本文へ移動

北欧神話

メイリとは何の神様か|家系図・物語

Meili  / メイリ

アース神族

オーディンの子でトールの兄弟。名前と続柄だけが残った神。

メイリとは何の神様か

メイリはひとことで言えば名前だけが残った神です。オーディンの息子で、トールの兄弟にあたります。

古エッダにも新エッダにも名は出てきます。存在は疑われていません。 ところが、どちらの書物も続柄を述べるだけで、この神が何をしたかは一行も書かれていません。

名の意味は「気高く美しい者」と解されます。それがどんな姿だったのか、どんな性格だったのかを伝える記述はありません。

資料が少ない神は北欧神話に数多くいますが、この神はその極端な例です。兄トールの身元を証明するための名として現れるのが、いちばん有名な場面になっています。

メイリの名前の表記と読み方

古ノルド語では Meili(メイリ)。日本語ではほぼこの一通りに書かれます。

名は「気高く美しい者」と解されます。ただし語源の説明は一致しておらず、確定した解釈ではありません。

興味深いのは、この名がほとんど「言い換え」の材料としてだけ生き延びたことです。スカルド詩では、トールを指すのに「メイリの兄弟」という形が使われました。名指しを避けて別の言い方をする詩の作法のなかで、この神の名は繰り返し呼び出されています。自分の物語は無いのに、他人を呼ぶために使われ続けた名前です。

Meili(メイリ)

古ノルド語の表記。「気高く美しい者」と解される。

Meila blóða(メイラ・ブローザ)

「メイリの兄弟」を意味する言い換え。スカルド詩でトールを指すのに用いられた。

fet-Meili(フェト・メイリ)

「歩みのメイリ」ほどの意。『詩語法』でヘーニルを指す言い換えとして引かれる。

メイリの物語

  1. 『ハールバルズの歌』 ─ たった一度の登場
  2. 『詩語法』の四か所 ─ 詩のなかの居場所
  3. 誰の子か ─ 十九世紀の推測
  4. なぜ記録が残らなかったのか

『ハールバルズの歌』 ─ たった一度の登場

古エッダでこの神が言及されるのは、ただ一か所です。

『ハールバルズの歌』で、トールが渡し守と口論になります。渡し守は相手が何者かを問いました。トールは、たとえ自分がいま放浪の身であっても、名乗れば身元は明らかになると答えます。

その名乗りが、「オーディンの息子であり、メイリの兄であり、マグニの父である」というものでした。

父・兄弟・息子の三つを並べる。北欧では、これが身元を示す最も確かなやり方でした。メイリの名は、その三点セットの真ん中に置かれています。

『詩語法』の四か所 ─ 詩のなかの居場所

新エッダ『詩語法』では、四か所で確かめられます。

第17章と第23章は、十世紀のスカルド詩人フヴィンのショーゾールヴルの作「長き秋」からの引用で、そこではトールが「メイリの兄弟」と呼ばれています。

第22章では、同じ作品からヘーニルを指す言い換えとして「歩みのメイリ」が引かれます。

そして第75章、アース神族の一覧に、バルドルヴィーザルのあいだにオーディンの息子として名が並びます。 一覧に入っている以上、忘れられた神ではありませんでした。呼び名としては現役だったのに、話だけが残らなかったのです。

誰の子か ─ 十九世紀の推測

母について、原典は何も書いていません。

十九世紀の学者は、大地の女神ヨルズを母に想定しました。トールの母がヨルズであることから、兄弟であるメイリも同じ母だろう、という推し量りです。

また同じころ、ヴィクトル・リュードベリはバルドルとメイリを同一人物だとする説を立てました。

どちらも原典に根拠がありません。 資料の空白を、系図の整合で埋めようとした時代の産物です。いまも紹介されることがありますが、確かめられていない推測として読むのが正確です。

なぜ記録が残らなかったのか

この神が薄い理由は、いくつか考えられます。

ひとつは、もともと物語を持たない名だったという見方です。詩人が言い換えを作るために必要としたのは、トールに兄弟がいるという事実だけでした。

もうひとつは、伝わるはずの話が失われたという見方です。書き留められたエッダは十三世紀のもので、それ以前の口伝えのすべてが残ったわけではありません。

決め手はありません。ただ、一覧に名が載り、複数の詩人が使っていたという事実は残ります。当時の人には説明の要らない名前だったとは言えそうです。

メイリの家系図と家族

メイリの親: オーディン

メイリのきょうだい: トール

メイリの性格と人物像

メイリの人物像は、わかっていません。台詞も、行いも、他の神との関わりも記録されていません。

それでもこの神を読む値打ちがあるとすれば、北欧神話の資料がどういう形で残ったかを、いちばんはっきり見せてくれるからです。

私たちが読める北欧神話は、十三世紀に書き留められたものです。書かれなかったものは、名前だけを残して消えます。 メイリはその消え方の見本のような存在です。

名の意味は「気高く美しい者」。その一語だけが、この神について語れるすべてです。 何も残っていないという事実そのものが、この神の輪郭になっています。

メイリゆかりの地と遺跡

メイリを祀った場所は見つかっていません。 神殿も、この名を含む確かな地名も確認できていません。

そもそも北欧の神で参拝できる社はほとんど残っていませんが、この神の場合は信仰の痕跡そのものが見あたりません。名を刻んだ石も、名を含む人名も、いまのところ知られていないのが実情です。

メイリが現代に残した痕跡

この神の名は、詩の作法のなかにだけ残りました。

「メイリの兄弟」: トールを指すスカルド詩の言い換え。十世紀の詩人フヴィンのショーゾールヴルの作に見え、『詩語法』に引かれている。

『詩語法』第75章の一覧: アース神族を数え上げる一覧に、バルドルとヴィーザルのあいだにオーディンの息子として名が置かれている。

ヨルズを母とする説: 十九世紀の学者が、トールの母である大地の女神ヨルズをメイリの母にも当てた。原典に根拠はない。

メイリが司るもの

名を残すこと

事績が失われてなお、名だけが一覧と詩のなかに残り続けた神であるため。

兄弟の物語

トールが身元を名乗るとき、その兄として引き合いに出される位置にある。

記録

書き留められなかったものは失われるという、伝承のありようを示す存在として。

メイリについてよくある質問

メイリは何の神ですか。

わかっていません。オーディンの息子でトールの兄弟であることだけが伝わり、司る領域も事績も記録されていません。

メイリはどの書物に出てきますか。

古エッダ『ハールバルズの歌』に一度、新エッダ『詩語法』に四か所です。いずれも続柄か言い換えとしての登場です。

メイリの母は誰ですか。

原典には書かれていません。十九世紀に大地の女神ヨルズを当てる説が出されましたが、根拠は示されていません。

メイリはバルドルと同じ神ですか。

十九世紀にヴィクトル・リュードベリがそう論じましたが、原典に根拠はなく、確かめられていない推測です。

メイリと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。