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北欧神話

シグルーンとは何の神様か|家系図・物語

Sigrún  / シグルーン

ワルキューレ

ヘルギを愛したワルキューレ。塚に通い、生まれ変わってなお添う。

シグルーンとは何の神様か

シグルーンはひとことで言えば死んでも添おうとした女です。ワルキューレの一人で、名は古ノルド語で「勝利のルーン」を意味します。

物語は古エッダ『フンディング殺しのヘルギの歌』に伝わります。九人のワルキューレを率いて空を駆けていたとき、英雄ヘルギと出会って恋に落ちました。

そこから先が過酷です。父は娘を別の男と婚約させており、ヘルギは反対する者をすべて討ちました。残されたのは、忠誠を誓って生き延びた兄ダグルだけです。 その兄が、一族の仇を討つ務めからヘルギを殺します。

この女は兄に呪いをかけ、夫の塚に通い、悲しみのあまり若くして死にました。そしてワルキューレとして生まれ変わります。

シグルーンの名前の表記と読み方

古ノルド語では Sigrún(シグルーン)。sigr(勝利)と rún(ルーン)の合成で「勝利のルーン」を意味します。

ワルキューレの名は、たいてい戦いに関わる語で組み立てられています。この名も例外ではありません。ただし後半の「ルーン」には「文字」だけでなく「秘密」「囁き」の意味もあり、「勝利の秘密」と読むこともできます。

もう一つ、この人物には転生という特徴があります。古エッダの編纂者は、シグルーンをスヴァーヴァという別のワルキューレの生まれ変わりだと注記しました。そして本人も、死後にカラという名で生まれ変わったとされます。三代にわたって同じ魂が語られる、珍しい人物です。

Sigrún(シグルーン)

古ノルド語の表記。sigr(勝利)と rún(ルーン)の合成で「勝利のルーン」を意味する。

Helgi(ヘルギ)

シグルーンが愛した英雄の名。〈フンディング殺しのヘルギ〉と呼ばれる。

Kára(カラ)

シグルーンが生まれ変わった後の名とされる。

シグルーンの物語

  1. 九人の隊 ─ 出会い
  2. 一族を討つ ─ 残された兄
  3. オーディンの槍 ─ 兄が果たした務め
  4. 塚の一夜 ─ 死者と過ごす

九人の隊 ─ 出会い

ヘルギがシグルーンと初めて出会ったのは、彼女が九人のワルキューレの隊を率いていたときでした。

空を駆ける乙女たちの先頭に立つ姿として現れます。ワルキューレは戦死者を選び取る者であり、本来は人と結ばれる存在ではありません。

それでも二人は恋に落ちます。 そしてシグルーンは、自分が置かれている事情をヘルギに打ち明けました。

父ホグニが、娘をグランマル王の息子ヘズブロッドと婚約させてしまった。望まない縁組です。この告白から、物語は一気に血なまぐさくなっていきます。

一族を討つ ─ 残された兄

ヘルギは軍を起こし、グランマル王の国へ攻め入りました。

倒したのは婚約者ヘズブロッドだけではありません。二人の交際に反対する者を、片端から討っていきます。 シグルーンの父も、兄弟たちもそこに含まれていました。

ただ一人生き残ったのが、兄ダグルです。ヘルギに忠誠を誓うことを条件に、命を許されました。

恋のために、相手の一族をほとんど滅ぼしています。 それでシグルーンとヘルギは結ばれました。北欧の英雄詩は、こうした結末を非難も弁護もせずに置いていきます。

オーディンの槍 ─ 兄が果たした務め

ダグルは命を許されました。しかし、北欧の掟からは逃れられません。兄弟の仇を討つことが、名誉によって義務づけられていたのです。

ダグルはオーディンを呼び出しました。そして神から槍を与えられます。

フィヨタルランドと呼ばれる場所で、ダグルはヘルギを討ちました。そして妹のところへ引き返し、自分がしたことを自分の口で告げます。

シグルーンは兄に、強い呪いをかけました。 ダグルはそののち、森のなかで腐肉を食べて生きることを余儀なくされたと伝えられます。

忠誠と復讐、どちらを取っても罪になる。この兄は、逃げ道のない場所に立たされていました。

塚の一夜 ─ 死者と過ごす

ヘルギは塚に葬られました。北欧の英雄詩でも屈指の場面が、ここから始まります。

死んだヘルギが、一度だけヴァルハラから戻ってきたのです。シグルーンは塚のなかへ入り、二人は一夜をともに過ごしました。

死者と生者が同じ床に就く。北欧神話がこれほど正面から描いた場面は、ほかにありません。

夜が明ければ、ヘルギは戻らねばなりません。シグルーンは待ち続けましたが、二度目はありませんでした。悲しみのあまり、この女は若くして死にます。

そしてカラという名のワルキューレとして生まれ変わり、ヘルギもまた別の英雄として生まれ変わって、物語は続いていきます。

シグルーンの家系図と家族

シグルーンの性格と人物像

シグルーンは、引き下がらない人物です。

望まない婚約を告げ、恋人に一族を討たせ、兄に呪いをかけ、死んだ夫の塚へ入っていきます。どの場面でも、自分から動いています。

北欧の英雄詩に出てくる女性は、しばしば男を動かす側に立ちます。ブリュンヒルドは裏切った男を殺させ、グズルーンは兄弟に復讐します。シグルーンもその系列にありますが、向かう先が少し違います。

この女が求めたのは復讐そのものではなく、愛した相手のそばにいることでした。塚へ入るのはそのためです。

そして死んでも終わりません。生まれ変わってもう一度出会う。運命に従うことしかできない神々の物語のなかで、この人物だけが、同じ望みを二度追いかけています。

シグルーンゆかりの地と遺跡

シグルーンを祀った場所は見つかっていません。 英雄詩の登場人物であり、信仰の対象になった記録は残っていません。

ゆかりの地として名が挙がるのは、兄ダグルがヘルギを討ったフィヨタルランドですが、これは詩のなかの地名で、実在の土地に当てられたことはありません。ヘルギが葬られた塚も、どの塚を指すのかは特定されていません。

シグルーンが現代に残した痕跡

この人物の物語は、古エッダの二編と、その後のサガに引き継がれました。

『フンディング殺しのヘルギの歌』: 古エッダの二編。シグルーンとヘルギの出会いから塚の一夜までを伝える。

スヴァーヴァの転生とする注記: 古エッダの最初の編纂者が、シグルーンを別のワルキューレ、スヴァーヴァの生まれ変わりだと注記している。

『フロームンド・グリプスソンのサガ』: シグルーンがカラとして、ヘルギがハッディンギャルの勇士ヘルギとして生まれ変わり、物語がこのサガに引き継がれる。

シグルーンが司るもの

恋愛

望まない婚約を退け、愛した相手のもとへ向かった物語による。

九人の隊を率いるワルキューレとして戦場に立つ姿で語られる。

再生

死後にカラという名で生まれ変わり、同じ相手とふたたび出会うとされる。

シグルーンについてよくある質問

シグルーンは何者ですか。

ワルキューレの一人です。名は「勝利のルーン」を意味し、英雄ヘルギを愛した物語が古エッダに伝わります。

ヘルギを殺したのは誰ですか。

シグルーンの兄ダグルです。一族の仇を討つ務めからオーディンを呼び出し、与えられた槍でヘルギを討ちました。

塚の場面とは何ですか。

葬られたヘルギが一度だけヴァルハラから戻り、シグルーンが塚のなかへ入って一夜をともに過ごした場面です。北欧の英雄詩でも屈指の場面として知られます。

シグルーンは生まれ変わるのですか。

カラという名のワルキューレとして生まれ変わったとされます。またそれ以前に、スヴァーヴァというワルキューレの生まれ変わりだとする注記も残っています。

シグルーンと併せて覚えたい言葉・用語

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。