麦の赤さび病の神。害をもたらす力そのものを神として祀った。
ロービーグスとは何の神様か
ロービーグスはひとことで言えば病そのものの神です。
ローマの神のなかでも、とりわけ変わった位置にいます。害をもたらすもの自体を神として祀っているからです。
赤さび病は、麦の茎と葉に赤褐色の斑点を作る病気です。ひどければ収穫が失われます。
4月25日のロビガーリアでは、市外へ行列を組んで進み、赤い犬と羊が犠牲にされました。
なぜ赤い犬なのか。
病の色に合わせたという説明と、この時期に見える星の名に合わせたという説明があります。どちらも後代の推測です。
祭を司ったのはフラーメン・クィリナーリスでした。三大神官の一人が、麦の病の祭に出ています。
性別も定まっていません。 ロービーグスとロービーゴ、男女どちらの形でも記録に現れます。
祈りの言葉は「来ないでほしい」です。
ロービーグスのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ロビグス」「ロービーグス」が使われます。
赤さび病を意味する普通名詞と同じ語です。錆を意味する語でもあります。
赤い。錆びる。麦が病む。
同じ語が、この三つを指しました。
性別が定まっておらず、男性形と女性形の両方が記録に現れます。 祈りの言葉では、どちらとも取れる呼びかけが使われました。
Robigus(ロービーグス)
男神としての形。
Robigo(ロービーゴ)
女神としての形。赤さび病を意味する普通名詞でもある。
Robigalia(ロビガーリア)
4月25日の祭の名。
ロービーグスの物語
来ないでほしいと祈る ─ 逆向きの祭
ローマの祭は、たいてい恵みを願うものです。
実りを、勝利を、子を、安全を。
ロビガーリアだけが違います。
来ないでほしい。
オウィディウスは、この祭で唱えられた祈りを書き残しています。
荒れた手で、若い穂に触れないでください。
空が育てているあいだ、触れないでください。
あなたには力がある。だが、その力を鉄に向けてください。
鉄に向けろ、と言っています。
剣や槍が錆びるぶんには構わない。むしろ、そちらのほうが世の中のためになるという理屈です。
害をもたらす神に、害の向け先を変えてもらう。
追い払うのではなく、交渉しています。
ローマの宗教には、こうした取引の形がよく現れます。祈りとは、神と結ぶ契約でした。
赤い犬 ─ 理由が分からない犠牲
祭では、赤い毛の犬が犠牲にされました。
羊も一緒に捧げられます。
なぜ赤い犬なのか。 古代の著述家も理由を探しています。
- 病の色が赤いから
- この時期に小犬座が見える時期だから
- 犬が畑を荒らすから
オウィディウスは二番目の説を挙げていますが、自分でも確信していない書き方です。
ローマの祭祀には、こうした「理由の分からない決まり」が数多く残っていました。
決まりだけが伝わり、由来は失われている。
ローマ人はそれでも手順を変えませんでした。正しく行うことが目的であり、理由の理解は必要とされなかったためです。
行列は市外へ向かい、第五里標の場所で祭が行われたと記録されます。正確な位置は特定されていません。
ロービーグスの家系図と家族
ロービーグスの性格と人物像
ロービーグスは、ローマの宗教の考え方がもっともよく出た神です。
害をもたらす力に名を与え、神として祀り、害の向け先を変えてくれるよう頼む。
追い払うのでも、封じ込めるのでもありません。
話をつける。
この形は、ローマの祭祀のいたるところに見られます。敵の都市の神に呼びかけて寝返らせる手続きもそうです。
一方、この神には姿も物語もありません。
赤さび病そのものであり、それ以上のものではありません。
近代の植物学は、この神の名を赤さび病を起こす菌の学名に使いました。
神の名が、そのまま病原体の名になっています。
ロービーグスを祀った神殿と遺跡
ロービーグスの聖域は、住所を確かめられませんでした。
祭は市外で行われました。クラウディア街道の第五里標の場所と記録されています。
しかし、正確な位置は特定されていません。
街道沿いのどこか、としか分からない。
神殿も建てられていません。害をもたらす神を、市中に招かないという考え方によります。
火の神ウゥルカーヌスの神殿を市壁の外に置いたのと、同じ理屈です。
ロービーグスが現代に残した痕跡
ロービーグスの名は、病原菌の学名に残りました。
赤さび病菌の学名: 麦の赤さび病を起こす菌の学名に、この神の名が使われている。
錆を意味する語: ラテン語で錆と赤さび病を同じ語で表したことから、関連する語が生まれた。
4月25日: この祭の日付は、後にキリスト教の行列の日と重なった。祭の道筋が引き継がれたとする説がある。
ロービーグスが司るもの
麦の病除け
赤さび病が麦に来ないよう祈られた。
収穫の守り
4月25日、穂が育つ時期に祭が置かれた。
災いの向け直し
害を鉄に向けてほしいと祈った。
ロービーグスが登場するゲーム・アニメ
この神が作品に出ることは、まずありません。
姿も物語もなく、司るのが麦の病だけだからです。
一方、害をもたらす力を神として祀るという考え方は、宗教を論じる場面で繰り返し取り上げられます。
追い払うのではなく、話をつける。
ローマの宗教の性格をもっともよく示す例とされています。
ロービーグスが登場するゲーム・アニメ
疫病や災いを扱う作品
害そのものを神とする発想が、設定の下敷きに使われることがあります。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
ロービーグスについてよくある質問
ロービーグスは何の神ですか。
麦の赤さび病の神です。害をもたらすもの自体を神として祀っている、ローマでも特異な例です。
どんな祈りをしたのですか。
「来ないでほしい」と祈りました。オウィディウスによれば、若い穂に触れず、その力を鉄に向けてほしいと願ったとされます。
なぜ赤い犬を捧げたのですか。
はっきり分かっていません。病の色に合わせたという説と、この時期に小犬座が見えることに合わせたという説があります。どちらも後代の推測です。
ロービーグスの神殿はありますか。
ありません。祭は市外の街道沿いで行われました。害をもたらす神を市中に招かないという考え方によります。