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ローマ神話

アブンダンティアとは何の神様か|家系図・物語

Abundantia  / アブンダンティア

大地 抽象概念の神

あり余ることの女神。豊穣の角を傾けて中身をこぼす姿で表される。

アブンダンティアとは何の神様か

アブンダンティアはひとことで言えばあり余ることを神にしたものです。名は「あふれる」という意味の語によります。

この女神には、正直に書いておくべき点があります。共和政の記録には見えません。 現れるのは帝政の貨幣で、トラヤヌス帝以降に数が増えます。神殿も祭日も記録に残っていません。

図像ははっきりしています。豊穣の角(コルヌーコピア)を傾けて、中身をこぼす姿です。

角を抱えて立つだけの神は多くいます。傾けてこぼすところまで表すのが、この女神の目印です。

古代の祭祀としての実体は、ほとんどありません。ところが、図像としては古代よりも長く生き延びました。

中世からルネサンスにかけて、豊かさの寓意像として広く描かれます。ボッティチェリの素描が知られています。

フランスの民間伝承では、夜に家々を回って糧を置いていく善き婦人ダーム・アボンドの名に残りました。

祀られた記録のない神が、絵のなかで千年以上生き続けた例です。

アブンダンティアのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「アブンダンティア」がほぼ唯一の表記です。揺れはほとんど見られません。

名は「あふれる」という意味の語から作られました。必要な分があることではなく、必要を超えて有り余ることを指します。

足りていることと、余っていることは違います。

ローマの豊かさにかかわる神には、ケレースオプス、アンノーナなどがあります。そのなかでこの女神が担ったのは、余りが出るほどの豊かさでした。

近代の諸言語で豊富を意味する語は、この語から出ています。

なお、豊穣の角を意味するコルヌーコピアという語は、「角」と「豊かさ」を組み合わせたものです。この女神の持ち物の名にも、同じ意味の語が入っています。

Abundantia(アブンダンティア)

ラテン語の主格。あふれる、満ちあふれるという意味の語から作られた抽象名詞で、必要を超えて有り余る状態を指す。

Abundantia Augusti(アブンダンティア・アウグスティ)

皇帝の豊かさという意味。帝政期の貨幣に刻まれた形で、穀物の供給が保たれていることを示す言い方として用いられた。

Copia(コピア)

同じく豊かさを指すラテン語。豊穣の角を意味する語の後半にこの語が入っており、図像を読むときの手がかりになる。

アブンダンティアの物語

  1. 貨幣に現れた女神 ─ 帝政とともに
  2. こぼれる豊穣の角 ─ 図像の目印
  3. なぜ記録が少ないのか ─ 祀られなかった神
  4. 絵のなかで生き延びた ─ 寓意像とダーム・アボンド

貨幣に現れた女神 ─ 帝政とともに

アブンダンティアの名は、共和政の記録にまったく見えません。

神殿の記録も、祭日も、神官も伝わっていません。この女神が現れるのは、帝政に入ってからの貨幣です。

数が増えるのは、トラヤヌス帝以降です。

刻まれる場面には傾向があります。穀物の供給が保たれていることを告げるときです。

ローマ市には百万に近い人が住んでいたとされ、その食糧はエジプトや北アフリカから船で運ばれていました。供給が滞れば、たちまち暴動になります。

そのため、皇帝にとって食糧を絶やさないことは統治の要でした。港を整え、船団を守り、配給を続ける。その成果を告げる言葉として、この女神が選ばれます。

豊かさを神にしたというより、豊かさを保証していると告げるために神が用意されました。

似た役割の神にアンノーナ(年ごとの穀物の供給)があり、貨幣では図像がよく似ています。

こぼれる豊穣の角 ─ 図像の目印

この女神の見分け方ははっきりしています。豊穣の角を傾けて、中身をこぼしている姿です。

豊穣の角とは、山羊の角の形をした器で、なかから果物や穀物があふれ出る形に作られます。ローマの神々の多くがこれを持ちます。

ただし、ほとんどの神は角を抱えて立っているだけです。

アブンダンティアは、それを傾けます。 中身が地面や器へ流れ落ちる図になります。

動作が加わっている点が違いです。持っているだけなら「豊かである」ですが、こぼしているなら「有り余っている」になります。

角のほかに、麦の穂や、船の舳先が添えられることもあります。船は穀物を運ぶ船団を示します。

座って角を膝に置いた姿もあれば、立って前へ傾けた姿もあります。どの形でも、こぼれていることが共通します。

近世の寓意画では、この形がそのまま受け継がれました。

なぜ記録が少ないのか ─ 祀られなかった神

アブンダンティアには、神殿がありません。

祭日もありません。神官も、祈りの言葉も伝わっていません。

名が刻まれているのは、貨幣と、わずかな碑文だけです。

理由は、生まれ方にあります。

ローマの古い神々は、まず祭祀があり、あとから神殿が建ちました。 カルメンタフィデースもそうです。村や町の祭りが先にあり、それを国家が引き受ける形で建物が用意されました。

アブンダンティアは違います。帝政の広報の必要から、言葉として立てられました。 祀る人の集まりがないところに、いきなり図像が生まれています。

そのため、祀るための場所が要りませんでした。

この点は、セークーリタースとよく似ています。 どちらも帝政の貨幣に現れ、神殿を持ちません。

無いものを、あるように書くことはしません。 この女神については、それが正確な書き方になります。

絵のなかで生き延びた ─ 寓意像とダーム・アボンド

古代の祭祀としては実体の薄い神でしたが、図像は驚くほど長く生き延びました。

中世からルネサンスにかけて、豊かさを表す寓意像として広く描かれます。角を傾ける形は、そのまま受け継がれました。

ボッティチェリの素描が知られています。

歩みながら角を抱え、衣を風になびかせた女性像です。子どもたちを伴った構図で、豊かさの寓意として繰り返し引かれてきました。

フランスの民間伝承には、別の形で残りました。ダーム・アボンド、すなわち「豊かな婦人」と呼ばれる存在です。

夜のあいだに家々を回り、糧を置いていくとされました。

家の者が食べ物や飲み物を出しておくと、この婦人が来て蓄えを増やしてくれる。来なければ、その家は貧しくなる。そうした言い伝えが中世の記録に見えます。

古代に祀られなかった神が、民間の言い伝えのなかで生き続けました。

アブンダンティアの家系図と家族

アブンダンティアのきょうだい: パークス豊穣の角を持つ姿で重ねて表される

アブンダンティアの性格と人物像

アブンダンティアは、祀られた記録がないのに、絵のなかで千年以上生き続けた神です。

この形は、ローマの抽象概念の神のなかでも珍しいものです。多くは神殿とともに忘れられましたが、この女神は逆でした。

神殿を持たなかったからこそ、身軽に旅ができたとも言えます。

理由は図像にあります。角を傾けてこぼすという形は、言葉を知らなくても意味がわかります。豊かさを一目で示せる絵柄でした。

研究の上では、この女神は図像がどう生き延びるかを見る材料として扱われます。祭祀と図像は別々の寿命を持つ、という例です。

一方で、古代における中身は薄いままです。性格も物語も血縁もありません。

ローマ人がこの女神に祈った記録はありません。あるのは、皇帝が「食糧は足りている」と告げるために刻んだ貨幣です。祈りの神ではなく、告知の神でした。

アブンダンティアを祀った神殿と遺跡

アブンダンティアを祀った神殿や聖所は、記録に残っていません。

祭日もわかっていません。専属の神官が置かれた形跡もありません。

名が確かめられるのは、帝政の貨幣とわずかな碑文だけです。

これは資料が失われたためではなく、もともと祀る場所を持たなかったためとみられます。この女神は共和政の祭祀から育ったのではなく、帝政の広報の必要から言葉として立てられました。

そのため、この節には住所を書ける場所がありません。無いものを、あるように書くことはしません。

なお、ローマの穀物供給にかかわる施設は各所にありますが、それらはこの女神を祀るための建物ではありません。

アブンダンティアが現代に残した痕跡

アブンダンティアの名は、寓意像民間の言い伝えとして残りました。

ボッティチェリの素描: 角を抱えて歩む女性像。豊かさの寓意として繰り返し引かれ、この女神の名で知られている。

ダーム・アボンド: フランスの民間伝承に伝わる善き婦人。夜に家々を回り、蓄えを増やしていくとされた。

こぼれる豊穣の角: 角を傾けて中身を流す図。有り余ることを一目で示す絵柄として、近世の装飾に受け継がれた。

豊富を意味する語: ヨーロッパの諸言語で豊富や潤沢を指す語が、この女神と同じラテン語から出ている。

アブンダンティアが司るもの

あり余る豊かさ

必要を超えて余りが出るほどの実りを司るとされた女神。

食糧の供給

帝政期には穀物が絶えていないことを告げる言葉として貨幣に刻まれた。

家の蓄え

中世の言い伝えでは、夜に家を回って糧を置いていくとされた。

アブンダンティアが登場するゲーム・アニメ

作品でのアブンダンティアは、豊かさの寓意像として受け継がれました。

角を傾けて中身をこぼす姿は、宮殿や庁舎の天井画、記念建造物の彫刻に繰り返し現れます。豊作や繁栄を表す場面に置かれるのが通例です。

名を知らずに見ている図像です。

古代に祀られなかった神が、絵と言い伝えのなかで千年以上生き延びました。

日本で紹介されることはほとんどなく、豊穣の角の図像を通じて間接的に知られている程度です。

アブンダンティアが登場する絵画・素描

ボッティチェリの素描

角を抱えて歩む女性像。豊かさの寓意としてよく知られています。

豊かさの寓意像

角を傾ける姿が、宮殿や庁舎の天井画に描かれます。

アブンダンティアが登場する民間伝承

ダーム・アボンドの話

夜に家を回って蓄えを増やす婦人の言い伝えが残っています。

中世の説教の記録

この婦人を信じる習わしを戒める文章が残されています。

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アブンダンティアについてよくある質問

アブンダンティアはどんな神ですか。

あり余ることを神としたローマの女神です。共和政の記録には見えず、帝政の貨幣に現れます。豊穣の角を傾けて中身をこぼす姿で表されるのが目印です。

神殿はどこにありましたか。

神殿や聖所の記録は残っていません。祭日も神官も伝わっていません。もともと祀る場所を持たず、帝政の貨幣のなかに現れた神とみられます。

なぜ角を傾けているのですか。

持っているだけなら豊かであることを示しますが、こぼしているなら有り余っていることを示すためです。この動作が、他の神と見分ける目印になっています。

ダーム・アボンドとは何ですか。

フランスの民間伝承に伝わる善き婦人で、夜に家々を回って糧を置いていくとされました。この女神の名が民間の言い伝えのなかに残った形です。