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北欧神話

リンドとは何の神様か|家系図・物語

Rindr  / リンド

大地 巨人

バルドルの復讐者ヴァーリを産んだ女性。主神の求めを拒み続けた。

リンドとは何の神様か

リンドはひとことで言えば復讐者を産むために求められた女性です。主神オーディンとの間にヴァーリをもうけました。

出発点は予言でした。バルドルが死ぬ前、オーディンは死者の国へ下って古い巫女を呼び起こし、こう告げられます。バルドルの死を討つ子は、リンドが産む。

予言のためだけに名を呼ばれた女性です。しかし物語は、そう簡単には進みませんでした。

『デンマーク人の事績』によれば、この女性は主神の求めをはっきり拒みました。 オーディンは半ば強引な手段で目的を果たし、そのために王位を追われます。

新エッダではアース神族の女神の一人に数えられ、一方で巨人である可能性も指摘されており、素性は定まっていません。

リンドの名前の表記と読み方

古ノルド語では Rindr(リンド)。ラテン語で書かれた『デンマーク人の事績』ではリンダの形で現れ、日本語ではリンド、リンダ、リンドルと書き分けられます。

名の由来ははっきりしません。「樹皮」を意味する語や、凍った大地を指す語と結びつける読み方が提出されてきましたが、どれも決め手を欠いています。

この名がいちばんよく残っているのは、息子を呼ぶ言い方のなかです。『詩語法』はヴァーリの言い換えとして「オーディンとリンドの子」を挙げています。母の名で子を呼ぶ形は、北欧の詩ではしばしば使われました。

Rindr(リンド)

古ノルド語の表記。日本語ではリンドル、リンダとも書かれる。

Rinda(リンダ)

『デンマーク人の事績』での書き方。ルテニアの王の娘とされる。

Rindar sonr(リンダルソン)

「リンドの子」。ヴァーリを指す言い換えとして使われる。

リンドの物語

  1. 予言 ─ 名を先に呼ばれる
  2. 拒まれる主神 ─ デンマーク人の事績
  3. 一夜で成人する子
  4. 女神か、巨人か

予言 ─ 名を先に呼ばれる

古エッダ『バルドルの夢』は、オーディンが死者の国へ下る場面から始まります。

息子バルドルが死ぬ夢を繰り返し見たため、主神は自ら馬を駆り、古い巫女を呪文で呼び起こしました。そして問います。誰がバルドルの仇を討つのか、と。

巫女は答えました。

西の館でリンドがヴァーリを産む。その子は一夜で成人し、バルドルの仇を討つ。

まだ会ってもいない女性の名が、産む子の名とともに先に告げられます。

この神話の運命観がよく出た場面です。 予言は外れません。オーディンは、外れない予言を実行するために動くことになります。

拒まれる主神 ─ デンマーク人の事績

十二世紀末のデンマークで書かれた『デンマーク人の事績』は、この場面をずっと詳しく伝えます。

そこでのリンダは、ルテニアの王の娘です。オーティヌス、つまりオーディンは復讐者を産ませねばならず、その相手はこの娘でなければなりませんでした。

ところが娘は拒みました。 一度ではありません。

オーディンは姿を変えて何度も近づき、最後には半ば強引な手段をとります。そのふるまいが原因で、主神は神々のあいだで面目を失い、王位を追われました。

主神が代償を払わされる、数少ない場面です。 片目を捧げ、自らを木に吊るした神が、ここでは望まぬ形で退けられます。

生まれた子はボーウスと呼ばれ、ホテルス、つまりヘズに復讐しました。

一夜で成人する子

生まれた子ヴァーリは、一夜にして成人したと伝えられます。

髪も梳かず、手も洗わないまま、腹違いの兄ヘズを討ちに向かったと歌われます。バルドルを射たのはヘズでしたが、その手を導いたのはロキでした。

罪を犯した者ではなく、道具にされた者が討たれています。

この子はラグナロクを生き延びます。異母兄弟のヴィーザルとともに新しい世界に立ち、よみがえったバルドルとヘズにも再会するとされます。

討った者と討たれた者が、焼け跡の世界で顔を合わせる。 母リンドの名は、この長い連なりの入口に置かれています。

女神か、巨人か

この女性の素性は、書物によって変わります。

新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』は、女神を列挙するなかにこの名を入れます。アース神族の女神という扱いです。

一方で、巨人である可能性も早くから指摘されてきました。オーディンが求婚に苦労し、姿を変えて近づかねばならなかった相手は、たいてい巨人の娘だからです。

『デンマーク人の事績』はさらに違います。そこでは神でも巨人でもなく、人間の王の娘です。

同じ人物が、女神・巨人・王女の三通りに書かれている。 北欧神話の資料の性格をよく表しています。

どれが本来の姿かは決まっていません。わかっていない、というのが今のところの答えです。

リンドの家系図と家族

リンドの性格と人物像

リンドは、拒むことで神話に残った女性です。

北欧神話には、神に求められて応じる女性が多く出てきます。ゲルズは脅されて折れ、スカジは和解として婚礼に応じました。この女性は違います。

『デンマーク人の事績』のリンダは、主神を何度も退けます。そして拒まれた側が、その報いを受けます。

応じたあとの姿は描かれません。子を産んだあと、この女性がどうなったのかも記されていない。役目を終えると物語から消えます。

それでも名が残ったのは、息子を「リンドの子」と呼ぶ言い方が定着したからでした。

復讐という重い役目を負わされ、それを産むためだけに呼ばれた女性。 事績はほとんどありませんが、読み返されるたびに輪郭がはっきりしてくる名前です。

リンドゆかりの地と遺跡

この女性を祀った場所は見つかっていません。 地名にも人名にも残っていません。

『デンマーク人の事績』は、この女性をルテニアの王の娘としています。ルテニアは現在のロシアやウクライナにあたる地域を指す古い呼び名ですが、物語のうえでの設定であり、特定の土地を指すものではありません。実在の場所と結びつける資料は確認できていません。

リンドが現代に残した痕跡

この女性の名は、息子を呼ぶ言い方と、二つの書物の食い違いのなかに残りました。

「オーディンとリンドの子」: ヴァーリを指す言い換えとして『詩語法』が挙げる。母の名で子を呼ぶ形が定着した例。

二つの結末: エッダでは女神として名が挙がるだけだが、『デンマーク人の事績』では主神を拒み続ける王女として詳しく描かれる。同じ人物の扱いがこれほど違う例は珍しい。

一夜で成人する子: 生まれたその日に大人になり、髪も梳かずに復讐へ向かうという語り。北欧の復讐譚の型として繰り返し引かれてきた。

リンドが司るもの

出産

予言された復讐者ヴァーリを産んだことによる。

復讐

バルドルの仇を討つ子の母として語られる。

名を凍った大地に結びつける読み方があり、そこから芽吹きと重ねられてきた。

リンドについてよくある質問

リンドは誰ですか。

主神オーディンとの間にヴァーリを産んだ女性です。ヴァーリはバルドルの仇を討つ子として、あらかじめ予言されていました。

リンドは女神ですか、巨人ですか。

定まっていません。新エッダはアース神族の女神に数え、巨人である可能性も指摘されています。『デンマーク人の事績』では人間の王の娘として描かれます。

オーディンの求めを拒んだのですか。

『デンマーク人の事績』ではそう語られます。何度も退けられたオーディンは半ば強引な手段をとり、そのために王位を追われました。

ヴァーリはどうなりましたか。

一夜で成人し、腹違いの兄ヘズを討ちました。ラグナロクを生き延び、よみがえったバルドルとヘズにも再会するとされます。

リンドと併せて覚えたい言葉・用語

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。