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ローマ神話

バックスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Bacchus  / バックス

十二の主神

葡萄酒の神。その秘儀は前186年、元老院によって取り締まられた。

バックスとは何の神様か

バックスはひとことで言えば取り締まられた神です。ギリシャ名はディオニュソス

葡萄酒の神であり、ローマの古い神リーベルと重ねられました。

この神がローマ史に残るのは、前186年の取り締まりによります。

夜の秘儀に多くの市民が加わっているとして、元老院が調べに入りました。

リウィウスは、関わった者が7000人にのぼったと書いている。

多くが処刑され、あるいは自ら死を選んだとされます。

このとき出された決議は、青銅の板に刻まれて現存します。 ローマの公文書として最古級のものです。

決議は秘儀を禁じきらず、人数と手続きを厳しく縛る形をとりました。

信仰そのものより、統制の外にある集まりを問題にしています。

その後も葡萄酒の神としての信仰は残り、石棺の浮き彫りにこの神の行列が繰り返し彫られました。

バックスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「バッカス」「バックス」の両方が使われます。バッカスのほうが広く通じます。

ギリシャ語のバッコスから入った名です。ディオニュソスの別名の一つでした。

ローマでは、この別名のほうが正式な名になった。

バッカナーリアは、この神の秘儀を指す言葉です。転じて、騒がしい酒宴を指す言葉として現代語にも残りました。

ローマの古い神リーベルと重ねられましたが、二柱は最後まで完全には一つになりませんでした。リーベルの祭日は3月17日、バックスの秘儀は別の日に行われています。

Bacchus(バックス)

ラテン語。ギリシャ語のバッコスから入った名。

Liber Pater(リーベル・パテル)

ローマの古い神。この神と重ねられた。

Dionysos(ディオニュソス)

ギリシャ名。

バックスの物語

  1. 前186年の取り締まり ─ 7000人が関わった
  2. 青銅の板 ─ 現存する最古級の公文書
  3. 石棺に彫られる神 ─ 死後の世界と葡萄酒

前186年の取り締まり ─ 7000人が関わった

前186年、ローマで大がかりな取り締まりが行われました。

きっかけは、一人の若者の訴えだったとリウィウスは書いています。

継父が財産を奪うために、秘儀に加えて殺そうとしている。

執政官が調べを進めると、秘儀の集まりが市中に広がっていることが分かりました。

リウィウスの記述によれば、

- 夜に集まり、男女が混じる
- 年に五回、月のうち五日にわたって行う
- 秘密を漏らせば殺される

関わった者は7000人にのぼったとされます。

多くが処刑されました。女性は家族に引き渡され、家の中で処分されたと記されています。

ただし、この数字と描写はリウィウスによるものです。 100年以上あとに書かれており、誇張が含まれている可能性があります。

元老院が本当に恐れたのは、宗教ではなく国家の管理の外にある組織だったとみられています。

青銅の板 ─ 現存する最古級の公文書

このとき出された元老院決議は、青銅の板に刻まれて各地へ送られました。

そのうちの一枚が、南イタリアで発見されています。いまも現物が残っています。

内容は、秘儀を全面的に禁じるものではありませんでした。

集まりは五人を超えてはならない。
男は三人、女は二人まで。
会計係を置いてはならない。
共通の資金を持ってはならない。
誓いを交わしてはならない。

組織の形を禁じています。

どうしても行いたい場合は、法務官に申し出て元老院の許可を得ること、とも定められました。

信仰を禁じるのではなく、届け出制にする。

この処理の仕方は、ローマが後に他の宗教を扱うときの型になりました。

板の文面は、共和政期のラテン語の実例としても重要な資料です。

石棺に彫られる神 ─ 死後の世界と葡萄酒

取り締まりのあとも、この神の信仰は消えませんでした。

むしろ、帝政期には墓の装飾にこの神が繰り返し現れます。

大理石の石棺の側面に、行列の場面が彫られました。

葡萄の蔓、豹に乗る神、酔って歩く老人、踊る女たち。

なぜ墓に酒の神なのか。

この神には、死んで生き返ったという物語がありました。ギリシャの秘儀では、その筋が死後の救いと結びつけられます。

葡萄は冬に枯れ、春に芽を出す。

死と再生の形が、そこに読み取られました。

ローマの石棺は数多く残っており、この神の行列は最も多い主題の一つです。

取り締まられた神が、墓の装飾として最も好まれる。ローマの宗教のあり方を示す一例です。

バックスの家系図と家族

バックスの親: ユーピテル

バックスのきょうだい: ウェヌスともにユーピテルの子マグナ・マーテルともに外から入った祭祀クピードーともにユーピテルの血筋

バックスの性格と人物像

バックスは、ローマ人がもっとも扱いに困った神です。

葡萄酒はローマの暮らしの中心にありました。神として祀ることに問題はありません。

しかし、この神の祭は我を忘れることを求めます。

秩序と手続きを重んじるローマの宗教と、まっすぐぶつかる。

前186年の取り締まりは、その衝突が表に出たものでした。

一方で、ローマ人はこの神を追い出しませんでした。形を整えれば残してよいという処理をしました。

石棺の装飾に選ばれ続けたことは、公の祭祀とは別のところで、この神が人々に必要とされていたことを示しています。

表では縛り、裏では受け入れる。 ローマの宗教の懐の深さと、その限界が両方見えます。

バックスを祀った神殿と遺跡

バックスの名を冠した神殿は、ローマ市内では確かめられませんでした。

理由があります。前186年の取り締まり以降、この神の集まりは公の場から遠ざけられたためです。

代わりに祀られたのは、古い神リーベルの名を通してでした。アウェンティーノの丘のケレース・リーベル・リーベラ神殿がそれにあたります。

名を変えれば残せる。

レバノンのバールベックには「バッカス神殿」と呼ばれる大きな建物がありますが、この呼び名は近代に付けられたもので、祭神は確定していません。

サブラタのリーベル・パテル神殿(Templum Liberi Patris Sabrathensis)

北アフリカの都市の主要神殿

地図で開く

サブラタのリーベル・パテル神殿の住所: リビア サブラタ遺跡(北緯32.8070 東経12.4815)

サブラタのリーベル・パテル神殿の祀られた神: リーベル・パテル

サブラタのリーベル・パテル神殿に残るもの: 基壇と柱の一部

サブラタのリーベル・パテル神殿のご利益: 豊穣

北アフリカの港湾都市サブラタにあった神殿です。1世紀の建立とされます。

リーベル・パテルはこの都市の守護神でした。バックスと重ねられた神です。

北アフリカでは、この神がフェニキア系の神と重ねられて広く祀られました。

ローマの神が土地の神と結びつく形が、よく残っている例です。

地中海に面した遺跡。劇場と合わせて見学できる。

バックスが現代に残した痕跡

バックスの名は、酒宴を指す語美術の主題に残りました。

バッカナール: 騒がしい酒宴を指す語。この神の秘儀バッカナーリアに由来する。

バッカスの石棺: ローマ帝政期の石棺に彫られた行列の場面。死と再生の主題として最も多く選ばれた図柄の一つ。

カラヴァッジョのバッカス: ウフィツィ美術館の絵画。葡萄の冠をかぶった若者として描かれ、この神の図像として広く知られる。

バックスが司るもの

葡萄酒と豊穣

葡萄の実りと酒を司る。

死後の救い

死んで生き返る神として、墓の装飾に選ばれた。

解放

ローマの古い神リーベル(自由な者)と重ねられた。

バックスが登場するゲーム・アニメ

美術では、ローマ名で題名が付けられるのが習わしです。

描かれているのはギリシャのディオニュソスであっても、題名はバッカスになります。

一方、ローマ側の特徴である前186年の取り締まりは、歴史を扱う作品にしか出てきません。

酒の神としては明るく、歴史の中では暗い。

同じ神の二つの顔です。

バックスが登場する美術

バッカスとアリアドネ

ティツィアーノの絵画。豹の引く車から飛び降りる場面が描かれます。

カラヴァッジョのバッカス

葡萄の冠をかぶった若者の姿。この神の図像として最も知られています。

バックスが登場するゲーム・アニメ

女神転生シリーズ

酒と狂乱の神として登場します。

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酒場や酒を扱う作品

店名や商品名として、この神の名が広く使われます。

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バックスについてよくある質問

バックスとディオニュソスは同じ神ですか。

同一視されます。バックスはギリシャ語のバッコス(ディオニュソスの別名)から入った名で、ローマではこちらが正式な名になりました。

バッカナーリア事件とは何ですか。

前186年に元老院がこの神の秘儀を取り締まった事件です。リウィウスによれば7000人が関わり、多くが処刑されました。

そのときの決議は残っていますか。

残っています。青銅の板に刻まれた元老院決議が南イタリアで発見されました。ローマの公文書として最古級のものです。

なぜ石棺にこの神が彫られたのですか。

死んで生き返る神とされたためです。葡萄が冬に枯れ春に芽を出すことが、死と再生の形として読み取られました。

バックスと併せて覚えたい言葉・用語

バー(bꜣ/人格・魂)

人の頭を持つ鳥の姿で描かれる、その人の人格にあたる部分。昼は墓を出て動き、夜は遺体へ戻るとされた。