姿を変える神。季節の移り変わりを司り、エトルリアから来た。
ウェルトゥムヌスとは何の神様か
ウェルトゥムヌスはひとことで言えば移り変わりの神です。
名は「向きを変える」を意味する語からできています。
エトルリアの神ウォルトゥムナを受け継いだとされます。エトルリア諸都市が同盟の集まりを開いた聖域の神です。
司るのは、変化そのものです。
季節が移ること。花が実に変わること。川の流れが向きを変えること。
何かが別のものになる場面すべてを受け持ちます。
ローマではウィクス・トゥスクス(エトルリア人の通り)に像が立てられました。
この像は、季節ごとに持ち物を変えられたと伝えられます。春には花、夏には麦、秋には葡萄。
8月13日が祭日とされます。
オウィディウスの『変身物語』では、果樹の女神ポーモーナに求愛します。
ウェルトゥムヌスのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ウェルトゥムヌス」「ウォルトゥムヌス」が使われます。
向きを変えるを意味する語からできた名です。
季節が向きを変える。川が向きを変える。心が向きを変える。
ローマ人自身も、この名の由来を複数の説で語っています。ウァロは川の流れが向きを変えたことに結びつけ、プロペルティウスは複数の説を並べて、どれとも決めていません。
エトルリアの神ウォルトゥムナを受け継いだとする説が有力です。エトルリア十二都市の同盟が集まった聖域の神で、その聖域の位置も特定されていません。
Vertumnus(ウェルトゥムヌス)
ラテン語。「向きを変える」を意味する語から。
Voltumna(ウォルトゥムナ)
エトルリアの神。この神の元になったとされる。
Vortumnus(ウォルトゥムヌス)
古い形の綴り。
ウェルトゥムヌスの物語
エトルリアから来た神 ─ 同盟の聖域
エトルリアには、十二の都市からなる同盟がありました。
その代表が年に一度集まる聖域を、ファーヌム・ウォルトゥムナエといいます。
ウォルトゥムナの聖所。
ここで祭が行われ、同盟の議事も開かれました。エトルリア世界の中心です。
リウィウスが繰り返し言及していますが、その位置は今も特定されていません。 オルヴィエートの近くとする説が有力ですが、確定していません。
前264年、ローマはエトルリアの都市ウォルシニイを落とします。
このとき、ウォルトゥムナがローマへ移されたとされます。
落とした都市の神を、ローマへ連れてくる。
ローマは、これを繰り返しました。エウォカー?ティオ(呼び出し)と呼ばれる手続きです。
敵の都市の神に呼びかけ、ローマへ移れば同じかそれ以上の祭祀を受けられると約束する。神を寝返らせてから、都市を攻めます。
ウェルトゥムヌスがローマに来た経緯も、この形だったとみられています。
エトルリア人の通りの像 ─ 持ち物が変わる
ローマのフォルムから大競技場へ抜ける道を、ウィクス・トゥスクス(エトルリア人の通り)といいます。
その一角に、この神の像が立っていました。
詩人プロペルティウスは、この像に自分で語らせる形の詩を書いています。
私は一つの姿にとどまらない。
何にでもなれる。
詩の中で、神は自分の名の由来をいくつも挙げます。
- 川の流れが向きを変えたから
- 一年が向きを変えるから
- 買い物の代金がこちらへ向くから
どれが正しいとも言いません。
像は木でできていたとも、季節ごとに持ち物を替えられたとも伝えられます。
春には花。夏には麦の穂。秋には葡萄と果実。
通りを歩く人が、像を見て季節を知る。そういう使われ方だったのかもしれません。
この通りには、エトルリア系の商人が多く住んでいたと記録されています。
ポーモーナへの求愛 ─ 変身の使い方
オウィディウスの『変身物語』に、この神の物語があります。
果樹の女神ポーモーナは、果樹園に閉じこもって男を寄せつけませんでした。
ウェルトゥムヌスは、姿を変えて近づきます。
刈り手。牛飼い。剪定人。兵士。漁師。
どれも相手にされません。
最後に老婆に化けて果樹園に入り込みます。
老婆は、葡萄の蔓が楡の木に絡まっているのを指さしました。
木がなければ蔓は地を這う。蔓がなければ木は葉があるだけ。
そして、ウェルトゥムヌスという神がいかに良いかを長々と説きます。
自分で自分を売り込んでいます。
説得は効きませんでした。神は姿を戻します。
雲が晴れて日が差すように、その姿が現れた。
女神はそれを見て心を許した、とされます。
言葉ではなく姿で決まる。 変身の神の話としては、皮肉な落ちです。
ウェルトゥムヌスの家系図と家族
ウェルトゥムヌスの性格と人物像
ウェルトゥムヌスは、「変わること」そのものを神にした存在です。
ローマの神々には、こうした抽象的な作りの神が多くいます。運、勝利、誠実、希望。
しかし、この神が扱うのは状態ではなく、状態が移る瞬間です。
春から夏へ。花から実へ。
移り変わりの中間にだけいる神と言えます。
エトルリア由来であることは、この神の性格に関わるかもしれません。エトルリアの宗教は、兆しを読み、変化を予測することに重きを置いていました。
一方、ローマ人はこの神をあまり重く扱いませんでした。神殿はあったとされますが位置は分からず、祭日も定かではありません。
残ったのは、通りに立つ像と、詩人が語らせた言葉だけです。
ウェルトゥムヌスを祀った神殿と遺跡
ウェルトゥムヌスの神殿は、住所を確かめられませんでした。
アウェンティヌスの丘に神殿があったと記録されます。前264年ごろのものとされますが、位置は特定されていません。
エトルリアのファーヌム・ウォルトゥムナエ(ウォルトゥムナの聖所)も、リウィウスが繰り返し言及していながら、いまだに見つかっていません。
エトルリア世界の中心だった場所が、どこか分からない。
ウィクス・トゥスクスの像も、位置を確かめられていません。
ウェルトゥムヌスが現代に残した痕跡
ウェルトゥムヌスの名は、変化を表す語として残りました。
アルチンボルドの絵画: 果物と野菜を組み合わせて人の顔を描いた作品に、この神の名が付けられている。神聖ローマ皇帝の肖像として描かれた。
庭園の彫像: ポーモーナと対になる像として、ヨーロッパの庭園に造られた。
エトルリア研究の手がかり: この神を通して、エトルリア十二都市の同盟の存在が知られている。
ウェルトゥムヌスが司るもの
季節の巡り
春から夏、花から実への移り変わりを司る。
商いの回転
エトルリア人の通りに像が立ち、代金が向かってくることに結びつけられた。
変化への備え
エトルリアの宗教は兆しを読むことを重んじた。
ウェルトゥムヌスが登場するゲーム・アニメ
この神は、アルチンボルドの絵によって知られています。
果物と野菜を組み合わせて人の顔を作った絵に、この神の名が付けられました。
何にでも変わる神を、何かの寄せ集めで描く。
主題の選び方として、よく考えられています。
一方、ローマ側の特徴であるエトルリアからの移入は、歴史を扱う場面でしか出てきません。
ウェルトゥムヌスが登場する美術
ウェルトゥムヌス
アルチンボルドの絵画。果物と野菜で人の顔を組み立てた作品です。
ウェルトゥムヌスとポモナ
老婆に化けた神が語りかける場面。多くの画家が描きました。
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ウェルトゥムヌスについてよくある質問
ウェルトゥムヌスは何の神ですか。
移り変わりの神です。季節が移ること、花が実に変わることなど、何かが別のものになる場面すべてを司ります。
エトルリアの神ですか。
エトルリアの神ウォルトゥムナを受け継いだとされます。前264年にローマがウォルシニイを落としたとき、ローマへ移されたとみられています。
ポーモーナとの話はどこにありますか。
オウィディウスの『変身物語』です。次々に姿を変えて近づき、最後に老婆に化けて自分自身の良さを説くという筋です。
ウェルトゥムヌスの神殿はどこですか。
確かめられませんでした。アウェンティヌスの丘にあったと記録されますが、位置は特定されていません。
ウェルトゥムヌスと併せて覚えたい言葉・用語
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。