果樹の女神。剪定鋏を持ち、実のなる木だけを世話した。
ポーモーナとは何の神様か
ポーモーナはひとことで言えば果樹園の女神です。
ギリシャに対応する神がいません。 ローマ固有の神です。
司るのは、花でも穀物でもなく、木になる実だけです。名も果実を意味する語からできています。
持ち物は剪定鋏。槍でも冠でもありません。
オウィディウスはこう書いています。
森を歩かず、川へも行かず、囲われた果樹園だけを歩く。
手にしているのは投げ槍ではなく、鋏である。
役目が驚くほど狭く決められています。
専属の神官フラーメン・ポーモーナーリスが置かれました。ただし、これはローマの神官のうち最も位の低いものとされます。
ローマ市外にポーモーナルと呼ばれる聖林があったと伝えられますが、位置は分かっていません。
ポーモーナのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ポモナ」「ポーモーナ」が使われます。
果実を意味する語からできた名です。この語は、フランス語で林檎を指す語へ変わりました。
果実全般を指す語が、一つの果物の名になった。
言葉が狭くなっていく例としてよく挙げられます。
果樹栽培を意味する学術用語も、この女神の名から作られました。
ギリシャに対応する神がいないため、この女神は最後までローマ名でしか呼ばれません。
Pomona(ポーモーナ)
ラテン語。果実を意味する語からできている。
Pomonal(ポーモーナル)
この女神に捧げられた聖林の名。位置は分かっていない。
ポーモーナの物語
鋏を持つ女神 ─ 役目の狭さ
ローマの神々には、役目が驚くほど狭く決められたものがあります。
ポーモーナはその典型です。
花は司らない。穀物も司らない。野の草も司らない。
木になる実だけ。
しかも、野生の木は含みません。 人が植え、囲い、手入れした果樹園の木だけです。
持ち物も、それに合わせて決まっています。
投げ槍ではなく、剪定鋏。
オウィディウスは、この女神が枝を切ることを愛したと書いています。伸びすぎた枝を落とし、接ぎ木をし、水をやる。
戦わない神です。
ローマの宗教には、こうした「働きの一つひとつに神を置く」考え方がありました。
- 芽が出ることの神
- 茎が伸びることの神
- 実が熟すことの神
古代の著述家自身が、この細かさを笑っている記録もあります。
しかし、農民にとっては別でした。祈る相手を正確に指定することが、祈りを届かせる方法だったのです。
位のいちばん低い神官 ─ 序列の底
ローマには、特定の神に付くフラーメンという神官がいました。
十五柱の神にそれぞれ一人ずつ置かれます。
上位の三人は決まっていました。
ユーピテル、マールス、クゥイリーヌス。
そして、残る十二人のなかで、もっとも位が低いとされたのがフラーメン・ポーモーナーリスです。
古代の記録がはっきりそう書いています。
ここから、二つのことが分かります。
一つは、この女神がローマのごく古い神であること。神官が置かれた十五柱は、いずれも古い神です。
もう一つは、国家の祭祀のなかでの比重が小さかったこと。果樹園は国家の関心事ではありません。
古いが、重くはない。
ローマの神々を並べると、この位置にいる神がかなりの数あります。古さと重さは別のものでした。
ウェルトゥムヌスの求愛 ─ 老婆に化けて自分を売り込む
オウィディウスの『変身物語』に、この女神の物語が一つだけあります。
ウェルトゥムヌスの求愛です。
ポーモーナは果樹園に閉じこもり、男を寄せつけませんでした。門には鍵がかかっています。
姿を変える神ウェルトゥムヌスは、次々に化けて近づきました。
刈り手になり、牛飼いになり、剪定人になり、兵士になり、漁師になった。
それでも相手にされません。
最後に老婆に化けます。
老婆は果樹園に入り、葡萄の蔓が楡の木に絡まっているのを指さして言いました。
あの木に蔓がなければ、ただ葉があるだけ。
蔓に木がなければ、地を這うだけ。
そして、ウェルトゥムヌスという若い神がいかに良いかを、長々と説きます。
説かれても、女神は動きません。
そこで神は姿を戻しました。その姿を見て、女神は心を許したとされます。
言葉ではなく、姿で決まった。 話としては、そこが落ちになっています。
ポーモーナの家系図と家族
ポーモーナの性格と人物像
ポーモーナは、「働き」に姿を与えただけの神です。
物語は一つしかなく、それもオウィディウスが書いたものです。
祭日もありません。神殿の位置も分かりません。残っているのは、神官の位が最下位だったという記録と、聖林の名だけです。
それでも、ローマ人はこの女神に神官を置きました。
果樹園の手入れという働きに、名を与えて祀る。
ローマの宗教のあり方が、この一柱によく表れています。
神とは、崇める対象である前に、世界の働きを数え上げる方法でした。
近代になって、この名は果樹栽培を意味する学術用語として復活します。役目の狭さが、そのまま学問の分野の名になりました。
ポーモーナを祀った神殿と遺跡
ポーモーナの聖域は、住所を確かめられませんでした。
記録に残るのはポーモーナルと呼ばれる聖林です。ローマから南西へ、オスティアへ向かう道の途中にあったとされます。
しかし、位置は特定されていません。
聖林の名だけが残っている。
神殿も祭日も伝わっていません。確かめられないものを、確かめたことにはしません。
ポーモーナが現代に残した痕跡
ポーモーナの名は、果樹栽培の学術用語と地名に残りました。
果樹栽培を意味する学術用語: この女神の名から作られた語。果樹の品種と栽培を扱う分野を指す。
林檎を指す語: 果実全般を意味したラテン語が、フランス語では林檎だけを指す語になった。
カリフォルニアの都市名: 果樹園の広がる土地に、この女神の名が付けられた。
ポーモーナが司るもの
果樹の実り
木になる実だけを司る。
手入れ
剪定と接ぎ木を愛する女神とされた。
囲われた土地の守り
野ではなく、人が囲った果樹園を守る。
ポーモーナが登場するゲーム・アニメ
この女神は、庭園の彫像として最も多く造られました。
果物を抱えた女性像は、ヨーロッパの庭園の定番です。
一方、ローマ側の特徴である神官の位が最下位だったという点は、祭祀の記録を読まないと出てきません。
古いのに、重くはない。
この位置にいる神は、ローマにかなりの数あります。
ポーモーナが登場する美術
ウェルトゥムヌスとポモナ
老婆に化けた神が語りかける場面。多くの画家が描いています。
果物を持つ女性像
庭園の彫像として、この女神の姿が繰り返し造られました。
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ポーモーナについてよくある質問
ポーモーナは何の女神ですか。
果樹の女神です。花でも穀物でもなく、木になる実だけを司ります。しかも野生の木ではなく、人が囲って手入れした果樹園の木だけです。
ギリシャに対応する神はいますか。
いません。ローマ固有の神で、最後までローマ名でしか呼ばれませんでした。
なぜ剪定鋏を持っているのですか。
枝を切り、接ぎ木をすることを司る女神だからです。オウィディウスは、投げ槍ではなく鋏を手にしていると書いています。
ポーモーナの神殿はどこですか。
確かめられませんでした。ポーモーナルと呼ばれる聖林が記録に残りますが、位置は特定されていません。