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北欧神話

シンモラとは何の神様か|家系図・物語

Sinmara  / シンモラ

巨人

スルトの伴侶。九つの錠をかけた箱に、伝説の武器を眠らせている女。

シンモラとは何の神様か

シンモラはひとことで言えば武器の番人です。世界を焼き尽くす炎の巨人スルトの伴侶とされます。シンマラとも書かれます。

この名を伝えているのは、古エッダの『フョルスヴィーズルの言葉』ただ一篇です。そのなかで三度だけ言及されます。

預かっているのはレーヴァテインロキが冥界の扉の前でルーンを刻んで鍛えたとされる武器で、世界樹の頂にとまる雄鶏ヴィゾーヴニルを殺せる唯一の得物です。レーギャルンという箱に納め、九つの錠をかけて守っています。

渡す条件も決まっています。輝く鎌を持ってくること。それを差し出せば武器を渡す、と門番は英雄に告げます。

名の意味はわかっていません。一篇の詩にだけ現れる、三行の女性です。

シンモラの名前の表記と読み方

古ノルド語では Sinmara(シンモラ)。日本語ではシンモラ、シンマラの両方が使われます。

名の意味はわかっていません。 後半の部分を「悪夢」に通じる語とみる説、前半を「燃え殻」を意味する語と結ぶ説、「腱を断って不具にする者」と読む説が並びます。

ルドルフ・ジメックは、前半を燃え殻に結びつけることはできないとしたうえで、色に関わる読み方を採り、炎の巨人の妻にふさわしいのは「青白い悪夢」という解釈だろうと述べています。

一方ヴィクトル・リュードベリは、「腱」を意味する語と「不具にする」に関わる語の組み合わせと読みました。

どれも決め手を欠いています。名前ひとつをめぐって、これだけの説が立てられているのが、この女性の資料の実情です。

Sinmara(シンモラ)

古ノルド語の表記。日本語ではシンマラとも書かれる。

Lævateinn(レーヴァテイン)

この女性が預かる武器の名。剣とも杖とも解される。

Lægjarn(レーギャルン)

武器を納めた箱の名。九つの錠がかけられている。

シンモラの物語

  1. 一篇の詩にだけ ─ 三度の言及
  2. レーヴァテイン ─ 雄鶏を殺せる唯一の武器
  3. 輝く鎌 ─ 解けない堂々めぐり
  4. スルトの伴侶として

一篇の詩にだけ ─ 三度の言及

この女性の存在を証すのは、古エッダの『フョルスヴィーズルの言葉』一篇だけです。

この詩は、英雄スヴィプダグが城の門番と問答を交わす形で進みます。門番の名はフョルスヴィーズル。全部で十八の問答が続きます。

そのなかで、この女性の名は三度現れます。

一度目は炎の巨人スルトとともに。二度目は武器を保管する者として。三度目は、武器を渡す条件を告げるくだりです。

三度の言及がすべてで、それ以外の記録はありません。

姿も、性格も、どこにいるのかも書かれていません。問答のなかで名を呼ばれるだけの存在です。それでも忘れられなかったのは、預かっているものが特別だったからです。

レーヴァテイン ─ 雄鶏を殺せる唯一の武器

預かっているのはレーヴァテインという武器です。

詩はこう歌います。

レーヴァテインはそこにある。ロプトがルーンによって、以前、死の扉の前で作った。シンモラによってそれはレーギャルンの箱の中に横たえられ、九つの錠がそれをしっかりと留める。

ロプトはロキの別名です。ロキが冥界の扉の前でルーンを刻んで鍛えた、ということになります。

この武器が必要な理由もはっきりしています。世界樹の頂にとまる雄鶏ヴィゾーヴニルを殺せるのは、これだけだからです。

剣とみるか、杖とみるかで解釈が分かれます。 名を一語で取れば剣、二語に分ければ杖と読めるためです。

九つの錠という数も印象に残ります。北欧神話では九という数が繰り返し現れます。

輝く鎌 ─ 解けない堂々めぐり

門番は英雄に、武器を得る条件を告げます。輝く鎌を持ってくることです。それを差し出せば、この女性は武器を渡すだろう、と。

ところが、その鎌はどこにあるのか。

詩を読み進めると、雄鶏ヴィゾーヴニルの尾羽から作られるものだとわかります。つまり雄鶏を倒さなければ鎌は手に入りません。

しかし雄鶏を倒せるのは、この女性が持つレーヴァテインだけです。

武器を得るには鎌が要り、鎌を得るには武器が要る。 堂々めぐりです。

この詩は、その謎を解かないまま終わります。 英雄は別の道で城に入り、待っていた女性と再会します。

解けない謎をわざと置いたのか、失われた部分があるのか。いまも議論が続いています。

スルトの伴侶として

この女性は、炎の巨人スルトの伴侶とされます。

スルトは世界の南の果て、火の国ムスペルヘイムの境に立ち、燃える剣を手に見張っている巨人です。ラグナロクの日にムスペルの一族を率いて攻め上がり、豊穣神フレイを討ち、最後に世界そのものに火を放ちます。

北欧神話の終末は、戦いの勝敗ではなく、この一人の炎で終わります。

その伴侶が、武器を箱に納めて錠をかけ続けている。

焼き尽くす夫と、閉じこめる妻。 対になっているようにも読めますが、原典はそこまで書いていません。

二人が一緒に現れるのは、詩のなかで一度だけです。関係の中身は、まったく語られていません。

シンモラの家系図と家族

シンモラの妻・夫: スルト伴侶とされる

シンモラの性格と人物像

シンモラは、役目だけを与えられた存在です。

台詞がありません。動きもありません。ただ箱を守っています。

それでもこの女性が忘れられなかったのは、その箱の中身が物語を止めているからです。英雄は前へ進めません。武器が要り、武器を得るには不可能な条件がある。

動かない番人が、動く物語を止めている。

名の意味さえわかっていません。研究者たちは「青白い悪夢」「燃え殻」「腱を断つ者」と読み方を並べてきましたが、決着していません。

わからないものが、いちばん強く記憶される。 この女性は、その典型です。

現代の作品でレーヴァテインの名がよく使われる一方、預かっていた女性の名はあまり知られていません。武器だけが有名になり、番人は忘れられました。

シンモラゆかりの地と遺跡

この女性を祀った場所は見つかっていません。 地名にも残っていません。

原典はこの女性がどこにいるかさえ書いていません。伴侶とされる炎の巨人スルトは火の国ムスペルヘイムの境に立つとされますが、この女性が同じ場所にいるとは記されていません。居場所すらわかっていないというのが実情です。

シンモラが現代に残した痕跡

この女性の名は、武器の伝説とともに書物のなかに残りました。

レーヴァテイン: この女性が預かる武器の名。現代の作品でも広く使われるが、預かっていた番人の名はあまり知られていない。

レーギャルンの箱と九つの錠: 武器を納めた箱の名と、かけられた錠の数。北欧神話では九という数が繰り返し現れる。

名前をめぐる論争: 「青白い悪夢」「燃え殻」「腱を断って不具にする者」など、複数の読み方が提出されてきた。いずれも決め手を欠いている。

シンモラが司るもの

炎の巨人スルトの伴侶とされることによる。

守護

九つの錠をかけた箱で、伝説の武器を守り続ける役目を負う。

シンモラについてよくある質問

シンモラとは誰ですか。

炎の巨人スルトの伴侶とされる女性です。古エッダ『フョルスヴィーズルの言葉』に三度だけ名が現れ、武器レーヴァテインを預かる者として説明されます。

レーヴァテインとは何ですか。

ロキが冥界の扉の前でルーンを刻んで鍛えたとされる武器です。世界樹の頂にとまる雄鶏ヴィゾーヴニルを殺せる唯一の得物とされ、剣とも杖とも解されます。

なぜ武器を手に入れられないのですか。

渡す条件が輝く鎌であり、その鎌は雄鶏の尾羽から作られるためです。雄鶏を倒せるのはレーヴァテインだけなので、堂々めぐりになります。詩はこの謎を解かないまま終わります。

名前の意味は何ですか。

わかっていません。「青白い悪夢」と読む説、「燃え殻」に結びつける説、「腱を断って不具にする者」と読む説が並び、決着していません。

シンモラと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。