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北欧神話

アスラウグとは何の神様か|家系図・物語

Áslaug  / アスラウグ

英雄

竪琴に隠されて育った王女。知恵くらべに勝ち、ラグナルの妃となる。

アスラウグとは何の神様か

アスラウグはひとことで言えば隠されて育った王女です。竜殺しの英雄シグルズと、ワルキューレブリュンヒルドとのあいだに生まれた娘とされます。

両親を早くに失い、養い親は幼い彼女を巨大な竪琴の中に隠したまま旅をしました。しかし宿を借りた夜に養い親は殺され、竪琴も壊されます。中から出てきた少女は、農夫夫婦の娘として育てられました。

名を上げるのは、知恵によってです。服を着るでも裸でもなく、満腹でも空腹でもなく、独りでも大勢でもない姿で来い。ラグナル・ロズブロークの難題に、少女は網をまとい、玉ねぎを噛み、犬だけを連れて応えました。

この人物が北欧の物語で重いのは、血筋を証明してみせたからです。離縁されかけたとき、蛇のような目をした子を産むと宣言し、そのとおりにしました。

その血筋は、ノルウェー王ハラルド美髪王とデンマーク王ハラルド青歯王へ続くとされます。

アスラウグの名前の表記と読み方

古ノルド語では Áslaug(アスラウグ)。日本語ではアースラウグとも書かれます。

この人物には、生涯の段階ごとに違う名が与えられています。名前が三つあり、それぞれが人生の局面に対応しています。

農夫夫婦のもとで育った時期はクラーカ、「カラス」の意です。汚れた服を着せられ、身分を隠されていた時期の名にあたります。

息子たちとスウェーデンへ攻め入って以後はランダリーンと呼ばれるようになったと『ラグナル・ロズブロークのサガ』および『ラグナルの息子たちの話』は伝えます。

名がそのまま履歴になっている、めずらしい例です。

Áslaug(アスラウグ)

古ノルド語の表記。日本語ではアースラウグとも書かれる。

Kráka(クラーカ)

「カラス」を意味する別名。農夫夫婦に育てられた時期の呼び名。

Randalín(ランダリーン)

スウェーデンへ復讐に向かって以後の呼び名だと『サガ』は伝える。

アスラウグの物語

  1. 竪琴の中の子 ─ 隠された血筋
  2. 知恵くらべ ─ 網と玉ねぎと犬
  3. 蛇の目の子 ─ 血筋の証明
  4. 復讐と、聞かれなかった忠告

竪琴の中の子 ─ 隠された血筋

父は竜ファフニールを討った英雄シグルズ、母はワルキューレのブリュンヒルド。北欧の物語でこれ以上ない血筋です。

両親の死後、育てたのはブリュンヒルドの養父ヘイミルでした。彼は子を隠せるほど巨大な竪琴を作らせ、その中にアスラウグを入れます。そして貧しい竪琴弾きを装い、各地を旅しました。

ノルウェーで農民の夫婦に一夜の宿を求めた夜、事は起こります。竪琴の中に貴重品が隠してあると誤解した夫婦が、眠っているヘイミルを殺し、竪琴を壊しました。

中から出てきたのは、少女でした。

夫婦はこの子を自分たちの娘として育て、クラーカ(カラス)と名づけます。そして高貴な生まれを隠すため、わざと汚れた服を着せました。

知恵くらべ ─ 網と玉ねぎと犬

ある朝、少女は浜に多くの船が着いているのを見ます。

身体を洗い、美しさを取り戻して家に戻ると、パンを焼きに来ていた船の料理人たちが目を奪われました。焼いていたパンを失敗するほどでした。

その話が、船団の長ラグナル・ロズブロークの耳に入ります。ラグナルは少女の知恵を試そうと、こう命じました。

服を着るわけでも裸でいるわけでもなく、満腹でも空腹でもなく、一人でいるわけでも集団でいるわけでもない状態で、わたしのもとへ来い。

少女は網を身にまとい玉ねぎを噛みながら犬だけを連れて現れました。

三つの条件が、三つの品でひとつずつ外されています。 網は着物であって着物ではなく、噛んでいる玉ねぎは食事であって食事ではなく、犬は連れであって人ではない。

ラグナルはこの少女に恋し、妃に迎えます。

蛇の目の子 ─ 血筋の証明

しばらくして、ラグナルはスウェーデン王から王女との結婚を勧められます。

身分の低い娘を妃にしたことへの不満が部下に広がっていたこともあり、ラグナルは離縁を決めてしまいました。

これを三羽の鳥から聞いたクラーカは、帰ってきた夫を激しく責め、はじめて自分の出自を明かします。父はファフニール殺しのシグルズであると。

そして証明の方法を宣言しました。蛇のような目をした子を産んでみせる。

宣言のとおり、生まれた子の目には蛇の輪がありました。蛇の目のシグルズと呼ばれます。父が竜を討った英雄であることを、生まれてくる子の目で証明したことになります。

ラグナルは離縁を取りやめました。

復讐と、聞かれなかった忠告

この破談によって、ラグナルとスウェーデン王の友好は終わります。

前妻ソーラの子であるエイレクとアグナルがスウェーデンへ攻め入り、アグナルは戦死、エイレクは捕らえられて自ら死を選びました。エイレクは継母アスラウグへの言伝を遺します。

アスラウグは継子の死に涙を流し、息子たちをうながしてスウェーデンへ攻め入り、復讐を果たして帰りました。この時からランダリーンと呼ばれるようになったと伝えられます。

最後の場面は、忠告の話です。ラグナルはわずか二隻でイングランドを攻めようとしました。アスラウグは船を増やすべきだと主張しますが、寡兵で勝つほうが名誉だとして聞き入れられません。

せめてもと、自ら編んだ魔法のシャツを渡します。ラグナルは敗れて捕らえられ、蛇の牢に投げこまれました。シャツを着ているあいだ蛇は噛みつけませんでしたが、脱がされて噛み殺されます。

忠告は二度とも正しく、二度とも通りませんでした。

アスラウグの家系図と家族

アスラウグの親: シグルズブリュンヒルド

アスラウグの妻・夫: ラグナル・ロズブローク

アスラウグの子・子孫: ヴァルキュリャワルキューレの娘とされる

アスラウグの性格と人物像

アスラウグは、証明し続けた人です。

この物語の筋は、一貫して「見くびられ、覆す」の繰り返しでできています。汚れた服の農夫の娘と見られ、知恵くらべで覆す。身分が低いと言われ、血筋を明かして覆す。それでも信じられず、子の目で覆す。

言葉で説明できないことを、そのつど別の形で示してみせています。

興味深いのは、力で押していないことです。難題には品物で答え、疑いには出産で答えました。武力を動かしたのは、継子の死に報いる復讐のときだけです。

そして最後は、正しい忠告が通らなかった話で終わります。船を増やせという助言も、シャツを脱ぐなという含みも、届きませんでした。

血筋の物語でありながら、読後に残るのは血よりも判断の確かさのほうです。

アスラウグゆかりの地と遺跡

この人物を祀った場所は見つかっていません。 神ではなく、サガに語られる王妃だからです。

ゆかりの地として語られるのは、竪琴を壊された農家があったとされるノルウェーの海沿いと、息子たちとともに攻め入ったスウェーデンです。ただし、どちらも特定の場所を一次資料で確かめられていません。

父シグルズについては、スウェーデンのラムスンドの岩絵という確かな遺物が残っています。娘であるこの人物を描いたと確かめられた図柄は、いまのところ報告されていません。

アスラウグが現代に残した痕跡

この人物の名は、王家の系譜と、近代以降の文学のなかに残りました。

蛇の目のシグルズの血筋: 『ラグナル・ロズブロークのサガ』と『ラグナルの息子たちの話』は、この子の血筋がノルウェー王ハラルド美髪王とデンマーク王ハラルド青歯王へ続くと伝える。

「アスラウグの養育」: 19世紀イギリスの詩人ウィリアム・モリスによる物語詩。モリスは『ヴォルスンガ・サガ』の英訳も手がけている。

三つの名: アスラウグ、クラーカ(カラス)、ランダリーン。育ちと復讐という人生の段階ごとに名が変わる、めずらしい伝わり方をしている。

アスラウグが司るもの

知恵

解けないはずの難題を、品物三つで解いてみせた。

復讐

継子の死に対し、息子たちとともに攻め入って報いた。

子の誕生

蛇のような目をした子を産むと宣言し、そのとおりにしたと語られる。

アスラウグについてよくある質問

アスラウグとは誰ですか。

北欧の物語に登場する王女です。英雄シグルズとワルキューレのブリュンヒルドの娘とされ、のちに王ラグナル・ロズブロークの妃となります。

クラーカとは誰のことですか。

アスラウグの別名です。「カラス」を意味し、農夫夫婦のもとで身分を隠されて育った時期の呼び名にあたります。

ラグナルの難題にどう答えたのですか。

網を身にまとい、玉ねぎを噛みながら、犬だけを連れて現れました。服でも裸でもなく、満腹でも空腹でもなく、独りでも大勢でもない姿を作ったことになります。

アスラウグはどの書物に出てきますか。

『ラグナル・ロズブロークのサガ』と『ラグナルの息子たちの話』が中心です。『スノッリのエッダ』第2部「詩語法」と『ヴォルスンガ・サガ』には、それぞれ一文だけ名前が挙がります。

『デンマーク人の事績』にも出てきますか。

この名は見当たりません。三番目の妃としてスヴァンローガという名が挙がり、名前の関連が指摘されていますが、記述は薄く、記録の食い違いが残っています。