本文へ移動

北欧神話

スヴァジルファリとは何の神様か|家系図・物語

Svaðilfari  / スヴァジルファリ

大地 神獣

一冬で城壁を築きかけた怪力の馬。八本足の名馬の父。

スヴァジルファリとは何の神様か

スヴァジルファリはひとことで言えば働きすぎた馬です。石工に化けた山の巨人が連れていた、魔法の馬でした。

巨人は神々に持ちかけます。誰の助けも借りずにアースガルズを囲む壁を築く。報酬は太陽と月、そして女神フレイヤ

神々は怒りましたが、ロキの入れ知恵で期限を切って承知しました。無理な期限だから安全だ、という計算です。巨人はひとつだけ条件を付けました。「この馬を使ってよいなら」。

神々はその条件を軽く見ました。それが決定的な誤りでした。 馬は巨大な石を運び、飼い主の石工よりも目覚ましく働きます。期限の数日前、壁はほぼ完成しました。

追い詰められたロキは雌馬に化けてこの馬を誘い出します。工事は止まり、正体を現した巨人はトールの槌に倒されました。

そして生まれたのが、八本足の名馬スレイプニルです。

スヴァジルファリの名前の表記と読み方

古ノルド語の Svaðilfari は、二つの部分に分けて読まれます。前半は「滑ること」「災難」、後半は「旅」「進むこと」を指す語です。あわせて「不運な旅をする者」ほどの意味になります。

名前が、この馬の結末をそのまま言い当てています。 石を運ぶ旅の途中で雌馬に誘い出され、仕事を投げ出し、飼い主を死なせることになるからです。

名づけが物語の後から付けられたのか、名がもとにあって話が組まれたのかはわかりません。ただ北欧の物語には、名前がそのまま運命の予告になっている例がいくつもあります。

Svaðilfari(スヴァジルファリ)

古ノルド語の表記。「不運な旅をする者」ほどの意味に解される。

Svadilfari(スヴァジルファリ)

特殊な字を置き換えた綴り。英語圏の資料で広く使われる。

Svaðilfœri(スヴァジルフェーリ)

写本によって見られる別の綴り。

スヴァジルファリの物語

  1. 城壁の取り引き ─ 太陽と月とフレイヤ
  2. 石を運ぶ ─ 石工より働く馬
  3. 誘い出される ─ 一頭の馬が仕事を止める
  4. スレイプニルの父 ─ 残されたもの

城壁の取り引き ─ 太陽と月とフレイヤ

アース神族がミズガルズを造り、ヴァルハラを建てて暮らし始めたころのことです。

石工を名乗る男が来て、こう申し出ました。強く高い壁で神々の国を囲む。かわりに太陽と月をもらい、フレイヤを妻にしたい

神々は大いに怒りましたが、話し合いの末に対案を出します。誰の助けも借りず、冬至から夏至までの半年で築けたら支払う。 間に合わなければ無効。

提案したのはロキでした。半年で城壁が建つはずがない、という読みです。

石工は条件をのみ、ただ一つ付け加えます。「馬のスヴァジルファリを使ってよいなら」。神々は承知しました。

この一行が、話の全部を決めています。

石を運ぶ ─ 石工より働く馬

冬の初めの日、工事が始まりました。

スヴァジルファリの働きぶりは異常でした。巨大な石を運び、飼い主の石工以上に目覚ましく仕事を進めます。 夜のうちに運び、昼に積む。壁は見る間に伸びていきました。

夏の始まる三日前、壁はほとんど完成していました。残るのは門のあたりだけです。

神々は青ざめます。太陽と月を失えば世界が闇に沈み、フレイヤを渡せばヴァン神族との関係が壊れます。

誰の入れ知恵でこうなったのかは、はっきりしていました。 神々はロキに詰め寄り、責任を取るよう命じます。応じなければ殺すという脅しつきでした。

誘い出される ─ 一頭の馬が仕事を止める

追い詰められたロキが取った手は、力ずくではありませんでした。

夕暮れ、石工が馬を引いて石を取りに向かったとき、森から雌馬が走り出てきます。ロキが姿を変えたものでした。

スヴァジルファリは繋いだ綱を引きちぎり、雌馬を追って森へ駆け込みます。石工は追いかけましたが、二頭は一晩じゅう走り回り、朝になっても戻りませんでした。

馬を失ったその一日で、工事は完全に止まります。 期限は過ぎました。

怒りに我を忘れた石工は、巨人の姿を現します。 契約が偽りだったことが露見し、神々は約束に縛られなくなりました。呼ばれたトールが槌を振るい、巨人は倒れます。

壁はほぼ完成したまま、代金は支払われませんでした。

スレイプニルの父 ─ 残されたもの

しばらくして、ロキは子を産みました。灰色の八本足の子馬です。

この馬がスレイプニルオーディンが乗る北欧神話最大の名馬になります。陸も海も空も走り、死者の国へも下れる馬です。

つまりスヴァジルファリは、神話でもっとも有名な馬の、父にあたります。

さらに血は続きます。英雄シグルズの愛馬グラニが、スレイプニルの血を引くと伝えられているからです。

巨人が連れてきた一頭の馬から、主神の乗り物と、竜殺しの相棒が出ています。神々の側は代金を踏み倒し、そのうえ最良の馬まで手に入れました。 この取り引きで損をしたのは、働いた馬と、その飼い主だけです。

スヴァジルファリの家系図と家族

スヴァジルファリの妻・夫: ロキスレイプニルの父と母

スヴァジルファリの子・子孫: スレイプニル

スヴァジルファリの性格と人物像

スヴァジルファリは、何も悪いことをしていない馬です。

企んだのは巨人であり、罠を張ったのはロキです。この馬はただ、言われたとおりに石を運び続けました。しかも異常なほど真面目に。

罰を受けた理由が、よく働いたことしかありません。 期限に間に合いそうになったから、誘い出され、飼い主は殺されました。

北欧神話には、こうした割を食う存在がしばしば出てきます。約束を守ろうとした側が損をし、破ろうとした側が得をする。神々の側にも、後ろめたさが残っているからこそ、この話は繰り返し語られたのでしょう。

そして皮肉なことに、この馬は北欧神話でもっとも名高い馬の父になりました。名前は「不運な旅をする者」。それでも血だけは、神々の中心にまで届いています。

スヴァジルファリゆかりの地と遺跡

スヴァジルファリを祀った場所はありません。 巨人の持ち馬であり、祀られる側の存在ではないからです。

息子にあたるスレイプニルについては、スウェーデン・ゴットランド島の絵画石碑に八本足の馬が刻まれており、この言い伝えが古くからあったことを示す資料とされています。

ただし、父馬そのものを描いたと確かめられる遺物は見つかっていません。 城壁を築く場面が図に彫られた例も、確かめられませんでした。

スヴァジルファリが現代に残した痕跡

この馬の名は、遺跡ではなく血筋のほうに残りました。北欧神話の名馬は、ほとんどがこの一頭につながります。

スレイプニル: ロキとのあいだに生まれた八本足の馬。オーディンの乗り物であり、陸も海も空も走り、死者の国へも下れるとされる。

グラニ: 英雄シグルズの愛馬。スレイプニルの血を引くと伝えられ、この馬から数えると孫にあたる。

未完成の城壁という主題: 報酬を惜しんで職人を追い払う話は、北欧各地の教会建設の伝説にも形を変えて残っている。

スヴァジルファリが司るもの

巨大な石を運び、飼い主より目覚ましく働いた怪力による。

守護

神々の国を囲む城壁を、ほぼ独力で築き上げた働きによる。

約束を守ること

期限を切った取り引きの物語であり、契約とその破棄が話の中心にある。

スヴァジルファリについてよくある質問

スヴァジルファリとは何ですか。

石工に化けた山の巨人が連れていた魔法の馬です。神々の国を囲む城壁を築く仕事で、巨大な石を運び、飼い主以上に働きました。

なぜロキは雌馬に化けたのですか。

城壁が期限までに完成しそうになったからです。取り引きを提案した責任を神々に問われ、馬を仕事から引き離すために姿を変えました。

スレイプニルの父ですか。

そうです。ロキが化けた雌馬とのあいだに生まれたのが、オーディンの乗る八本足の馬スレイプニルです。

城壁はどうなりましたか。

ほぼ完成した状態で工事が止まりました。期限を過ぎたため報酬は支払われず、正体を現した巨人はトールに倒されています。

スヴァジルファリと併せて覚えたい言葉・用語

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。

ヴァン神族(ヴぁんしんぞく)

豊穣と富を担う神々の一族。アース神族と戦って和睦し、ニョルズ・フレイ・フレイヤが人質としてアースガルズへ渡った。