリア神話のスリス、リトアニア神話のサウレ、スラヴ神話のツァー・ソルニッツェは、この名と同じ語源にさかのぼるとされる。
ソールが司るもの
太陽
太陽の運行そのものを司る女神とされる。
再生
呑まれる前に産んだ娘が、新しい世界で同じ道を巡るとされる。
旅の安全
毎日決まった道を走り抜ける姿から結びつけられる。
ソールについてよくある質問
ソールは何の神ですか。
北欧神話の太陽の女神です。太陽の運行を司り、馬車を駆って天を渡ります。弟は月の神マーニです。
ソールはなぜ急いで空を渡るのですか。
狼スコルに追われ続けているためです。日食は、その狼が追いついて呑みこんだ姿だと考えられました。
ソールと雷神トールは同じですか。
別の神です。雷神の古ノルド語表記は Þórr で、翻訳の流儀によっては「ソール」と写されるため紛らわしくなります。本書は太陽の女神をソール、雷神をトールと書き分けています。
ラグナロクで太陽はどうなりますか。
狼に呑まれます。ただしその前に娘を産んでおり、新しい世界ではその娘が母と同じ軌道を巡るとされます。
北欧神話の太陽は大地を照らさないのですか。
照らしていません。大地と太陽のあいだにスヴェルという楯が立って熱を遮っており、地上を照らすのは昼の神ダグの役目とされます。
ソールと併せて覚えたい言葉・用語
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。