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北欧神話

ガルムとは何の神様か|家系図・物語

Garmr  / ガルム

冥界 神獣

冥界の入口を守る番犬。終末に鎖を断ち、軍神と刺し違える。

ガルムとは何の神様か

ガルムはひとことで言えば死者の国の門番です。死者の国ヘルヘイムの入口にある洞窟グニパヘリルに繋がれています。

役目は二つ。みだりに冥界へ近づく者を追い払うことと、冥界から逃げ出そうとする死者を見張ることです。

『グリームニルの言葉』は、この犬を「犬のうち最高のもの」と評します。胸元は乾いた血で汚れており、それは死者の血だとされます。

ラグナロクの日、鎖を断って自由になり、軍神テュールと戦って互いに討ち合い、共に倒れます。フェンリルを縛るために右手を差し出した神と、繋がれ続けた犬が、そろって果てる幕切れです。

フェンリルと同じものではないかという説が古くからあります。

ガルムの名前の表記と読み方

古ノルド語では Garmr。語源は定まっていません。「吠える者」「ぼろ布」など諸説あり、どれも決め手を欠きます。

注目すべきは、この犬の名が『巫女の予言』で繰り返しの合図として使われていることです。

ガルムは高く吠える、グニパヘリルの前で。縛めは切れ、狼は走り出す。

この節が、終末を告げる場面で何度も戻ってきます。吠え声が、章の区切りになっているわけです。名の意味が「吠える者」だとすれば、たいへんよく合っています。

Garmr(ガルム)

古ノルド語の表記。語源は定まっていないが「吠える者」に通じる説がある。

Garm(ガルム)

英語圏や日本語の文献で広く使われる形。

Gnipahellir(グニパヘリル)

この犬が繋がれている洞窟の名。「突き出た岩の洞窟」の意。

ガルムの物語

  1. 出るのを見張る番犬
  2. 吠え声が終末を告げる
  3. テュールと刺し違える

出るのを見張る番犬

冥界の番犬というと、外から入る者を止める役を思い浮かべます。ギリシャのケルベロスもそう説明されます。

ところがこの犬の役目は、逃げ出す死者を見張ることにも重きが置かれています。

新エッダは、ヘルモーズバルドルを迎えに行った際の道筋を語りますが、そこに立ちはだかるのは番犬ではなく、橋の番人モーズグズでした。

門番の役は分担されており、この犬は主に出口を見ています。 死者の国から戻れないという掟を、力で支えているのがこの一頭です。

吠え声が終末を告げる

『巫女の予言』のなかで、この犬の吠え声は繰り返しの合図として現れます。

ガルムは高く吠える、グニパヘリルの前で。縛めは切れ、狼は走り出す。

同じ節が、終末を語る場面で何度も戻ってきます。

世界の終わりは、犬が吠えることから始まる。 神々の会議でも、巨人の襲来でもなく、繋がれた一頭が吠えた瞬間が起点に置かれています。

詩の構成として見ても、この節は場面の区切りとして働いています。北欧の詩がどう組み立てられていたかを示す例でもあります。

テュールと刺し違える

ラグナロクの日、この犬は鎖を断ちます。

新エッダはこう記します。

ガルムは、グニパヘリルの前に繋がれていた犬である。彼はテュールと戦い、互いに相手の死をもたらす。

相手がテュールであることには意味があります。

テュールは、狼フェンリルを縛る紐が本物でないと知りながら、その口に右手を差し出した神です。縛るために手を失った神が、縛られていた犬と刺し違える。

縛るという主題が、この一組で閉じます。 北欧神話の終末は、こうした対の決着がいくつも並ぶ形で語られます。

ガルムの家系図と家族

ガルムの性格と人物像

ガルムは、フェンリルと重なりすぎています。

どちらも繋がれ、どちらもラグナロクで解き放たれ、どちらも神を一柱倒す。名の解釈も「吠える者」で近い。

そのため、もとは同じ存在の別々の伝えだったのではないかという説が、古くから唱えられています。 原典が両者を明確に別ものだと言い切っている箇所はありません。

ただし、担う役割は違います。フェンリルは縛られた脅威であり、ガルムは任された番人です。前者は神々が恐れて縛りました。後者は死者の国の秩序を保つために繋がれています。

同じ姿で、意味が正反対。 判断がつかないまま両方が伝わっているところに、この神話の伝承のありようが表れています。

北欧の伝承には、墓から起き上がって副葬品を守るドラウグもいます。死んだ者が動くという感覚は、この地に根強くありました。

ガルムゆかりの地と遺跡

ガルムを祀った場所はありません。 冥界の番犬に祈る習わしは伝わっていません。

スウェーデンのレードベリの石には、犬らしき獣が人の足に噛みつく図が彫られており、フェンリルとオーディンの場面と解釈されることがあります。ただし銘があるわけではなく、この犬と特定できるものではありません。

ガルムが現代に残した痕跡

この犬の名は、冥界の番犬という型とともに残りました。

レードベリの石: スウェーデン エステルイェートランド県リンシェーピング市レードベリ教区の教会墓地に立つルーン石碑。獣が人の足に噛みつく図が彫られている。

冥界の番犬という型: ギリシャのケルベロス、インドのサラマーなど、死者の国を犬が守る話は各地にある。同じ発想の広がりとして論じられる。

現代作品での登場: 地獄の番犬という設定で取り上げられることが多く、フェンリルと混同されることもある。

ガルムが司るもの

守護

死者の国の入口を守り、逃げ出す死者を見張る役を負う。

境界

生者と死者を分ける場所に繋がれている。

死者を治めること

冥界の秩序を力で支える存在とされる。

ガルムについてよくある質問

ガルムは何をしている犬ですか。

死者の国ヘルヘイムの入口の洞窟グニパヘリルに繋がれ、近づく者を追い払い、逃げ出す死者を見張っています。

ガルムとフェンリルは同じですか。

同一視する説が古くからあります。どちらも繋がれ、終末で解き放たれ、神を倒すためです。ただし原典が同じだと書いた箇所はありません。

ガルムはラグナロクで誰と戦いますか。

軍神テュールです。互いに討ち合い、ともに倒れます。

ガルムを祀る場所はありますか。

ありません。冥界の番犬に祈る習わしは伝わっていません。

ガルムと併せて覚えたい言葉・用語

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

ケルベロス(Κέρβερος)

冥界の門を守る三つ首の犬。入る者は通すが、出る者は通さない。テュポーンとエキドナの子。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。