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北欧神話

フルングニルとは何の神様か|家系図・物語

Hrungnir  / フルングニル

大地 巨人

石の頭と石の心臓を持つ巨人。トールと正面から決闘した唯一の相手。

フルングニルとは何の神様か

フルングニルはひとことで言えばトールが決闘した巨人です。頭も心臓も石でできており、心臓は三角形の砥石の形をしていたと伝えられます。

トールは数えきれないほどの巨人を倒していますが、そのほとんどは不意打ちか、旅の途中の戦いです。日時と場所を決め、双方が立会人を連れて向かい合った戦いは、この一件だけです。

きっかけは自慢でした。愛馬グルファクシを誇って主神オーディンと競走し、勢い余って神々の国へ入りこみ、酒に酔って暴言を吐きます。

決闘は投げ合いになりました。砥石と槌が空中でぶつかり、砥石は砕け、槌は飛んでこの巨人の頭蓋を割ります。砕けた砥石の破片はトールの頭に食いこみ、抜けないままになりました。

巨人のなかでもっとも強いとされ、その死後、トールはこれ以上の相手に会わなかったと歌われます。

フルングニルの名前の表記と読み方

古ノルド語では Hrungnir(フルングニル)。日本語ではフルングニール、ルングニールとも書かれます。

名の意味ははっきりしません。「騒がしい者」「音を立てる者」に通じるとする読み方がありますが、確定していません。

注目したいのは、この名がトールの呼び名として生き残ったことです。古エッダロキの口論』第61節で、トールは自分の槌を「フルングニル殺し」と呼びます。ほかにも「巨人フルングニルの脳天割り」というトールの言い換えが伝わります。倒された側の名が、倒した側の称号になっています。

さらに楯を「フルングニルの足場」と言い換える表現もあります。決闘のときこの巨人が楯を地面に置いてその上に乗ったことから来ています。

Hrungnir(フルングニル)

古ノルド語の表記。「騒がしい者」に通じるとする読み方がある。

Hrungnis bani(フルングニスバニ)

「フルングニル殺し」。槌ミョルニル、またはトールを指す言い換え。

Grjóttúnagarðar(グリョートトゥーナガルザル)

決闘の場となった土地の名。アースガルズとヨトゥンヘイムの境にあるとされる。

フルングニルの物語

  1. 競走 ─ 自慢が門をくぐらせる
  2. 猶予 ─ 武器を取りに帰る
  3. 決闘 ─ 楯を踏んだ理由
  4. 残されたもの ─ 頭の砥石と、三日の子

競走 ─ 自慢が門をくぐらせる

オーディンがスレイプニルに乗って巨人の国を訪れたとき、フルングニルは馬を褒めました。オーディンはこう応じます。

これほどの馬は、巨人の国にはいないだろう。

黙っていられませんでした。自分はもっと歩幅の広いグルファクシを持っていると言い返し、跨って追いかけます。

競り合ううちに、この巨人はアースガルズの門をくぐってしまいました。

客として迎えられ、フレイヤの酌で大量の酒を飲みます。そして酔い、神々を罵り始めました。ヴァルハラごと持ち去る、女神たちを連れ去る、といった暴言だったと伝えられます。

招かれざる客が、招かれた席で言ってはならないことを言う。 決闘はここから始まります。

猶予 ─ 武器を取りに帰る

呼ばれたトールは激怒し、その場で打ち倒そうとしました。

ところがフルングニルは武器を持っていませんでした。そこでこう咎めます。非武装の自分を殺すのは卑怯だ、と。

トールは引きます。改めて日を決め、アースガルズとヨトゥンヘイムの境グリョートトゥーナガルザルで決闘することになりました。

この一場面が、フルングニルを他の巨人と分けています。 力任せの相手ではなく、名誉の理屈でトールを止められる相手だった。

ヨトゥンヘイムの巨人たちは、自分たちのいちばん強い者が討たれることを恐れました。そこで粘土をこねて巨大な人形モックルカールヴィを作り、味方に立たせます。

ただし心臓に牝馬のものを使ってしまったため、この人形はトールを見て震えるばかりでした。

決闘 ─ 楯を踏んだ理由

決闘の場でフルングニルは、砥石を担ぎ、石の楯を持って立ちました。

そこへトールの召使いシャールヴィが走り寄り、こう告げます。トールは地下に潜って、下から攻めるつもりだ、と。

嘘でした。しかしこの巨人は信じ、楯を地面に置いてその上に乗ります。 身を守る道具を足場にしてしまったわけです。

トールは槌ミョルニルを、フルングニルは砥石を、互いに向かって投げました。

二つは空中でぶつかり、砥石は砕け、槌はそのまま飛んで巨人の頭蓋を打ち砕きました。

決闘の場での正面勝負に見えて、勝負を決めたのは召使いの一言です。北欧神話は、力比べの話にも必ず知恵を混ぜます。

残されたもの ─ 頭の砥石と、三日の子

倒れた巨人の脚は、トールの上に落ちました。神々が総出でも動きません。

動かしたのは、生まれて三日目の子マグニでした。母は女巨人ヤールンサクサ。この子はあっさり脚をどかし、こんな巨人なら拳骨でやっつけたのに、と言ったと伝えられます。トールは褒美にグルファクシを与えました。

一方トールの頭には、砕けた砥石の破片が食いこんでいました。魔女グローアが呪歌を歌って抜こうとしますが、砥石は取り除かれず、そのまま残ったと『詩語法』は伝えます。

さらに散った破片は各地に落ち、砥石の採石場になったと語られます。

倒された巨人の体が、地上の資源の由来として説明されている。 北欧神話らしい終わり方です。

フルングニルの家系図と家族

フルングニルの性格と人物像

フルングニルは、礼を知っていた巨人です。

酒に酔って暴言を吐いたのは事実です。しかし武器を持たない自分を討つのは卑怯だと言い、トールにそれを認めさせました。理屈で神を止められた巨人は、ほかにいません。

強さも折り紙つきです。古エッダ『ハールバルズルの唄』第14節には、この巨人を倒してからトールはこれ以上の相手に会わなかった、という趣旨の歌があります。『グロッティの歌』第9節は、本人も父も強かったと歌います。

それでいて、負け方は情けないのです。召使いの嘘を信じて楯を踏み、投げ合いで頭を割られます。

強く、誇り高く、そして単純。神話の巨人がしばしば与えられる性格を、この一柱がまとめて背負っています。 味方が作った人形が牝馬の心臓で震えてしまう、という一段まで含めて、笑いと敬意が同居する描かれ方です。

フルングニルゆかりの地と遺跡

この巨人を祀った場所は見つかっていません。 巨人は祀られる側ではなく、恐れられ語られる側でした。

物語のうえでのゆかりの地は、決闘の場グリョートトゥーナガルザルです。アースガルズとヨトゥンヘイムの境にあるとされますが、地上のどこかに比定できる土地ではありません。砕けた砥石が各地の採石場になったという伝えもありますが、特定の採石場をこの巨人に結びつける資料は確認できていません。

フルングニルが現代に残した痕跡

この巨人の名は、詩の言い換えのなかにいくつも残っています。

「フルングニル殺し」: トールの槌ミョルニル、またはトール自身を指す言い換え。『ロキの口論』第61節でトール自身がこの呼び方を使う。

「フルングニルの足場」: 楯を指す言い換え。決闘のときこの巨人が楯を地に置いて踏んだことに由来する。『コルマクのサガ』の詩にも同じ言い方が出る。

砥石の採石場: 砕けた砥石の破片が各地に散って採石場になったと『詩語法』は伝える。倒された巨人の体が地上の資源の由来として語られている。

フルングニルが司るもの

巨人のなかでもっとも強いとされたことによる。

日時と場所を決めた正面からの決闘に臨んだ巨人として語られる。

フルングニルについてよくある質問

フルングニルはどんな巨人ですか。

頭も心臓も石でできた巨人で、心臓は三角形の砥石の形をしていたとされます。巨人のなかでもっとも強いと語られます。

なぜトールと決闘したのですか。

馬の自慢から競走になり、勢いでアースガルズへ入りこみ、酒に酔って神々を罵ったためです。武器を持っていなかったため、後日改めて決闘する約束になりました。

トールは無傷だったのですか。

砕けた砥石の破片が頭に食いこみました。魔女グローアが呪歌で抜こうとしましたが取り除かれず、そのまま残ったと伝えられます。

モックルカールヴィとは何ですか。

巨人たちが粘土で作った巨大な人形です。心臓に牝馬のものを使ったため、トールを前にして震えるばかりでした。

フルングニルと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。

ミョルニル(Mjölnir)

トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。