トールの妻。黄金の髪を持つ。

Dollman 「シヴ」 / パブリックドメイン 出典
シヴとは何の神様か
シヴはひとことで言えば麦畑そのものです。
トールの妻で、黄金の髪で知られます。この髪が実った麦の穂を表すという解釈が、古くから行われてきました。
この女神を有名にしているのは、髪を切られた事件です。
ロキが悪戯で、眠っているシヴの髪をすべて切り落としました。
激怒したトールに骨を砕くと脅されたロキは、小人の職人のもとへ走り、本物より美しい黄金の髪を作らせます。しかもその髪は、頭に載せると根づいて伸びるものでした。
このとき同時に作られたのが、トールの槌ミョルニル?、オーディンの槍グングニル、フレイの船と猪です。
神々の宝物はすべて、この女神の髪を切った後始末から生まれました。
名は「姻戚関係」「縁」を意味する語と同じです。
シヴの名前の表記と読み方
古ノルド語では Sif。日本語では「シヴ」「シフ」の両方が使われます。原語の発音に近いのは「シヴ」です。
注目すべきは、この名が普通名詞と同じだという点です。古ノルド語の sif は「姻戚関係」「縁」を意味し、複数形 sifjar は「親族の絆」を指します。
「縁」という名の女神が、雷神の妻である。 婚姻そのものを体現した神だったと考えられています。
Sif(シヴ)
古ノルド語の表記。「姻戚」「縁」を意味する語と同じで、婚姻による結びつきを表す。
Sif(シフ)
日本語では「シフ」とも表記される。
ゴールドマーネ(こがねのかみのシヴ)
原典で繰り返される「黄金の髪のシヴ」という呼び方。この女神の枕詞にあたる。
シヴの物語
髪を切られる ─ 眠っているあいだに
ある夜、ロキが眠っているシヴの髪をすべて切り落としました。
理由は書かれていません。ただの悪戯です。
新エッダ?はこう記します。
ロキは悪意から、シヴの髪をすべて刈り取った。
目を覚ましたシヴがどうしたかは、記されていません。この女神の言葉は、神話にほとんど残っていません。
代わりに動いたのは夫のトールでした。
トールはこれを知り、ロキを捕らえて骨という骨を砕こうとした。
ロキは必死に誓います。
小人に、黄金の髪を作らせる。 それは本物の髪のように、頭に生えて伸びるものだ。
トールは手を放しました。後始末が始まります。
首を賭ける ─ 神々の宝が生まれる
ロキは小人のイーヴァルディの息子たちのもとへ行き、黄金の髪を作らせました。ついでにオーディンの槍グングニルとフレイの船スキーズブラズニルも作らせます。
ここでロキは、余計なことをしました。
別の小人ブロックとエイトリの兄弟に、こう持ちかけたのです。
これより良いものが作れるか。 できないほうが首を差し出す。
兄弟は挑みます。ロキは負けを恐れ、虻に化けて職人を刺しました。
猪を作るとき手を刺し、船を作るとき首を刺し、槌を作るときは瞼を刺して血で目を塞ぎました。
ブロックが血を拭うために一瞬手を止めたため、槌の柄が短くなります。
それでも神々は、その槌ミョルニルを最良と認めました。
ロキの負けです。
首を要求されると、ロキは言い逃れます。「首は賭けたが、頭は賭けていない。」
小人たちは怒り、代わりにロキの口を縫い合わせました。
神々の宝六つは、すべてこの一件から生まれています。 発端は、シヴの髪でした。
髪は麦だったのか ─ 解釈をめぐって
シヴの黄金の髪については、古くからひとつの解釈があります。
実った麦の穂を表しているのではないか。
根拠はいくつかあります。
まず色です。黄金の髪という表現は、熟した麦の色そのものです。
次に切られて作り直されるという筋です。麦は毎年刈り取られ、翌年また生えます。切られた髪が根づいて伸びるという新エッダの記述は、この循環と一致します。
さらに夫がトールであることも指摘されます。雷神は雨をもたらす神です。雨と麦の結婚として読めば、農耕の神話としてきれいに収まります。
スカンディナヴィアには、「シヴの髪」と呼ばれる植物の呼び名も残っています。
ただし原典には、この解釈を直接裏づける記述はありません。麦の女神だという明言はどこにもないという点は、正確に押さえておく必要があります。
宴での応酬 ─ 一度だけ喋る
シヴが自分の言葉で語る場面は、古エッダ?に一度だけあります。
神々の宴にロキが押しかけ、居並ぶ神々の秘密を暴いていく「ロキの口論」の場面です。
次々に神々が黙らされるなか、シヴが立って杯を差し出しました。
さあ、ロキよ。 冷たい杯を満たした古い蜜酒を受け取ってほしい。せめて私一人だけは、神々のなかで責められずにいてほしいのです。
穏やかに、争いを収めようとしています。
ロキは杯を受け取り、飲み、そして言いました。
おまえだけは違うと言えるならな。 だが私は知っている。トールを裏切って寝た男を、私は一人知っている。
そこへトールが到着し、ロキは追い出されます。
この場面が、シヴの唯一の台詞です。 争いを収めようとして、逆に暴かれて終わりました。
シヴの家系図と家族
シヴの性格と人物像
シヴは、語られない女神です。
台詞は一度きり。行動らしい行動もありません。髪を切られたときも、怒ったのは夫のほうでした。
それでいて、この女神を起点に神話が動きます。
髪を切られたから、ロキが小人のもとへ走り、神々の宝六つが生まれました。 トールの槌ミョルニルがなければ、巨人との戦いはすべて負けていたはずです。
北欧の神々の武装は、この女神の髪から始まっています。
名が「縁」を意味することも示唆的です。この女神は、神々をつなぐ位置にいます。トールの妻であり、ウルの母であり、宴では争いを収めようとした。
自分から何かを起こすのではなく、周りが動く中心にいる。
黄金の髪が本当に麦だったのなら、それは正しい姿です。麦は自分では動きません。 刈られ、また生え、人々の暮らしを支え続けるだけです。
シヴゆかりの地と遺跡
シヴを祀った場所は伝わっていません。
しかし名前は詩の言葉として生き残りました。北欧の詩人は黄金のことを「シヴの髪」と呼びます。
神殿は建たなかったが、比喩として千年使われた。
ウプサラ大学図書館 カロリーナ・レディヴィヴァ(Carolina Rediviva)
『スノッリのエッダ』の写本を所蔵
ウプサラ大学図書館 カロリーナ・レディヴィヴァの住所: スウェーデン ウプサラ
ウプサラ大学図書館 カロリーナ・レディヴィヴァに残るもの: 写本
ウプサラ本(コデックス・ウプサリエンシス)を所蔵します。スノッリのエッダの写本のひとつで、シヴの髪が刈られ、小人が黄金の髪を鍛えて作り直す話を伝えています。
この一件で、ついでにミョルニル(トールの槌)も作られました。北欧神話でもっとも有名な武器は、妻の髪をいたずらで切った尻拭いとして生まれています。
同じ図書館には、世界最古級の聖書写本のひとつ銀泥聖書も収蔵されています。
展示室は無料。写本の実物公開は限られる。
スウェーデン歴史博物館(Historiska museet)
ヴァイキング時代の黄金を所蔵
スウェーデン歴史博物館の住所: スウェーデン ストックホルム
スウェーデン歴史博物館に残るもの: 金銀の装身具
地下の黄金の間に、鉄器時代からヴァイキング時代の金銀装身具が集められています。総重量50キロを超える金製品が並びます。
詩で黄金を「シヴの髪」と呼んだ人々が、実際にどんな金を見ていたのかが分かる場所です。
言葉の比喩が、物として目の前にある。
常設展は無料。黄金の間は地下にある。
シヴが現代に残した痕跡
シヴの名は、言葉と植物の呼び名に残りました。
古ノルド語 sif(姻戚): この女神の名は普通名詞そのもの。複数形 sifjar は「親族の絆」を意味する。ドイツ語 Sippe(一族)と同じ語源にあたる。
「シヴの髪」と呼ばれる植物: スカンディナヴィアには、金色の穂や苔をこの女神の髪にたとえた呼び名が残る。
黄金を指す詩の言い回し: 古ノルド語の詩では、黄金を「シヴの髪」と言い換える技法があった。
創作でのトールの妻という位置: マーベル作品などを通じて、雷神の妻として広く知られるようになった。
シヴが司るもの
豊作
黄金の髪が実った麦を表すという解釈による。雷神トールとの婚姻は、雨と麦の結びつきと読める。
婚姻・縁
名そのものが「姻戚関係」を意味する。婚姻による結びつきを体現する。
再生
切られた髪が根づいて伸びるという記述による。刈られてまた生える穀物の循環と重なる。
シヴが登場するゲーム・アニメ
創作では戦士にされることが多い女神です。マーベル版の影響が大きく、剣を振るう姿で知られるようになりました。
原典のシヴは戦いません。髪を切られ、宴で争いを収めようとした、それだけです。原典と創作の落差が大きい神のひとりです。
シヴが登場するゲーム
シヴが登場するアニメ・漫画・映像
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シヴについてよくある質問
シヴは何の神様ですか。
トールの妻で、黄金の髪で知られる女神です。その髪が実った麦を表すという解釈から、豊穣の女神とされることが多くあります。ただし原典に明言はありません。
シヴの髪はなぜ切られたのですか。
ロキの悪戯です。理由は書かれておらず、悪意から刈り取ったとだけ記されます。
切られた髪はどうなりましたか。
ロキがトールに脅され、小人の職人に黄金の髪を作らせました。頭に載せると根づいて伸びる髪です。このとき同時に、ミョルニル・グングニル・スキーズブラズニルなど神々の宝が作られました。
シヴの子供は誰ですか。
トールとの間に娘スルーズがいます。もう一人ウルという息子がいますが、新エッダはウルをトールの継子と記しており、父は不明です。
シヴの名前にはどんな意味がありますか。
古ノルド語で「姻戚関係」「縁」を意味する語と同じです。婚姻による結びつきそのものを体現した女神と考えられています。
シヴと併せて覚えたい言葉・用語
ミョルニル(Mjölnir)
トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。