本文へ移動

北欧神話

ノートとは何の神様か|家系図・物語

Nótt  / ノート

巨人

名がそのまま「夜」を意味する女神。馬車で天を巡り、露を落とす。

ノートとは何の神様か

ノートはひとことで言えば夜そのものです。古ノルド語で Nótt(ノート)は、そのまま「夜」を意味します。

出自は神ではありません。ヨトゥンヘイムに住む巨人ナルヴィの娘で、髪も姿も生まれつき黒く、暗いとされます。夜を司る女神が、神々の側ではなく巨人の側から出ています。

三度の結婚をしています。最初の夫との子がアウズ、二人目との娘が大地の女神ヨルズ、三人目のアース神族デリングとの息子が昼の神ダグでした。末の子だけが、父に似て明るく美しかったといいます。

オーディンは、この母と末の子を呼び出し、それぞれに馬車を与えて世界を巡り続けるよう命じました。昼と夜は、二台の馬車が交互に走ることで生まれています。

ノートの名前の表記と読み方

古ノルド語では Nótt(ノート)。日本語ではノットノーットとも書かれます。長音符の有無だけの違いで、同じ神です。

この語は神の名であると同時に、いまも北欧の言葉で「夜」を指す普通名詞です。 アイスランド語の nótt、スウェーデン語の natt、英語の night は、いずれも同じ語源にさかのぼります。

父の名は資料によってナルヴィネルヴィネルと揺れます。さらに、ロキの息子にも同じ綴りのナルヴィがいるため紛れやすいのですが、別の存在です。

Nótt(ノート)

古ノルド語の表記。そのまま「夜」を意味する普通名詞でもある。

Nott(ノット)

長音符を省いた綴り。日本語では「ノット」「ノーット」とも書かれる。

Nörvi(ネルヴィ)

ノートの父とされる巨人の名。ナルヴィ、ネルとも伝えられ、表記が定まっていない。

ノートの物語

  1. 三度の結婚 ─ 昼を産んだ夜
  2. 馬車を与えられる ─ 昼と夜のはじまり
  3. フリームファクシ ─ 泡が露になる
  4. 巨人の娘であること

三度の結婚 ─ 昼を産んだ夜

ノートは三度嫁いでいます。

最初の夫ナグルファリとの間に息子アウズ。次の夫アンナルとの間に娘ヨルズ。ヨルズは大地の化身であり、雷神トールの母にあたります。

三度目の相手が、アース神族のデリングでした。名は「曙光」を意味します。生まれたのが昼の神ダグです。

夜と曙光のあいだに、昼が生まれる。 尾崎和彦は、この顔ぶれが夜明けの訪れを名で表したものだと解しています。

書かれ方も印象的です。末の子だけが「父に似て明るく美しかった」とされました。黒い母から、明るい子が出ています。

馬車を与えられる ─ 昼と夜のはじまり

オーディンは、ノートと息子ダグを呼び出しました。

二人にそれぞれ馬車を与え、世界を巡り続けるよう命じます。 順に空を走らせることで、昼と夜が生まれました。

ノートが先を行き、ダグが後を追う形です。北欧では一日を数えるとき夜から数える習わしがあり、夜が昼に先立つという順序が、この物語にもそのまま出ています。

定められた速さもあります。十二時間ごとに大地の上を通るように、と決められました。時間が神の気まぐれではなく、決められた運行として語られている点が特徴です。

フリームファクシ ─ 泡が露になる

ノートの車を引くのは、フリームファクシという馬です。名は「霜のたてがみ」を意味します。

この馬の描き方が、北欧神話でもよく引かれる一節を生みました。走るあいだ、馬銜(はみ)から泡が滴り落ちて大地を濡らす。それが谷にたまる朝露だというのです。

夜が通り過ぎた跡として、露が説明されています。 誰でも朝に見ているものが、神話の中に居場所を持っている。

昼の馬スキンファクシが光を配るのと、きれいに対をなしています。片方はたてがみで照らし、もう片方は口から湿らせる。同じ形の説明を、正反対の中身で二度やっています。

巨人の娘であること

見落とされがちですが、この女神は巨人の側の出です。

北欧神話では、これは珍しいことではありません。トールの母ヨルズも、フレイの妻ゲルズも、ニョルズの妻スカジも巨人です。それでも夜という大きな役目を巨人の娘が担っている点は、注意を引きます。

夜は、神々にとって支配すべきものではありませんでした。始まりから世界にあったもので、神々はそれに車を与えて順序を決めただけです。

オーディンがしたのは創造ではなく、運行の指示でした。北欧の神々が世界に対して持つ立場が、この短い場面によく表れています。

ノートの家系図と家族

ノートの性格と人物像

ノートは、行いによって語られない神です。争いも、企みも、嘆きもありません。

それでも人物像が薄いわけではありません。黒い髪と暗い姿を生まれつき持ち、三度嫁ぎ、大地の女神と昼の神を産む。この女神の役割は、産むことと、走り続けることの二つです。

性格を読み取れる場面があるとすれば、末の子ダグへの書かれ方でしょう。自分と似ていない、明るく美しい子。母のほうがそれをどう思ったかは一行も書かれていません。

毎日必ず来て、必ず去る。 神話が夜に求めたのは、劇的な性格ではなく、この確かさだったのだと思われます。

ノートゆかりの地と遺跡

ノートを祀った場所は見つかっていません。 神殿の記録も、この名を含む確かな地名も残っていません。

かわりに残ったのは言葉です。北欧の各語で「夜」を指す語が、そのままこの女神の名でした。祀る場所を持たないかわりに、毎晩その名が口にされ続けている神といえます。

ノートが現代に残した痕跡

この女神の名は、社や像ではなく、日々使われる言葉として残りました。

アイスランド語の nótt: 「夜」を指す語。神の名と綴りがまったく同じまま現代語に残っている。

スウェーデン語の natt: 同じ語源から出た「夜」の語。デンマーク語、ノルウェー語も同じ形をとる。

夜から数える一日: 北欧では日数を夜で数える習わしがあった。夜が昼に先立つという順序は、ノートとダグの物語にも表れている。

ノートが司るもの

夜の守り

夜そのものを司り、決められた刻みで天を巡るとされることによる。

眠り

夜の到来をつかさどる女神として語られてきたため。

馬フリームファクシの馬銜から滴る泡が、谷の朝露になるとされる。

ノートについてよくある質問

ノートは何の女神ですか。

夜の女神です。名は古ノルド語でそのまま「夜」を意味します。

ノートは神ですか、巨人ですか。

巨人ナルヴィの娘です。女神として扱われますが、出自は巨人の側にあります。

ノートの子どもは誰ですか。

三度の結婚でアウズ、大地の女神ヨルズ、昼の神ダグをもうけました。ヨルズは雷神トールの母にあたります。

朝露はなぜノートと結びつくのですか。

車を引く馬フリームファクシの馬銜から滴り落ちる泡が大地を濡らし、それが谷の露になるとされるためです。

ノートと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。