太陽を追い続ける狼。日食は、この狼が太陽に追いついた姿とされた。
スコルとは何の神様か
スコルはひとことで言えば太陽を追う狼です。名は古ノルド語で「嘲るもの」「高笑い」を意味します。
北欧神話の太陽は、ただ空を巡っているのではありません。太陽の女神ソールは馬車を駆り、そのすぐ後ろを一頭の狼が追い続けています。ソールが急いで天を渡らねばならないのは、この狼から逃げているからです。
生まれは、巨大な狼フェンリルと鉄の森の女巨人とのあいだの子とされます。狼の姿をした巨人と考えられることもあります。
そして日食です。太陽が欠けるのは、この狼が追いつきかけている証しだと考えられました。地上の人々は鍋を叩いて騒ぎ、狼を驚かせて吐き出させたと伝えられます。
ラグナロク?の日、狼はついに追いつき、太陽を呑みこみます。空から光が消えるところから、世界の終わりが始まります。
スコルの名前の表記と読み方
古ノルド語の綴りは Skǫll(スコル)。日本語ではスコール、スコッル、スケルとも書かれます。
名の意味は「嘲るもの」「高笑い」とされます。追いつけるはずの獲物をわざと逃がして笑っている、という含みで読む立場もあります。 語源のとり方によっては「騒音」「まどわし」の意味になるという説もあり、定まってはいません。
弟にあたるハティの名が「憎しみ」「敵」を意味するのと並べると、二頭の名は感情を表す語で組み立てられていることがわかります。天体を追う力そのものではなく、追う者の気分に名が付けられています。
Skǫll(スコル)
古ノルド語の表記。「嘲るもの」「高笑い」を意味するとされる。
Sköll(スコル)
現代の刊本で広く使われる綴り。日本語ではスコール、スコッルとも書かれる。
Skoll(スコル)
特殊な字を使わない綴り。土星の衛星の名にもこの形が使われている。
スコルの物語
鉄の森から ─ 狼を産む森
人間の国ミズガルズの東に、イアールンヴィズ(鉄の森)という森があります。
新エッダ?『ギュルヴィたぶらかし』によれば、そこに一人の女巨人が住み、たくさんの巨人を産みました。産まれた子はみな狼の姿をしていたといいます。
天空で太陽を追うスコルも、月を追うハティも、この狼たちに由来するとされます。日本語版の伝えでは、スコルは狼フェンリルと鉄の森の女巨人とのあいだの子とされます。
つまりこの狼は、神々を呑む狼と同じ血から出ています。 父が主神を呑み、子が太陽を呑む。終末に起こることは、ひとつの家系の中で完結しています。
日食 ─ 鍋を叩いて追い払う
日食が起こると、地上ではこう考えられました。狼が太陽に追いついた。
人々は鍋を叩き、大声を上げて騒ぎました。音で狼を驚かせ、呑みこんだ太陽を吐き出させるためです。
日食や月食を天の怪物の仕業とする話は世界各地にありますが、北欧からゲルマンの一帯では、その怪物にほぼ決まって狼が当てられます。
実際の生活で狼は、家畜と人を襲う最大の脅威でした。夜道で人の後をつけてくる習性も知られています。空で起きる異変に、日々もっとも恐れていたものの姿を当てはめたことになります。
ラグナロク ─ 追いついた日
終末の日、追いかけっこは終わります。
狼はついに太陽に追いつき、これを呑みこみました。もう一頭の狼が月を捕らえ、星は空から落ちます。
順番が大事です。光が消えるのが先で、戦いはその後です。 神々と巨人の戦いが始まるより前に、まず空が暗くなります。
ただし太陽は絶えたわけではありませんでした。ソールは呑まれる前に一人の娘を産んでおり、新しい世界では、その娘が母と同じ道を巡ると歌われます。
なぜ二頭に分かれているのか
太陽を追う狼と月を追う狼は、なぜ別々なのでしょうか。
古エッダ?『グリームニルの言葉』第39節は、「森に太陽が沈むまで追いかける狼はスコル、ハティは天の花嫁の前を走る」と歌います。ここでは二頭とも太陽の前後にいます。
デンマークの民俗学者アクセル・オルリックは、この「太陽の前後を走る二頭の狼」を、太陽の左右に光の点が現れる幻日という気象現象を指したものと考えました。デンマークとノルウェーでこの現象を「太陽狼」と呼ぶことが、その根拠です。
つまりもとは、太陽をはさむ二頭だった可能性があります。 一頭が月の側へ移されたのは、後の整理によるのかもしれません。
スコルの家系図と家族
スコルの性格と人物像
スコルは、性格を持たない存在です。
会話をしません。誰かをそそのかすこともなく、取引もしません。ただ走り、追い、最後に呑みこみます。
それでも名は「嘲るもの」です。追う側にだけ与えられた、余裕のある名前です。 逃げているのは太陽のほうであり、狼は急いでいません。
この神話の狼は、ほとんどが「縛られている」か「追っている」かのどちらかです。フェンリルは縛られ、ガルムは繋がれ、この狼は追い続ける。待たされている力として描かれる点が共通しています。
人格が無いことは、弱さではありません。話が通じない相手ほど、止めようがないからです。
スコルゆかりの地と遺跡
スコルが現代に残した痕跡
この狼の名は、天文の分野に今も使われています。
土星の衛星スコル: 土星の第47衛星。逆行軌道を回る不規則衛星で、北欧神話の名を付ける「北欧群」に属する。2006年にすばる望遠鏡による観測で発見され、2007年4月5日にこの狼の名が与えられた。
日食の民間習俗: 太陽が欠けたとき鍋や器を叩いて音を立て、狼に吐き出させるという習わし。北欧に限らず各地に同型の話がある。
送り狼の言い伝え: 人の後をつけ、最後に襲いかかるという狼の習性の言い伝え。太陽や月を追い続けてついに食らうという筋は、この観察から出たとされる。
スコルが司るもの
太陽
太陽の運行そのものと結びついた存在で、人が願う対象ではない。
予兆を知る
日食を天の異変として読み取り、身構えるという見方に結びつく。
スコルについてよくある質問
スコルとは何ですか。
北欧神話で太陽を追い続ける狼です。名は「嘲るもの」「高笑い」を意味します。ラグナロクの日に太陽に追いつき、これを呑みこむとされます。
スコルの親は誰ですか。
巨大な狼フェンリルと、鉄の森イアールンヴィズに住む女巨人とのあいだの子とされます。新エッダは、鉄の森の女巨人が狼の姿をした子を多く産んだと記します。
スコルとハティはどう違いますか。
スコルが太陽を、ハティが月を追います。ただし古エッダ『グリームニルの言葉』第39節では二頭とも太陽の前後にいると歌われ、もとは太陽をはさむ二頭だった可能性が指摘されています。
日食との関係は何ですか。
太陽が欠けるのは、この狼が追いついて呑みこんだためだと考えられました。人々は鍋を叩いて騒ぎ、狼を驚かせて吐き出させたと伝えられます。
スコルと併せて覚えたい言葉・用語
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。