穀物の女神。神殿は平民の拠点となり、その文書庫が置かれた。
ケレースとは何の神様か
ケレースはひとことで言えば穀物の女神です。ギリシャ名はデメテル。
ローマでは、この女神は平民の神でした。
前493年、アウェンティヌスの丘にケレース・リーベル・リーベラの三柱を祀る神殿が奉献されます。
この神殿が、平民の側の役所になった。
平民会の決議はここに納められ、護民官はここを聖域としました。
穀物の神殿が、そのまま政治の拠点になっている。 食糧の管理と力が結びついていたためです。
4月のケリアーリアでは、松明を持った女性たちが夜通し歩きました。娘プロセルピナを探す姿をなぞる行いとされます。
刈り入れの前には、初穂を女神に捧げてから食べる決まりがありました。
穀物を意味する外来語は、この女神の名から生まれています。
ケレースのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ケレス」「ケレース」が使われます。セレスは英語読みです。
育てる・成長させるを意味する語につながるとされます。
穀物を指す外来語は、この女神の名から生まれました。
英語で穀類の加工品を指す語も同じです。日本語でも朝食用の加工穀物を指す言葉として定着しています。
小惑星帯で最大の天体にも、この女神の名が付けられています。発見当時は惑星と考えられていました。
Ceres(ケレース)
ラテン語の主格。属格はケレリスとなる。育てる・成長させるを意味する語につながる。
Demeter(デメテル)
ギリシャ名。
ケレースの物語
平民の神殿 ─ 穀物と政治の結びつき
前493年、アウェンティヌスの丘に神殿が奉献されました。
祀られたのは三柱です。
ケレース、リーベル、リーベラ。
穀物の女神と、葡萄酒の神と、その対の女神。平民の暮らしを支える組み合わせです。
この神殿は、単なる祈りの場では終わりませんでした。
- 平民会の決議を納める文書庫が置かれた
- 護民官が身を寄せる聖域になった
- 穀物の配給を扱う役所が置かれた
食糧を握ることが、そのまま力を握ることだった。
護民官の身体は不可侵とされましたが、その身分を傷つけた者はこの女神に捧げられると定められました。財産を没収して神殿に納める、という意味です。
神殿が、法の執行機関でもありました。
神殿はギリシャ風の造りで、内部の装飾もギリシャ人の職人が手がけたと伝えられます。ローマの神殿としては早い例です。
ケリアーリア ─ 松明を持って歩く
4月12日から19日まで、ケリアーリアが行われました。
祭の中心は夜の行列です。
女性たちが白い衣を着て、松明を掲げ、野を歩き回りました。
さらわれた娘を探す母の姿をなぞって。
プロセルピナが冥界へ連れ去られたとき、ケレースは松明を灯して世界中を探し歩いたとされます。その姿を人が演じるのです。
祭の最終日には、大競技場で狐を放つ行事がありました。
尾に燃える松明を結びつけ、走らせます。
由来ははっきりしていません。
オウィディウスは、畑を荒らした狐を子どもが火をつけて追い、その火が畑に燃え広がった話を伝えています。ただしこれは、行事の理由を後から作った説明とみられています。
祭のあいだ、喪服を着てはならないとされました。カエサルの葬儀のためにこの祭が延期された記録も残っています。
初穂と刈り入れ ─ 食べる前の手続き
ローマ人は、新しい穀物を食べる前に女神へ捧げる決まりを持っていました。
刈り入れの前には、プラエキダーネアと呼ばれる雌豚を犠牲にします。
これを済ませないうちは、収穫を家に入れてはならない。
大カトーの農書にも、この手続きが書かれています。
一年のうちには、イエイユーニウム・ケレリス(ケレースの断食)という日もありました。前191年に始まり、初めは五年ごと、のちに毎年行われるようになります。
女性たちがその日一日、食を断ちました。
飢えを演じることで飢えを避ける。 ローマの祭には、この形がよく見られます。
前5世紀の初め、ローマは深刻な飢饉に見舞われました。神殿の奉献はその直後です。空腹の記憶が、この女神の信仰の出発点にありました。
ケレースの家系図と家族
ケレースの親: サートゥルヌス
ケレースの性格と人物像
ケレースの物語は、ほとんどがギリシャのデメテルから来たものです。
娘を奪われ、嘆き、大地を実らせなくする。その筋書きはそのまま受け継がれました。
ローマ側にあるのは、制度です。
平民の文書庫。穀物の配給。護民官の聖域。
物語ではなく、しくみのほうに残っています。
一方で、この女神には明るさがありません。
娘を探して歩く母、断食する女たち、飢饉の記憶。祭の中身は、どれも欠乏を前提としています。
豊かさを祝う祭ではなく、飢えないことを願う祭でした。
これは、ローマが繰り返し飢饉に襲われた都市だったことと切り離せません。
ケレースを祀った神殿と遺跡
ケレースの中心の神殿はアウェンティーノの丘にありました。ただし地上に遺構は残っていません。
ローマ帝国の各地には、この女神を祀る神殿が数多く建てられました。北アフリカのトゥッガにも神殿の跡があります。
穀物を作る土地には、必ずこの女神がいた。
ここに挙げたのは、住所を確かめられた二か所です。
ケレース・リーベル・リーベラ神殿(Aedes Cereris Liberi Liberaeque)
平民の拠点となった神殿
ケレース・リーベル・リーベラ神殿の住所: イタリア ローマ アウェンティーノの丘の斜面(北緯41.8833 東経12.4833)
ケレース・リーベル・リーベラ神殿の祀られた神: ケレース、リーベル、リーベラ
ケレース・リーベル・リーベラ神殿に残るもの: 地上に残っていない
ケレース・リーベル・リーベラ神殿のご利益: 五穀豊穣・平民の守り
前493年に奉献された神殿です。平民の側の役所でもありました。
平民会の決議はここに納められ、護民官はここを聖域としました。穀物の配給を扱う役所も置かれています。
護民官の身分を傷つけた者は、この女神に捧げられる(財産を没収される)と定められていました。
ギリシャ風の造りで、装飾もギリシャ人の職人が手がけたと伝えられます。
地上に遺構はない。丘の斜面と位置が特定されている。
ケレースとファウスティーナの神殿(Templum Cereris et Faustinae)
郊外の別荘に付属した神殿
ケレースとファウスティーナの神殿の住所: イタリア ローマ カッファレッラ渓谷 サンウルバーノ聖堂(北緯41.8578 東経12.5244)
ケレースとファウスティーナの神殿の祀られた神: ケレースと神格化されたファウスティーナ
ケレースとファウスティーナの神殿に残るもの: 神殿の躯体(聖堂に転用されて残る)
ケレースとファウスティーナの神殿のご利益: 五穀豊穣
2世紀、ヘロデス・アッティクスの別荘に付属して建てられた神殿です。
ケレースと、亡くなった皇后ファウスティーナを合わせて祀りました。
建物は中世に聖堂へ転用され、そのため躯体がよく残っています。
四本の円柱を持つ正面が、いまも壁の中に見えます。
カッファレッラ渓谷の中。見学には事前の申し込みが要る場合がある。
ケレースが現代に残した痕跡
ケレースの名は、穀物を指す語と小惑星に残りました。
穀類を指す外来語: この女神の名から生まれた語。日本語でも朝食用の加工穀物を指す言葉として定着している。
準惑星ケレス: 1801年に発見された小惑星帯最大の天体。発見当時は惑星と考えられていた。現在は準惑星に分類される。
セリウム: 原子番号58の元素。発見の直前にケレスが見つかったことから、その名が与えられた。
ケレースが司るもの
五穀豊穣
刈り入れの前に犠牲を捧げてから収穫を家に入れた。
飢饉除け
断食の日が設けられ、女性たちが食を断った。
平民の守り
神殿が平民会の文書庫となり、護民官の聖域になった。
ケレースが登場するゲーム・アニメ
作品では、女神そのものより準惑星の名として現れることが多くなっています。
デメテルとしての物語は広く知られていますが、ローマ側の特徴である平民の文書庫は、まず作品に出てきません。
制度は物語にならない。
しかし、ローマ史ではこちらが重要でした。
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ケレースについてよくある質問
ケレースとデメテルは同じ神ですか。
同一視されます。物語はギリシャから受け継いだものですが、ローマでは平民の神として政治に深く関わった点が独自です。
なぜ神殿が平民の拠点になったのですか。
穀物の配給を扱う場所だったためです。食糧を握ることが力を握ることでした。平民会の決議もここに納められ、護民官の聖域にもなりました。
ケリアーリアでは何をしましたか。
4月12日から19日まで、女性たちが白い衣を着て松明を掲げ、夜の野を歩きました。娘を探す母の姿をなぞる行いです。
穀類を指す外来語はこの女神に由来しますか。
そうです。日本語でも朝食用の加工穀物を指す言葉として定着しています。