本文へ移動

北欧神話

ブラギとは何の神様か|家系図・物語

Bragi  / ブラギ

アース神族

詩の神。その名がそのまま「詩」を意味する語になった。

ブラギとは何の神様か

ブラギはひとことで言えば詩の神です。オーディンの息子で、若さの女神イズンの夫にあたります。

新エッダは、オーディン・トールバルドルに次いでこの神を挙げ、「知恵と流暢な会話と言語の技巧で知られる」と記します。詩が「ブラグ」と呼ばれるのは、この神の名からです。 抜きん出た雄弁の持ち主は「ブラグの男」「ブラグの女」と呼ばれました。

古エッダ『グリームニルの言葉』は、この神を「詩人のなかで最高である」と述べます。呼び名にも特徴があり、「長い顎髭の神」「顎髭のブラギ」と呼ばれました。

ヴァルハラでは、迎え役をつとめます。名高い王が戦死して館に着いたとき、出迎えて言葉をかけるのがこの神でした。

ブラギの名前の表記と読み方

古ノルド語では Bragi(ブラギ)。日本語ではブラギ、ブラーギと書かれます。

注意したいのは、名と語の前後関係が決着していないことです。この神の名から「詩」を意味する bragr(ブラグ)が生まれたとスノッリは書きますが、逆に「詩」「第一人者」を意味する普通の語から神格が作られたのではないか、という見方もあります。

山室静は、この名に「詩法」「第一人者」の意味があること、オーディンと同じく「長髭の神」と呼ばれることなどから、もとはオーディンが名乗った名の一つであり、後世の詩人によって独立した神として扱われるようになったと考えました。

Bragi(ブラギ)

古ノルド語の表記。この名から「詩」を意味する語ブラグが生まれたとされる。

bragr(ブラグ)

「詩」「第一人者」を意味する語。神の名との前後関係は議論がある。

Iðunn(イズン)

ブラギの妻。若さの林檎を守る女神。

ブラギの物語

  1. ブラグの男、ブラグの女 ─ 名が語になる
  2. 舌の上のルーン ─ 言葉に彫るもの
  3. 『ロキの口論』 ─ 言葉で負ける
  4. ブラギ・ボッダソン ─ 人か、神か

ブラグの男、ブラグの女 ─ 名が語になる

新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』は、この神をこう紹介します。

ブラギはその知恵と流暢な会話と言語の技巧とを知られている。彼は多くのスカルド詩を知り、後に詩は彼の名を取ってブラグと呼ばれた。

続けて、他者より抜きん出た雄弁を持つ者は「ブラグの男」「ブラグの女」、つまり詩人・女詩人と呼ばれると記されます。

神の名が、職能の名になっています。 北欧では、優れた詩人は王の宮廷に迎えられる存在でした。その呼び名の出どころに、この神が置かれています。

『詩語法』は、この神の呼び方も並べます。イズンの夫、最初の詩人、長い顎髭の神、顎髭のブラギ、オーディンの息子。

舌の上のルーン ─ 言葉に彫るもの

古エッダには、この神をめぐる印象深い一節があります。

『シグルドリーヴァの言葉』第16節は、ルーン文字を彫るのにふさわしい場所を数え上げます。楯の上、馬の轡、爪の上──そのなかに「ブラギの舌の上」が挙げられています。

言葉の力を彫りつける場所として、詩の神の舌が選ばれています。

『グリームニルの言葉』第44節は、もっと端的です。この神を「詩人のなかで最高である」と言い切ります。

北欧では詩は装飾ではありませんでした。人の名を残し、王を讃え、恨みを刻む道具です。その頂点に置かれた神でした。

『ロキの口論』 ─ 言葉で負ける

この神の人柄がいちばん出るのが、古エッダ『ロキの口論』です。

海神エーギルの宴に、追い出されたはずのロキが戻ってきます。ブラギは「神々がおまえに与える席はない」と言い放ちました。

しかしロキはオーディンとの古い誓いを持ち出して席を得ます。そして「神々に幸あれ、ただ一人そこにいるブラギを除いて」と言い放ちました。

ブラギの応じ方が独特です。馬と剣と腕輪を差し出して、神々を怒らせるなと諭します。ところがロキは「神々と妖精のなかでブラギは最も臆病な男だ」と嘲りました。

ブラギは「ここが広間の外なら、おまえの首を手に提げている」と言い返します。 ロキは外に出ようと挑発し、妻イズンが割って入って止めました。

ブラギ・ボッダソン ─ 人か、神か

この神には、ややこしい問題があります。九世紀のノルウェーに、ブラギ・ボッダソンという実在の詩人がいたのです。

知られている最古のスカルド詩人の一人で、名がそのまま神と同じです。ここから、この詩人が神格化されたのがブラギではないかという説が出されました。

しかし山室静は、これに反対します。ブラギ・ボッダソンが神とされるには時代が近すぎる、と。むしろ逆に、この詩人が神の名を名乗った可能性を挙げました。

どちらとも決着していません。人が神になったのか、神の名を人が借りたのか。詩の神をめぐる問いとしては、いかにも似合った未解決です。

ブラギの家系図と家族

ブラギの親: オーディン

ブラギの妻・夫: イズン

ブラギの性格と人物像

ブラギは、言葉で立ち、言葉で追い詰められる神です。

知恵と雄弁で知られ、詩人の頂点に置かれています。それでいて、神話に残る最も長い出番は『ロキの口論』で罵り合う場面でした。

そこでの振る舞いは、読み方が分かれます。馬と剣と腕輪を差し出して場を収めようとしたのは、寛大さとも、腰の引けた態度とも取れます。 現にロキは後者と取って「最も臆病な男」と嘲りました。

言い返しにも余白があります。「広間の外であれば首を取っている」。裏を返せば、外へは出ないという意味です。

ただし、それは詩の神として筋が通ってもいます。言葉が力を持つ場では、剣を抜かないことが強さです。妻イズンに止められて口を閉じるところまで含めて、この神の描かれ方は一貫しています。

ブラギゆかりの地と遺跡

ブラギを祀った場所は見つかっていません。 神殿の記録も、この名を含む確かな地名も確認できていません。

かわりにこの神が残ったのは、詩の作法そのもののなかです。北欧の宮廷では優れた詩人が「ブラグの男」と呼ばれ、その呼び名が職能を指す普通の語として使われ続けました。社ではなく、言葉の側に居場所を持った神といえます。

ブラギが現代に残した痕跡

この神の名は、詩を指す語として、また実在の詩人の名として残りました。

古ノルド語の bragr: 「詩」「第一人者」を意味する語。神の名から生まれたとスノッリは記すが、逆とする見方もある。

詩人ブラギ・ボッダソン: 九世紀ノルウェーの実在のスカルド詩人。知られている最古の詩人の一人で、名が神と同じであることから神格化説が唱えられた。

『詩語法』の語り手: 新エッダ第二部は、ブラギが海神エーギルに詩の技法を解説する会話の形で書かれている。詩の作法を教える役が、この神に割り当てられている。

ブラギが司るもの

この神の名から、詩を意味する語ブラグが生まれたとされる。

雄弁

流暢な会話と言語の技巧で知られ、抜きん出た語り手は「ブラグの男」と呼ばれた。

芸能上達

スカルド詩の守り手として、詩人たちに仰がれた神であるため。

ブラギについてよくある質問

ブラギは何の神ですか。

詩の神です。知恵と流暢な会話、言語の技巧で知られ、詩を意味する語ブラグはこの神の名から生まれたとされます。

ブラギの妻は誰ですか。

若さの林檎を守る女神イズンです。『ロキの口論』では、夫が挑発に乗りかけたところを止める場面があります。

ブラギは実在の詩人ですか。

九世紀のノルウェーにブラギ・ボッダソンという詩人が実在し、神格化されたとする説があります。ただし山室静は時代が近すぎるとして、詩人が神の名を名乗った可能性を挙げています。

ブラギはヴァルハラで何をしていますか。

迎え役をつとめます。スカルド詩では、戦死したエイリーク血斧王やハーコン善王を出迎えるのがこの神とされています。

ブラギと併せて覚えたい言葉・用語

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。