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北欧神話

フレースヴェルグとは何の神様か|家系図・物語

Hræsvelgr  / フレースヴェルグ

大地 巨人

天の北の果てにいる鷲の巨人。翼を広げると風が起こる。

フレースヴェルグとは何の神様か

フレースヴェルグはひとことで言えば風の原因です。鷲の姿をした巨人で、名は「死体を飲みこむ者」を意味します。

古エッダ『ヴァフスルーズニルの言葉』第37聯によれば、世界のあらゆる風は、この鷲が起こしたものです。 スノッリは新エッダでこの部分を引き、いるのは天の北の果てであり、風が吹くのはこの鷲が飛び立とうとして翼を広げるからだ、と補いました。

風という自然現象に、たったひとつの原因を与えている点が特徴です。風の神ではなく、風を起こしてしまう生きものとして語られます。

『巫女の予言』第50聯には、ラグナロクのときに死者を嘴で引き裂く鷲が出てきます。名は伏せられていますが、姿と名の意味から、この鷲だとする説があります。

フレースヴェルグの名前の表記と読み方

古ノルド語では Hræsvelgrhræ(死体)と svelgr(飲みこむ者)から成り、「死体を飲みこむ者」となります。

風を起こす存在に、死体の名が付いているのは奇妙に思えますが、戦場に鷲や鴉が集まる光景が、この名の背景にあるとみられます。

svelgr は「渦」「大渦巻き」も意味します。飲みこむ口と、巻きこむ渦。風の激しさを表す語として、よく選ばれた名です。

日本語ではフレースヴェルグ、フレスベルグと表記が分かれます。

Hræsvelgr(フレースヴェルグ)

古ノルド語の表記。hræ(死体)と svelgr(飲みこむ者)から成る。

Hraesvelg(フレスベルグ)

日本語の文献に見られる別表記。

Hrævelgr(フレーヴェルグ)

写本による綴りの揺れ。

フレースヴェルグの物語

  1. 風はどこから来るのか
  2. 飛び立とうとするだけ
  3. 世界樹の鷲と同じか

風はどこから来るのか

古エッダ『ヴァフスルーズニルの言葉』は、オーディンと巨人の問答の形をとっています。そのなかにこの問いがあります。

風はどこから来るのか。海の上を渡り、人には見えぬのに。

巨人はこう答えます。

フレースヴェルグという者が、天の果てに座っている。鷲の姿をした巨人である。その翼から、あらゆる人の上に風が起こるという。

見えないものに、見える形を与えている。 北欧神話の自然の説明は、たいていこの形をとります。雷は槌、地震は身悶え、風は翼です。

飛び立とうとするだけ

注意して読むと、この鷲は飛んでいません。

スノッリの補足はこうです。

彼が飛び立とうとして翼を広げるとき、その下から風が起こる。

座ったまま、翼を広げようとする。それだけで世界中に風が吹きます。

動き出す前の身じろぎが、すでに嵐になっている。 この一頭が本当に飛んだらどうなるのかは、書かれていません。 書かれていないことが、この存在の大きさを伝えています。

世界樹の鷲と同じか

世界樹ユグドラシルの頂にも、一羽の鷲がとまっています。

鷲がとまっており、多くのことを知っている。その眉間には、ヴェズルフェルニルという名の鷹がとまっている。

この鷲の名は書かれていません。そのため、フレースヴェルグと同じではないかという説が古くからあります。

また『巫女の予言』でラグナロクのときに死者を裂く鷲も、名がありません。こちらも同一視されることがあります。

名の無い鷲が三か所に出てくるため、それらをどう結ぶかで解釈が分かれています。 原典が同じだと言っている箇所はありません。

フレースヴェルグの家系図と家族

フレースヴェルグの子・子孫: 霜の巨人鷲の姿をした巨人

フレースヴェルグの性格と人物像

フレースヴェルグには、意志が描かれていません。

誰かを憎むわけでも、神々に加勢するわけでもない。天の北の果てに座り、翼を広げようとしている。それだけです。

しかしその一挙動が、海を渡る風になり、人の営みすべてに触れています。

当人に何の意図もないのに、世界中に影響が及ぶ。 自然の力を語るのに、これほど的確な形もありません。

ロキスルトのように舞台に出てこない代わりに、この巨人は毎日誰の頬にも触れている存在です。北欧神話には、こうした静かな巨大さを持つものがいくつかあります。

フレースヴェルグゆかりの地と遺跡

フレースヴェルグを祀った場所はありません。 名を呼ぶ相手ではなく、風という現象の説明として語られました。

遺物としても、この鷲を彫ったと確かめられるものは見つかりませんでした。北欧の武具や石碑には鷲の意匠が多く見られますが、どれが特定の一頭を表すかを示す銘はなく、位置も特定されていません。

フレースヴェルグが現代に残した痕跡

この鷲の名は残りませんでしたが、風を鳥の翼で説明する語り方は各地に残りました。

北風を鳥で描く図像: 中世ヨーロッパの地図には、四方の風を吹く姿で描く習わしがある。北欧の翼の説明とは別系統だが、風に姿を与える点は共通する。

「渦」を意味する svelgr: 名の後半は大渦巻きも意味し、ノルウェー沿岸の渦潮の名にも使われた。

現代作品での登場: 風を司る巨大な鷲という設定が扱いやすく、ゲームや小説で取り上げられている。

フレースヴェルグが司るもの

航海安全

風を起こす存在とされ、海を渡る者にとって最も切実な相手だった。

翼を広げようとするだけで世界中に風が吹くとされる。

フレースヴェルグについてよくある質問

フレースヴェルグとは何ですか。

鷲の姿をした巨人です。天の北の果てに座り、翼を広げようとすることで世界中に風を起こすとされます。

名前の意味は何ですか。

「死体を飲みこむ者」です。戦場に鷲が集まる光景が背景にあるとみられます。

世界樹の頂にいる鷲と同じですか。

同一視されることがありますが、原典が同じだと書いた箇所はありません。世界樹の鷲には名が記されていません。

ラグナロクでどうなりますか。

明記されていません。『巫女の予言』で死者を裂く鷲がこの巨人だとする説がありますが、名は伏せられています。

フレースヴェルグと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

ユグドラシル(Yggdrasill)

世界を貫いて立つ巨大な樹。三つの根がそれぞれ別の世界へ伸び、その根元に泉がある。