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北欧神話

ヘーニルとは何の神様か|家系図・物語

Hœnir  / ヘーニル

大地 アース神族

人間に心を与えた神。人質に出され、終末を生き延びる。

ヘーニルとは何の神様か

ヘーニルはひとことで言えば人に心を与えた神です。アース神族の一柱で、名は「番人」あるいは「射手」を意味するとされます。

古エッダ『巫女の予言』によれば、最初の人間アスクとエムブラを作るとき、オーディンが息を、この神がを、ローズルが体温と良い姿を与えました。人が人であるための中心を担っています。

ところが、この神を有名にしているのは別の話です。ヴァン神族との和睦で人質として送られ、王に据えられながら、何ひとつ自分で決められませんでした。

そして『巫女の予言』は、この神がラグナロクを生き延びる数少ない一柱だと歌います。大きな役目と、情けない挿話と、終末を越える資格が、一柱に同居しています。

ヘーニルの名前の表記と読み方

古ノルド語では Hœnir(ヘーニル)。日本語ではヘニールとも書かれます。

名の意味は「番人」または「射手」とされますが、語源の説明は一致していません。鳥の名に通じる語だとする見方もあり、確定していないのが実情です。

もう一つ、この神には表記以前の問題があります。同じ神が、別の名で呼ばれていた可能性です。 人間創造の場面で、新エッダはヘーニルとローズルの代わりにオーディンの兄弟ヴィリとヴェーを挙げます。スノッリは『巫女の予言』を読んでいたはずですから、ヘーニルはヴィリの別名だったのではないかという見方が出されています。

Hœnir(ヘーニル)

古ノルド語の表記。「番人」「射手」を意味するとされる。

Hoenir(ヘニール)

œ を oe に写した綴り。日本語ではヘニールとも書かれる。

fet-Meili(フェト・メイリ)

『詩語法』でヘーニルを指す言い換え。「歩みのメイリ」ほどの意。

ヘーニルの物語

  1. 心を与える ─ 人間創造の三柱
  2. 人質になる ─ 決められない王
  3. ロキとオーディンとの三人旅
  4. 生き延びる ─ 焼け跡で木片を選ぶ

心を与える ─ 人間創造の三柱

古エッダ『巫女の予言』が伝える人間の作られ方は、三柱の分担でした。

オーディンがを、ヘーニルがを、ローズルが生命の暖かさと良い姿を与えます。浜辺に転がっていた二本の流木が、これで人になりました。

息だけでは動くだけです。姿だけでは形にすぎません。心を入れたのがこの神です。

ところが新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』では、この二柱の代わりにオーディンの兄弟ヴィリとヴェーが立ちます。与える中身も、感情と知性、言葉と感覚に組み替えられています。同じ場面が、二通りに伝わっています。

人質になる ─ 決められない王

アース神族とヴァン神族の戦いが和睦に至ったとき、両者は人質を交換しました。ヴァン神族の国へ送られたのが、ヘーニルです。

見栄えはとても良かったと伝えられます。ヴァン神族は歓迎し、自分たちの王に据えました。

ところが困ったことになります。この神は何かを決めるとき、いつも同行した賢者ミーミルに頼りました。ミーミルがいない場では、どっちつかずの返答をぶつぶつと言うだけだったと記されています。

不満を募らせたヴァン神族は、ミーミルの首を刎ねてアースガルズへ送り返しました。ヘーニルも一緒に戻されたのかは、はっきりしません。中身のない王を送りつけられたと受け取られたのです。

ロキとオーディンとの三人旅

この神は、オーディンとロキと三人で旅をする場面に繰り返し現れます。

新エッダ『詩語法』の、若さの女神イズンが誘拐される話。古エッダ『レギンの歌』の、カワウソに化けたオトを殺して賠償を求められる話。どちらもこの三柱組です。

どちらの場面でも、ヘーニルは脇に立っているだけです。企むのはロキ、動くのはオーディン。この神の台詞はほとんどありません。

それでも三柱組の一人として数えられ続けます。 動かないのに外されない。この神の居場所は、いつもそういう形をしています。

生き延びる ─ 焼け跡で木片を選ぶ

『巫女の予言』は、ラグナロクのあとの世界を歌います。

大地が海から浮かび上がり、生き残った神々が集まる。そこにヘーニルの名があります。神々の多くが死ぬなかで、この神は残ります。

戦いのあいだ何をしていたのかは、書かれていません。討たれた記録も、戦った記録もありません。

そして新しい世界で、この神は占いの木片を選び取る役を担うとされます。かつて何も決められなかった神が、これからのことを読む役に就く。原典は理由を説明していませんが、読み手の記憶に長く残る配役です。

ヘーニルの家系図と家族

ヘーニルの子・子孫: アスクとエムブラ心を与える

ヘーニルの性格と人物像

ヘーニルは、決められない神として語られてきました。

ヴァン神族の王に据えられながら、助言者がいないと返事もできない。北欧神話には情けない場面を持つ神が何柱もいますが、この神の場合はそれが人物像のほぼ全部です。

しかし読み直すと、別の見え方も出てきます。人に心を与え、三柱組の一人として旅を重ね、終末を越えて残る。失敗の話が一つあるだけで、失われた話がないわけではありません。

名の意味も定まらず、別名の可能性まで議論されている。輪郭がぼやけたまま、重要な場面には必ずいる。 そういう神です。

ヴァン神族が怒ったのは、この神が無能だったからというより、中身を見せない相手を送りつけられたからだったのかもしれません。

ヘーニルゆかりの地と遺跡

ヘーニルを祀った場所は見つかっていません。 神殿の記録も、この名を含む確かな地名も確認できていません。

もっとも、この神は名前そのものが揺れています。ヴィリの別名だったのではないかという議論があるほどで、祀られた形跡をたどる手がかり自体が乏しいのが実情です。

ヘーニルが現代に残した痕跡

この神の名は、書物のなかと、天体の地名に残りました。

木星の衛星カリストのクレーター: カリスト表面のクレーターの一つに、この神の名が与えられている。

『巫女の予言』の人間創造: 最初の人間に心を与えた神として名が挙がる。新エッダではこの役がヴィリに置き換わっている。

ヴィリと同一とみる説: スノッリが『巫女の予言』を知りながら顔ぶれを入れ替えたことから、ヘーニルはヴィリの別名だったのではないかとする見方。

ヘーニルが司るもの

人間の創造

最初の人間アスクとエムブラに心を与えたとされることによる。

予言

ラグナロクの後、新しい世界で占いの木片を選び取る役を担うとされる。

平和

アース神族とヴァン神族の和睦にあたり、人質として送られた神であるため。

ヘーニルについてよくある質問

ヘーニルは何の神ですか。

司る領域ははっきりしていません。最初の人間に心を与えた神として、またヴァン神族への人質として語られます。

ヘーニルはなぜヴァン神族に嫌われたのですか。

王に据えられながら、何かを決めるときはいつもミーミルに頼り、彼がいないと曖昧な返事しかしなかったためです。ヴァン神族はミーミルの首を刎ねて送り返しました。

ヘーニルはラグナロクで死にますか。

死にません。『巫女の予言』によれば、終末を生き延びる数少ない神の一柱で、新しい世界で占いの木片を選び取る役を担うとされます。

ヘーニルとヴィリは同じ神ですか。

確かめられていません。人間創造の場面で新エッダがヘーニルの代わりにヴィリを挙げるため、同じ神の別名ではないかという説があります。

ヘーニルと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ヴァン神族(ヴぁんしんぞく)

豊穣と富を担う神々の一族。アース神族と戦って和睦し、ニョルズ・フレイ・フレイヤが人質としてアースガルズへ渡った。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。