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ローマ神話

ピークスとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Picus  / ピークス

大地 ローマ固有の神

キツツキの姿と結びついたラティウムの古い神。占いの鳥として重んじられた。

ピークスとは何の神様か

ピークスはひとことで言えばキツツキになった王です。

『アエネーイス』第7巻では、ラティウムの王家の系譜がサートゥルヌス─ピークス─ファウヌスラティーヌスの順に並べられます。ラティーヌス王の祖父にあたる位置です。

ラウレントゥムの王であり、狩りを好んだと伝えられます。

キルケーの求愛を拒んだため、キツツキに変えられた。

オウィディウス『変身物語』第14巻の話です。妻は歌の妖精カネンスで、夫を探して歌いながら消えたとされます。

キツツキはマールスの聖鳥です。ロームルスレムスに、牝狼とともに餌を運んだという伝えもあります。

ヌマがユーピテルを呼び出そうとしたとき、ファウヌスとともに縛られて助言させられました(『祭暦』第3巻)。

ローマ独自なのは、この鳥が占いに使う鳥として重んじられた点です。

ピークスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「ピークス」「ピクス」が使われます。訳書による揺れは小さく、綴りも一定です。

名と鳥の名が同じ語です。

ラテン語のピークスは、キツツキを指す普通名詞でもあります。人名が先か鳥の名が先かは、わかっていません。

キツツキに変えられた王という話は、名を説明するために作られたとみる説が有力です。同じ語であることが、物語の出発点になっています。

なお、生物の分類でキツツキ科を指す語にも、この語が用いられています。古代の言葉が、そのまま学名として使われている例です。

妻の名カネンスは「歌う」という語からできており、歌いながら消えるという結末と重なります。

Picus(ピークス)

ラテン語の主格。同じ語がキツツキそのものを指す普通名詞としても使われた。

Canens(カネンス)

妻とされる歌の妖精の名。歌うという意味の語からできている。

picus Martius(ピークス・マルティウス)

マールスのキツツキの意。占いに用いられる鳥として古い書き手が挙げた。

ピークスの物語

  1. ラティウムの王 ─ 系譜のなかの位置
  2. キルケーの求愛 ─ 変身物語の話
  3. 占いの鳥 ─ ローマ独自の重み
  4. ヌマに縛られる ─ 祭暦の場面

ラティウムの王 ─ 系譜のなかの位置

ピークスは、ラティウムの古い王として位置づけられます。

『アエネーイス』第7巻に、その系譜が示されます。

サートゥルヌス、ピークス、ファウヌス、そしてラティーヌス。

四代の王が並びます。 サートゥルヌスは黄金時代を治めた神、ファウヌスは森と牧の神、ラティーヌスはアエネーアースを迎えた王です。

つまりピークスは、神々と歴史上の王のあいだに置かれた存在です。神なのか人なのか、はっきりしません。

伝えによって位置は動きます。ファウヌスの父とする形が多いものの、別の順序を伝える書き手もいます。

ラウレントゥムの王宮には、歴代の王の木像が並べられていたと詩は書きます。ピークスの像は、王の杖と楯を持ち、鳥の姿を添えて表されていました。

神と王のあいだにいる者として、二重の姿で置かれています。

キルケーの求愛 ─ 変身物語の話

もっとも知られているのは、オウィディウス『変身物語』第14巻の話です。

ピークスは若く美しい王で、狩りを好みました。妻は歌の妖精カネンスです。

ある日、猪を追って森へ入ったところを、魔女キルケーに見られます。

女は恋に落ち、幻の猪を作って王を深い森へ誘い込んだ。

キルケーは思いを告げますが、王は妻の名を挙げて断ります。繰り返し求められ、繰り返し拒みました。

怒った魔女は杖を振り、呪文を唱えます。王の体は縮み、翼が生え、紫の衣は羽の色に、金の留め金は首の輪になりました。

キツツキとなった王は、森の木を嘴で叩きます。

妻カネンスは六日六夜、夫を探して歩き回りました。ティベリス川のほとりで力尽き、歌いながら空へ溶けたとされます。

その場所は、後の世に彼女の名で呼ばれたと詩は書きます。

占いの鳥 ─ ローマ独自の重み

ローマにとってのピークスは、物語より鳥占いに関わります。

キツツキはマールスの聖鳥とされました。木を叩く音と、飛ぶ向きが、しるしとして読まれます。

ロームルスとレムスに、牝狼とともに餌を運んだと伝えられる。

軍神の鳥が建国者の双子を養う。この筋は、キツツキの位置をよく示しています。

古代の書き手は、占いに用いる鳥のなかにこの鳥を数えました。ウンブリアで見つかった青銅板の祭祀規定にも、鳥の名が並ぶ箇所があります。

さらに、この鳥は木のうろに住むため、木を守る力があるとも考えられました。うろに打ち込まれた楔を抜く草を知っている、という伝えもあります。

鳥占いは、ローマの公の手続きの一部でした。 執政官の就任も、戦の開始も、鳥のしるしを見てから決められます。

ピークスの名を持つ鳥が、その手続きのなかにいたわけです。

ヌマに縛られる ─ 祭暦の場面

オウィディウス『祭暦』第3巻には、別の姿のピークスが出てきます。

ローマ第二代の王ヌマは、雷を鎮める方法を知りたいと考えました。そのためには、ユーピテルを地上へ呼び出す必要があります。

方法を知っているのは、森に住むピークスとファウヌスでした。

泉に酒を混ぜ、二柱が眠ったところを縄で縛った。

二柱は姿を変えて逃れようとしますが、縄は解けません。ついに観念して、ユーピテルを呼び出す術を教えました。

神を縛って知恵を引き出すという筋です。ギリシャの物語にも似た型があり、海の老人を捕らえる話などが知られます。

ここでのピークスは、王ではなく森の神として扱われています。

同じ名が、王として語られたり、神として語られたりします。 伝えが一つに定まっていないためです。

どちらが古い形かは、わかっていません。

ピークスの家系図と家族

ピークスの親: サートゥルヌス

ピークスの子・子孫: ファウヌスラティーヌスラティーヌスの祖父とされる

ピークスの性格と人物像

ピークスの人物像は、伝えによって大きく変わります。

『変身物語』では、若く美しく、妻を裏切らない王です。魔女の求めを繰り返し拒み、その報いとして姿を失いました。貞節ゆえに罰を受けるという珍しい形です。

拒んだことが罪になる話は、多くありません。

『祭暦』では、森に住む神として現れ、酒に酔って縛られます。こちらは間の抜けた役回りです。

『アエネーイス』では、王宮に木像として立つ祖先です。言葉も動作もありません。

研究では、ピークスはもともと鳥そのものへの信仰があり、後から人の姿の王が作られたとみられています。名と鳥の名が同じであることが、その根拠の一つです。

古い信仰が、物語のなかで人の形をとった例と考えられています。

ローマ固有の要素は、この鳥が占いに使われたという点にあります。ギリシャ神話に対応する神はおらず、ラティウムの土地に根を持つ存在です。

ピークスゆかりの地と遺跡

ピークスを祀った神殿は、記録に残っていません。

森の神とされながら、専用の神殿も祭日も伝えられていません。古い信仰でありながら、公の祭祀の形をとらなかった神です。

祀られたのは神殿ではなく、鳥のしるしを読む手続きのなかでした。

ここに挙げたアルバ・ロンガは、この王の系譜が結びつけられた土地です。

王であったとされるラウレントゥムは、町そのものの位置が特定されていないため、欄に入れていません。 『アエネーイス』第7巻には、この町の王宮に歴代の王の木像が並び、ピークスの像は杖と楯を持って表されていたと書かれます。ローマ南西の海岸沿いとされ、複数の候補地が挙げられていますが決着していません。

そのうえで、この節は「ゆかりの地」としています。祀られた場所ではないことを、はっきりさせておきます。

アルバ・ロンガ(Alba Longa)

ラティウムの王家が続いたとされる町

地図で開く

アルバ・ロンガの住所: イタリア ラツィオ州 アルバーノ湖畔一帯(北緯41.7445 東経12.6497)

アルバ・ロンガの祀られた神: (この神を祀る場所は確かめられていない)

アルバ・ロンガに残るもの: 町の位置は確定していない。周辺に前9世紀の墓地

アルバ・ロンガのご利益: (祀る施設は確かめられていない)

ラティウムの王家が代を重ねたとされる町です。ピークスを含む古い王の系譜は、この町の伝えと結びつけて語られます。

ロームルスとレムスの母レア・シルウィアも、この町の王女とされました。

町そのものの位置は確定していませんが、アルバーノ湖の周辺で前9世紀の墓地が見つかっており、古い集落があったことは確かめられています。

この神を祀った施設は見つかっていません。

カステッリ・ロマーニの一帯。湖畔から丘陵を望むことができる。

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ピークスが現代に残した痕跡

ピークスの名は、鳥の名として残りました。

キツツキ科の学名: この語がそのまま生物の分類名に用いられている。古代の言葉が学名として生き続けている例。

ピケヌム地方の由来: イタリア中部の地名について、移住のときキツツキが先導したという伝えが残る。

マールスの聖鳥: 軍神に結びついた鳥として、占いに用いられた。ロームルスとレムスに餌を運んだ話も伝わる。

カネンスの物語: 妻が夫を探して歌いながら消える話。オウィディウスが伝えた変身譚として知られる。

ピークスが司るもの

占いのしるし

キツツキが飛ぶ向きと木を叩く音が、公の手続きのしるしとして読まれた。

森と木の守り

木のうろに住む鳥として、樹木を守る力があると考えられた。

土地の始まり

ラティウムの古い王として、王家の系譜の初めのほうに置かれた。

ピークスが登場するゲーム・アニメ

作品でのピークスは、変身の瞬間として描かれます。

人の姿から鳥へ移り変わる途中を表す図が多く、衣が羽に変わっていく描写が見どころとされてきました。

王の紫の衣が、そのまま羽の色になります。

日本ではこの神を単独で扱った作品は見当たりません。オウィディウスの訳書を通じて、キルケーの物語の一部として知られています。

ピークスが登場するゲーム

古代を舞台にした物語ゲーム

鳥占いの仕組みに関わる存在として、名が引かれることがあります。

変身を扱う探索ゲーム

魔女に姿を変えられた王として、短い挿話に用いられます。

ピークスが登場する絵画・彫刻

変身物語の挿絵版画

キルケーが杖を振り、王が鳥へ変わる瞬間が描かれます。

ドッソ・ドッシの絵画

キルケーと森の情景を描いた作品に、この変身譚が重ねて論じられてきました。

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ピークスについてよくある質問

ピークスはどんな神ですか。

キツツキの姿と結びつくラティウムの古い神です。ラティーヌス王の祖父、あるいはファウヌスの父とされ、神と人の王のあいだに置かれています。

なぜキツツキに変えられたのですか。

魔女キルケーの求愛を拒み、妻カネンスへの思いを変えなかったためと伝えられます。オウィディウス『変身物語』第14巻の話です。

ローマ独自の要素はどこですか。

キツツキが占いに使う鳥として重んじられた点です。マールスの聖鳥とされ、木を叩く音と飛ぶ向きがしるしとして読まれました。鳥占いはローマの公の手続きの一部です。

ピークスを祀った神殿はありますか。

記録に残っていません。森の神とされながら、専用の神殿も祭日も伝えられていません。祀られたというより、鳥のしるしを読む手続きのなかにいた神です。

ピークスと併せて覚えたい言葉・用語

バー(bꜣ/人格・魂)

人の頭を持つ鳥の姿で描かれる、その人の人格にあたる部分。昼は墓を出て動き、夜は遺体へ戻るとされた。