本文へ移動

北欧神話

スヴィプダグとは何の神様か|家系図・物語

Svipdagr  / スヴィプダグ

英雄

継母に命じられ、九つの世界を越えて花嫁のもとへ向かった英雄。

スヴィプダグとは何の神様か

スヴィプダグはひとことで言えば母の呪文に守られて旅した英雄です。名は「素早い日」と解されます。父はアウルヴァンディル、母は魔女グローア

母を早くに失い、父の後妻につらく当たられました。継母が言いつけたのは、メングロズという女性の愛を得てくることです。誰にも果たせない任務のはずでした。

この英雄がまずしたのは、剣を取ることではありません。母の墓を訪ね、降霊の術で亡き母を呼び起こし、九つの呪文を授かることでした。

たどり着いた城の門番は、名を明かさぬ旅人に十八の謎かけを浴びせます。答えきったあとで告げられたのは、この門はただ一人にしか開かれず、その一人はおまえだという言葉でした。

名乗ると門が開き、メングロズは立ち上がって迎えました。待たれていた英雄です。

スヴィプダグの名前の表記と読み方

古ノルド語では Svipdagr(スヴィプダグ)。日本語ではスヴィプダグ、スヴィプダーグ、スヴィグダーグなどと書かれます。

名は「素早い日」と解されます。後半は昼の神ダグと同じ語です。母グローアの名が「生い茂る」に通じ、息子の名が「日」に通じる。 光と生長で組み立てられた一家の名前です。

この英雄の物語は、古エッダの二篇に分かれて伝わります。前半が『グローアの呪文歌』、後半が『フョルスヴィーズルの言葉』です。長く別の詩として読まれてきましたが、いまは一続きの物語として扱われ、あわせて『スヴィプダグの歌』と呼ばれます。

同じ名の英雄は、新エッダの序文や『デンマーク人の事績』にも現れます。別人です。

Svipdagr(スヴィプダグ)

古ノルド語の表記。「素早い日」と解される。

Vindkaldr(ヴィンドカルド)

「風の冷たさ」。城の門で名乗った偽名。

Fjölsvinnsmál(フョルスヴィンスマール)

『フョルスヴィーズルの言葉』。この英雄の旅の後半を伝える古エッダの詩。

スヴィプダグの物語

  1. 墓の前で ─ 九つの呪文を授かる
  2. 十八の問答 ─ 偽名を名乗る
  3. 名乗る ─ 門が開く
  4. メングロズは誰か

墓の前で ─ 九つの呪文を授かる

物語は、墓の前から始まります。

継母の言いつけを受けたこの若者は、剣を取る前に、すでに死んでいる母の墓を訪ねました。

目を覚ませ、グローアよ。よき女よ、目を覚ませ。死者の扉のもとで、わたしはおまえを呼ぶ。

母は応じました。そして九つの呪文を授けます。重荷を軽くする呪文、道に迷わぬ呪文、川を渡る呪文、敵に打ち勝つ呪文、鎖を解く呪文、海を鎮める呪文、霜を防ぐ呪文、死者に襲われぬ呪文、巨人と言葉を交わす呪文。

母は、息子がこれから遭う困難をすべて先に言い当てています。

旅を武器で始めない英雄。 北欧の英雄譚のなかで、この始まり方は際立っています。

十八の問答 ─ 偽名を名乗る

たどり着いた城の門は、閉ざされていました。

門番の名はフョルスヴィーズル。ウルフハウンドのゲリギフを従えています。この名はオーディンの別名のひとつでもあり、正体をめぐる議論が続いています。

若者は名を明かしませんでした。ヴィンドカルド、つまり「風の冷たさ」と名乗ります。自分を霜の巨人であるかのように装ったのです。

そこから十八の問答が続きます。城の造り、門の名、犬の名、館の名、住む者たちの名。知識の勝負でした。

最後に若者は尋ねます。この門は誰に開かれるのか、と。

門番は答えました。ただ一人、スヴィプダグという者にだけ、と。

名乗る ─ 門が開く

答えを聞いた若者は、偽名を捨てました。

われはソルビャルトの息子、スヴィプダグである。

門が開きます。

館の女主人メングロズは立ち上がり、待ち望んでいた恋人を迎え入れました。おかえりなさい、と。

会ったことのない相手に、待たれていた。 この詩のいちばん奇妙で、いちばん美しい一点です。

継母は不可能な任務を与えたつもりでした。ところが向かった先には、最初からこの若者のために開く門がありました。

運命はすでに決まっていて、旅はそれを確かめる道のりだった。 北欧神話の運命観が、珍しく明るい形で現れた物語です。

メングロズは誰か

迎えた女性メングロズの名は「首飾りを喜ぶ女」を意味します。

この名から、ある説が立てられました。首飾りブリーシンガメンを持つ女神、フレイヤと同じではないか、というのです。十九世紀のヤーコプ・グリム以来、多くの学説がこの見方を採ってきました。

スウェーデンの研究者ヴィクトル・リュードベリはさらに進み、この英雄をフレイヤの夫オーズ、あるいは愛人オッタルと同じ人物だと論じました。

ただし、原典が両者を結びつけて書いているわけではありません。 名の意味と首飾りの一致から導かれた解釈です。

メングロズはヨトゥンヘイムに住み、リュルという美しい館の女主人で、召使いたちとともに病に苦しむ女性を治療していると伝えられます。治療する女という点では、この英雄の母グローアとも重なります。

スヴィプダグの家系図と家族

スヴィプダグの親: グローア母子。死後に九つの呪文を授ける

ふつうのつながり きょうだい 敵対・国ゆずり 本によって話がちがう

スヴィプダグの性格と人物像

スヴィプダグは、言葉で道を開いた英雄です。

竜を討ちません。巨人と斬り合いもしません。この物語で使われるのは、呪文と問答だけです。

武器の代わりに、母から授かった九つの呪文と、十八の問いに答える知識を持って旅をします。

北欧の英雄といえばシグルズです。あちらは剣を打ち直し、穴に潜んで竜を刺します。この英雄は、墓の前で母を呼び、門の前で謎に答えます。同じ神話に、まったく違う型の英雄が並んでいます。

もうひとつ特徴があります。自分から望んだことが何もない。 旅に出たのは継母の言いつけ、たどり着いた先の門は最初から自分のために開くことになっていた。

それでも、この英雄は歩き通しました。決められた道を、自分の足で歩き切ること。 北欧神話が英雄に求めたのは、いつもそれでした。

後の伝えでは、剣を取り戻し、トールと戦ってミョルニルの柄を折り、アース神族に迎えられたとも語られます。

スヴィプダグゆかりの地と遺跡

この英雄を祀った場所は見つかっていません。 地名にも残っていません。

物語のうえでのゆかりの場所は二つあります。ひとつは母を呼び起こした、もうひとつはメングロズの住む館リュルです。どちらも所在は書かれていません。館があるとされるのは巨人の国ヨトゥンヘイムで、地上のどこかに比定できる土地ではありません。

スヴィプダグが現代に残した痕跡

この英雄の名は、二篇の詩と、後の系譜のなかに残りました。

『グローアの呪文歌』と『フョルスヴィーズルの言葉』: 旅の前半と後半を伝える二篇の古エッダ詩。長く別の詩として扱われたが、いまは一続きの物語として読まれる。

アングロサクソン年代記のスウェブダイ: デイラ王エラの祖先の名にスウェブダイの名が見える。同じ形の名がイングランドの系譜にも残っている。

九つの呪文: 重荷、道、川、敵、鎖、海、霜、死者、巨人。旅の危難を九つに分けて数え上げる形は、北欧の呪文歌の型をよく残している。

スヴィプダグが司るもの

恋愛

定められた相手のもとへたどり着いた英雄として語られる。

勇気

果たせないはずの言いつけを引き受け、九つの世界を巡ったことによる。

旅の安全

母から授かった九つの呪文が、旅の危難を退けたとされる。

スヴィプダグについてよくある質問

スヴィプダグとは誰ですか。

古エッダの二篇に登場する英雄です。継母の言いつけでメングロズの愛を得る旅に出て、亡き母グローアから九つの呪文を授かりました。

なぜ母の墓を訪ねたのですか。

果たせないはずの言いつけを与えられたためです。降霊の術で亡き母を呼び起こし、旅の苦難を防ぐ九つの呪文を授かりました。

メングロズとは誰ですか。

「首飾りを喜ぶ女」を意味する名を持つ女性です。ヨトゥンヘイムのリュルという館に住み、病に苦しむ女性を治療しているとされます。女神フレイヤと同一視する説があります。

門番のフョルスヴィーズルは何者ですか。

はっきりしていません。この名は『グリームニルの言葉』第47節に出るオーディンの別名のひとつでもあるため、正体をめぐる議論が続いています。

スヴィプダグと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

ミョルニル(Mjölnir)

トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。