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北欧神話

山の巨人とは何の神様か|家系図・物語

Bergrisar  / ベルグリシ

大地 巨人

岩と山に住む巨人の一族。いまもアイスランドの国章に立っている。

山の巨人とは何の神様か

山の巨人はひとことで言えば岩に住む一族です。古ノルド語で単数形がベルグリシ、複数形がベルグリサル。丘の巨人とも訳されます。

北欧神話の巨人は一枚岩ではありません。氷から生まれた霜の巨人とは別に、この山の巨人が数えられます。同じ「巨人」でも、出どころで呼び分けられていました。

名がわかる者は多くありません。フレイの妻ゲルズの母アウルボザ、『グロッティの歌』の姉妹フェニヤとメニヤ。姉妹は自分たちの祖先としてシャツィとフルングニルの名を挙げます。

神々の敵とばかりは限りません。アースガルズの城壁を築くと申し出た石工もこの一族でしたが、バルドルの葬儀には霜の巨人とともに参列しています。

山の巨人の名前の表記と読み方

古ノルド語の bergrisi(ベルグリシ)は、berg と risi の合成です。berg は「岩」「山」、risi は「巨人」。名前がそのまま住み処を示しています。

北欧神話の巨人には、いくつかの呼び方があります。総称はヨトゥン(jǫtunn)。氷と霜から生まれた系統がフリームスルス(霜の巨人)。そして岩と山に住むのが、この一族です。

日本語では「山の巨人」「丘の巨人」の両方が使われます。どちらも同じものを指します。必ずしも巨大とは限らない点は、北欧の巨人全体に共通する注意点です。人間と同じくらいの背丈で描かれる例も少なくありません。

bergrisi(ベルグリシ)

古ノルド語の単数形。berg(岩・山)と risi(巨人)の合成。

bergrisar(ベルグリサル)

古ノルド語の複数形。一族としてまとめて呼ぶときの形。

Landvættir(ランドヴェーッティル)

アイスランドを守る四体の地霊。山の巨人はその一つに数えられる。

山の巨人の物語

  1. 名の知れた者たち ─ アウルボザとフェニヤ
  2. 城壁を築いた石工
  3. 葬儀に参列する ─ 敵だけではない
  4. アイスランドを守る ─ 国章に残る

名の知れた者たち ─ アウルボザとフェニヤ

山の巨人で名がわかるのは、数えるほどです。

まずアウルボザ新エッダギュルヴィたぶらかし』第37章に、フレイの妻ゲルズの母として名が出てきます。山の巨人だと明記されている、数少ない一人です。

もう一組が、古エッダ『グロッティの歌』に出てくる姉妹フェニヤとメニヤです。山の巨人イジアウルニルの兄弟から生まれたとされます。

姉妹は自分たちの祖先としてシャツィフルングニルの名を挙げました。フルングニルは、頭も心臓も石でできていたと伝えられます。 岩に住む一族であることが、体そのものにまで及んでいます。

城壁を築いた石工

新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』第42章に、名を伝えられていない山の巨人が出てきます。

アースガルズの城壁を修理すると申し出た石工です。報酬に求めたのは、女神フレイヤと、太陽と月でした。

神々は、一冬では終わるまいと踏んで承知します。ところが石工の馬スヴァジルファリが異様に働き、期限に間に合いそうになりました。

慌てた神々に責められたロキが雌馬に化けて馬を誘い出し、仕事は止まります。正体を現した石工は、トールに討たれました。 約束は守られませんでした。この一族が神々に何をされたかを示す、はっきりした一件です。

葬儀に参列する ─ 敵だけではない

この一族を敵とだけ見ると、読み落とすものがあります。

新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』第49章、バルドルの葬儀の場面です。参列した顔ぶれのなかに、霜の巨人とともに山の巨人が挙げられています。

神々の側の葬儀に、巨人が呼ばれている。北欧神話の神と巨人は、戦い続けながら、同時に縁を結び、席をともにしていました。

実際、オーディンの母ベストラも、トールの母ヨルズも、フレイの妻ゲルズも巨人です。神々の血の半分は、この側から来ています。 山の巨人アウルボザは、その一人の母にあたります。

アイスランドを守る ─ 国章に残る

この一族には、他の巨人にない後日談があります。

『ヘイムスクリングラ』に収められた『オーラヴ・トリュッグヴァソンのサガ』に、デンマーク王ハラルド・ゴルムスソンがアイスランド侵攻の下見に魔法使いを送った話があります。

魔法使いは鯨に姿を変えて島を一周しました。ところが行く先ごとに、巨鳥、竜、雄牛、そして山の巨人が現れて上陸を阻みます。報告を聞いた王は、侵攻を諦めました。

この四体が、アイスランドの守り手ランドヴェーッティル(地霊)です。いまもアイスランドの国章と硬貨に、この四体が刻まれています。 神話の巨人が、そのまま国の紋章になった珍しい例です。

山の巨人の家系図と家族

山の巨人の親: ゲルズ母アウルボザは山の巨人

山の巨人のきょうだい: 霜の巨人巨人の別の系統

山の巨人の子・子孫: ユミルユミルから出た巨人の一族

山の巨人の性格と人物像

山の巨人は、土地そのものに近い一族です。

個々の性格は、ほとんど語られていません。名がわかる者も数えるほどです。この一族について残っているのは、どこに住んでいるかという一点でした。岩に、山に、丘にいる。

神々との関係も一様ではありません。城壁の石工は騙されて討たれ、その一方でバルドルの葬儀には呼ばれています。敵でありながら、席がある。

そして最後に、この一族は守る側へ回りました。アイスランドに攻め寄せる者を追い返した四体の一つとして、国の紋章に刻まれています。

人の側から見て、山は行く手を阻むものであり、同時に国を守る壁でもありました。その両方の顔を、この一族はそのまま引き受けています。

山の巨人ゆかりの地と遺跡

山の巨人を祀った場所は見つかっていません。 神々の敵として語られる一族であり、社が建てられた記録はありません。

かわりに、この一族は国のしるしとして残りました。アイスランドの国章には、四体のランドヴェーッティル(地霊)のうちの一つとして山の巨人が描かれています。硬貨の裏面にも同じ四体が刻まれており、日々の暮らしのなかで最も目にする北欧神話の存在といえます。

山の巨人が現代に残した痕跡

この一族は、国の紋章と硬貨、そして北欧の地名のなかに残りました。

アイスランドの国章: 四体のランドヴェーッティル(雄牛・肉食鳥・竜・山の巨人)が描かれている。魔法使いの上陸を阻んだ伝えに基づく。

アイスランド・クローナ硬貨: 硬貨の裏面にも同じ四体の姿が刻まれており、山の巨人もそこに含まれる。

ヨートゥンハイメン: ノルウェー南部の山脈の名で「巨人の家」を意味する。巨人が山に住むという考え方が、いまも地名として残っている。

山の巨人が司るもの

山の守り

岩と山に住む一族とされ、その土地と結びついて語られてきた。

国の守り

アイスランドを守る四体の地霊の一つに数えられ、いまも国章に刻まれている。

祖先とされるフルングニルは頭も心臓も石でできていたと伝えられる。

山の巨人についてよくある質問

山の巨人と霜の巨人はどう違うのですか。

出どころが違います。霜の巨人は氷と霜から生まれた系統、山の巨人は岩と山に住む系統として、別々に数えられます。総称はどちらもヨトゥンです。

山の巨人で名前がわかるのは誰ですか。

ゲルズの母アウルボザ、『グロッティの歌』の姉妹フェニヤとメニヤなどです。姉妹は祖先としてシャツィとフルングニルの名を挙げています。

山の巨人は神々の敵ですか。

敵として描かれる場面が多いのは確かですが、それだけではありません。バルドルの葬儀には霜の巨人とともに参列しています。

アイスランドの国章に巨人がいるのはなぜですか。

デンマーク王が送った魔法使いの上陸を、巨鳥・竜・雄牛とともに山の巨人が阻んだという伝えによります。この四体がアイスランドを守る地霊とされ、国章と硬貨に刻まれています。

山の巨人と併せて覚えたい言葉・用語

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。