ロームルスの双子の弟。市壁をめぐる争いで兄に討たれたとされる。
レムスとは何の神様か
レムスはローマ建国の物語で殺される側にあたる人物です。ロームルスの双子の弟とされます。
同じ母から同じ日に生まれ、同じ牝狼に育てられ、ともに祖父の仇を討ちました。二人の道が分かれるのは、町をどこに建てるかという一点です。
兄はパラティウムを、弟はアウェンティヌスを選んだ。
鳥占いの結果が食い違い、争いが起きました。レムスは兄の引いた壁の線を飛び越え、その場で討たれます。
この殺しは、ローマ人にとって説明の要る出来事でした。 内乱のたびに「建国が兄弟殺しから始まったからだ」という言い方がされています。
名の由来もはっきりしません。ロームルスの名を作るときに、対にするため後から生まれた名とみる説があります。
レムスのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「レムス」で定着しています。表記の揺れはほとんどありません。
兄と並べた「ロムルスとレムス」という呼び方が広く使われ、二人で一つの主題として扱われます。
名は「遅い」を意味する語に結びつける説明があります。
古い書き手は、この名を遅れる者という意味に取りました。鳥占いで負け、町を建てられなかった者という筋書きに合わせた説明です。
後から作られた名とみる研究者が多く、もとは一人の建国者だったところに、双子の形が加わったと考えられています。
Remus(レムス)
ラテン語の主格。属格はレミーとなる。
Remoria(レモーリア)
レムスが町を建てようとした場所、あるいは葬られた場所とされる地名。
Romulus et Remus(ロームルスとレムス)
二人を並べた呼び方。古代から一組で語られてきた。
レムスの物語
双子として ─ 兄と並んで育つ
レムスの生い立ちは、ロームルスとまったく同じです。
アルバ・ロンガの王女レア・シルウィアの子として生まれ、籠でテウェレ川に流され、牝狼に乳をもらいました。
牧人ファウストゥルスに拾われ、牧人として育ちます。
二人は、牧人の子として喧嘩に明け暮れた。
ある日、レムスが盗賊と間違われて捕らえられ、アルバ・ロンガの王ヌミトルの前に引き出されます。顔立ちと年齢から、素性が知れました。
兄が駆けつけ、二人でアムーリウスを討ち、祖父を王位に戻します。
ここまで、二人の扱いに差はありません。物語が兄と弟を分けるのは、この先です。
鳥占い ─ 決着のつかない判定
新しい町をどこに建てるかで、二人の意見が割れました。
ロームルスはパラティウムの丘を、レムスはアウェンティヌスの丘を選びます。
決め方は鳥占いでした。空を区切り、そこに現れる鳥を数えます。
レムスが先に6羽を見た。そのあとロームルスが12羽を見た。
先に見た者が勝ちなのか、多く見た者が勝ちなのか。 取り決めがなかったため、決着がつきませんでした。
双方の支持者が言い争い、乱闘になったと伝えられます。建国の物語は、判定の不備から流血へ進みます。
なお、レムスが選んだアウェンティヌスの丘は、後々まで平民の丘とされました。この配置は、後の身分闘争を映しているという読み方があります。
壁を越える ─ 討たれる場面
ロームルスは鋤で溝を引き、そこを市壁の線と定めました。
その線を、レムスが飛び越えます。
嘲って越えたのだ、と伝える書き手が多い。
ロームルスは弟を討ちました。伝えられる言葉は「この壁を越える者は、みなこうなる」です。
別の伝えでは、手を下したのはケレルという配下です。ロームルスは弟の死を知って嘆いたとされます。
さらに、そもそも二人は争っていないとする形も残っています。レムスは病で死んだ、あるいは別の戦で倒れたという書き方です。
ローマの著述家は、これらを並べて書きました。どれが本当かを決めていません。
なぜ殺されたのか ─ 後世の読み方
レムスの死は、ローマ人自身にとって重い主題でした。
共和政末期の内乱のとき、詩人ホラーティウスはこう書いています。
兄弟の血が地に落ちたことが、この呪いの始まりだ。
内乱の原因を建国の殺人に求める言い方です。
近代の研究では、別の見方も出されました。都市の境界を作るとき、そこに人を犠牲として埋める風習が地中海各地にあり、その記憶が物語の形をとったのではないか、という説です。
墓はアウェンティヌスにあったとされ、その地はレモーリアと呼ばれました。ただし場所は特定されていません。
5月のレムーリアという亡霊を鎮める祭を、レムスの名に結びつける説明もあります。語呂合わせによる後付けとみられています。
レムスの家系図と家族
レムスの性格と人物像
レムスには、独自の性格がほとんど書かれていません。
兄と同じ生い立ち、同じ行動をとり、最後の一点だけで分かれます。
物語のうえでは、兄の影として置かれています。
強いて言えば、先に鳥を見た者であり、先に捕らえられた者です。どちらも「先に動くが、実を取れない」形になっています。
この作られ方から、レムスは物語の必要から生まれた人物だとみる研究者が多くいます。建国の物語に必要だったのは、双子ではなく、犠牲でした。
一方で、アウェンティヌスの丘と結びつけられている点は見逃せません。この丘は平民の拠点で、身分闘争のときには民がここに立てこもりました。負けた側の丘に、負けた双子が置かれています。
レムスゆかりの地と遺跡
レムスを祀った神殿は、記録に残っていません。
兄のロームルスがクゥイリーヌスとして神殿を持ったのに対し、レムスには祭祀がありませんでした。
神になったのは兄だけです。
ここに挙げたのは、いずれも物語の舞台です。そのため見出しを「ゆかりの地」としています。
墓とされるレモーリアの位置も、古代の書き手のあいだで一致していません。アウェンティヌスの丘とする説がもっとも多く伝わります。
ルペルカール(Lupercal)
牝狼が双子に乳を与えたとされる洞
ルペルカールの住所: イタリア ローマ パラティウムの丘の北西麓(北緯41.8893 東経12.4871)
ルペルカールの祀られた神: ファウヌス・ルペルクス
ルペルカールに残るもの: 洞とされる空間(保存作業のため通常は非公開)
ルペルカールのご利益: 子授け
双子が牝狼に拾われたとされる洞です。レムスにとっても、ここが物語の出発点になります。
2月15日のルペルカー?リアの祭では、山羊を犠牲にしたあと、二人の若者の額に血を塗り、乳で拭う所作がありました。
この所作を双子の生き延びた場面をなぞったものと説明する古代の書き手もいます。ただし、祭のほうが物語より古いとみられています。
パラティウムの丘の見学路から位置を外から見ることができる。
アウェンティヌスの丘(Aventinus mons)
レムスが町を建てようとした丘
アウェンティヌスの丘の住所: イタリア ローマ アウェンティーノの丘(北緯41.8833 東経12.4833)
アウェンティヌスの丘の祀られた神: (レムスを祀る場所は無い)
アウェンティヌスの丘に残るもの: 丘そのもの。ケレース・リーベル・リーベラ神殿などの跡
アウェンティヌスの丘のご利益: (祀る施設は無い)
レムスが鳥占いに立ち、町を建てようとした丘です。レムスを祀る施設は無く、ここは物語の舞台にあたります。
この丘は長く市壁の外に置かれ、平民の拠点となりました。身分闘争のとき、平民は職を放り出してこの丘に立てこもっています。
墓があったとされるレモーリアもこのあたりと伝えられますが、位置は特定されていません。
サンタ・サビーナ聖堂の脇の鍵穴からサン・ピエトロが見える眺めで知られる。
レムスが現代に残した痕跡
レムスの名は、兄と対になった形で残りました。
ロムルスとレムス: 二人の名を並べた呼び方が、建国伝説の代名詞として定着している。
カピトリウムの牝狼: 狼の下にいる二人の子のうち、一方がレムスにあたる。
兄弟殺しの比喩: 内乱や仲間割れを語るとき、ローマの詩人がこの一件を引き合いに出した。
アウェンティヌスの丘: 平民の丘とされ、身分闘争の舞台になった。レムスがこの丘を選んだ話と重ねて語られる。
レムスが司るもの
境の戒め
市壁を越えてはならないという定めの由来として語られた。
兄弟の物語
双子の対として、建国の伝えの骨格をなす。
平民の丘
アウェンティヌスの丘と結びつけられ、平民の側の由来として語られた。
レムスが登場するゲーム・アニメ
作品でのレムスは、単独で主役になることがほとんどありません。
兄と一組で描かれ、殺される場面までを含めて一つの話として扱われます。
狼に育てられる場面の絵が、いちばん多く残っています。
近年の小説や映像では、弟の側から建国を語り直す試みもいくつか作られています。
レムスが登場する絵画・彫刻
カピトリウムの牝狼
狼の下の二人の子として、兄と並んで表されます。
ルーベンスの「ロムルスとレムス」
狼と川の神を配した構図で、拾われる場面を描いています。
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レムスについてよくある質問
レムスはなぜ殺されたのですか。
引かれたばかりの市壁の線を飛び越えたためと伝えられます。境界を侵した罰という形です。ただし配下のケレルが手を下したとする説や、そもそも争っていないとする伝えもあります。
レムスの墓はどこにありますか。
アウェンティヌスの丘のレモーリアと呼ばれる場所と伝えられますが、位置は特定されていません。レムスを祀った神殿も記録に残っていません。
ロームルスとレムスは実在しましたか。
確かめられていません。とくにレムスは、ロームルスと対にするため後から作られた人物とみる説が有力です。名の由来も物語に合わせた説明とみられています。
5月のレムーリアの祭はレムスと関係がありますか。
亡霊を鎮める祭で、古代にはレムスの名に結びつける説明がありました。ただし現在では語呂合わせによる後付けとみられています。
レムスと併せて覚えたい言葉・用語
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。