木の中に隠れて終末を生き延び、次の人類の祖となる二人。
リーヴとリーヴスラシルとは何の神様か
リーヴとリーヴスラシルはひとことで言えば終末を生き延びた人間です。ラグナロク?のあと、ふたたび人をふやすよう定められた男女一組とされます。
名がそのまま役目を語っています。リーヴは「生命」、リーヴスラシルは「生命力を自ら保つ者」。生き延びるという一点だけで名づけられた二人です。
世界が焼けるあいだ、二人はホッドミーミルの森に身を隠していました。飲み食いしたのは朝露だけだったとされます。戦ってもいなければ、逃げ回ってもいません。ただ隠れていました。
北欧神話の終末は、すべてが滅びて終わりません。大地が海から浮かび上がり、生き残った神々が集まり、そこへこの二人が出てきます。人の側から次の世界を継ぐのが、この一組です。
リーヴとリーヴスラシルの名前の表記と読み方
リーヴ(Líf)は「生命」、リーヴスラシル(Lífþrasir)は「生命力を自ら保つ者」と解されます。日本語ではリフ、リフスラシルとも書かれます。
困るのは、どちらが男でどちらが女かが、資料によって食い違うことです。 リーヴを男とする本もあれば、逆に書くものもあります。原典が二人の性別を明確に書き分けていない可能性も指摘されており、わかっていないと言うのが正確です。
隠れ場所のホッドミーミルの森も、意味がはっきりしません。「ミーミルの宝の森」ほどの意で、世界樹ユグドラシル?そのものを指すという説が有力ですが、確定していません。
Líf(リーヴ)
古ノルド語の表記。「生命」を意味する。日本語ではリフとも書かれる。
Lífþrasir(リーヴスラシル)
古ノルド語の表記。「生命力を自ら保つ者」と解される。
Hoddmímis holt(ホッドミーミスホルト)
二人が隠れていた森の名。「ホッドミーミルの森」と訳される。
リーヴとリーヴスラシルの物語
フィンブルの冬 ─ 隠れる場所
朝露を食べる
森のなかで、二人が口にしたものが書かれています。朝露です。
これだけで生きたとされます。火も、獣も、蓄えもありません。世界で最後に残った食べ物が、露だった。
細かいようですが、この一行は北欧神話の世界の見方をよく表しています。夜の女神ノートの馬の馬銜(はみ)から滴った泡が露になる、という説明を思い出すと、露は毎晩必ず補給されるものでした。
世界が終わっても、夜は来る。二人が生き延びられた理由が、そこに用意されています。
そして地上へ ─ 新しい世界
世界中にある同じ形
世界が滅びて、生き残った者が次の人類の祖になる。この筋立ては北欧神話だけのものではありません。
旧約聖書のノアの方舟、ゾロアスター教の聖典に語られるマシュヤグとマシュヤーナグ、ペルシアの文献に伝わる巨大な洞窟の神話。いずれも同じ形をしています。
どれかがどれかを写したのか、それとも人が別々に同じことを考えたのかは決着していません。ただ、破局のあとに人が二人だけ残るという形が、離れた土地に繰り返し現れることは確かです。
北欧の形の特徴は、隠れ場所が木だったことです。人が木から作られ、木の中で終末をやり過ごし、木から出てきて続きを始めます。
リーヴとリーヴスラシルの家系図と家族
リーヴとリーヴスラシルの親: アスクとエムブラ人の始まりと、生き残った人
リーヴとリーヴスラシルの性格と人物像
リーヴとリーヴスラシルには、性格らしい性格がありません。 台詞も、決断も、葛藤も書かれていません。
しかしこの二人は、北欧神話のなかで一つだけ、他の誰も持たない性質を与えられています。終末を生き延びることが、あらかじめ決まっていました。
この神話では、オーディンもトールもフレイも、自分の死に方を知りながらそれを避けられません。運命は変えられないものとして描かれます。その同じ運命が、この二人には生き延びよと告げています。
何もせず、隠れて、露をなめて待つ。英雄的ではまったくありません。それでも残るのはこちらだという結論を、この神話は静かに置いています。
リーヴとリーヴスラシルゆかりの地と遺跡
この二人を祀った場所は見つかっていません。 未来に起こることとして語られる存在であり、祈りを向けられた記録も残っていません。
ゆかりの地として名が挙がるのはホッドミーミルの森ですが、これは神話の中の場所で、どこかの土地に当てられたことはありません。世界樹ユグドラシルそのものを指すという説がありますが、確定していません。
リーヴとリーヴスラシルが現代に残した痕跡
二人の名は、いまも北欧で使われる人名として残りました。
アイスランド語の líf: 「生命」を意味する語。リーヴの名はこの語そのものである。
人名リーヴ: ノルウェーやアイスランドで女性名として用いられている。
ホッドミーミルの森: 二人が隠れた場所の名。世界樹ユグドラシルを指すという説があり、終末をめぐる議論で繰り返し取り上げられる。
リーヴとリーヴスラシルが司るもの
再生
焼け落ちた世界がふたたび生じ、その中で人の世を継ぐとされることによる。
始まり
ラグナロク後の人類の祖にあたる二人であるため。
長寿
世界の終わりを生き延びた二人として語り継がれてきた。
リーヴとリーヴスラシルについてよくある質問
リーヴとリーヴスラシルは神ですか。
人間です。ラグナロクを生き延び、次の世界で人類をふやすよう定められた男女一組とされます。
どちらが男でどちらが女ですか。
はっきりしていません。資料によって食い違い、原典が性別を明確に書き分けていない可能性も指摘されています。
二人はどこに隠れていたのですか。
ホッドミーミルの森です。世界樹ユグドラシルそのものを指すという説がありますが、確定していません。
二人は何を食べて生き延びたのですか。
朝露です。世界が焼けるあいだ、それだけで生き延びたと語られます。
リーヴとリーヴスラシルと併せて覚えたい言葉・用語
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
ユグドラシル(Yggdrasill)
世界を貫いて立つ巨大な樹。三つの根がそれぞれ別の世界へ伸び、その根元に泉がある。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。