夜明けの女神。祭では、女たちが自分の子ではなく姉妹の子のために祈った。
マートゥータとは何の神様か
マートゥータはひとことで言えば夜明けの女神です。名は「朝の」「熟した」を意味する語につながります。
6月11日のマートラーリアは、一度だけ結婚した女性だけが行える祭でした。
そこには、二つの変わった決まりがありました。
女奴隷を神殿から追い出し、一人だけ残して打つ。
そして、自分の子ではなく、姉妹の子のために祈る。
なぜ自分の子ではないのか。
古代の著述家プルタルコス?もこの問いを立て、答えを出せずにいます。
夜明けの女神が、姉妹の子を守る。この結びつきの由来は分かっていません。
フォルム・ボアリウムには、この女神とフォルトゥーナを並べて祀る双子の神殿がありました。
南のサトリクムにも聖域があります。前7世紀からの古い聖域です。
マートゥータのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「マートゥータ」「マーテル・マートゥータ」が使われます。
名は「朝の」「熟した」を意味する語につながります。同じ語幹から、朝を表す語や、成熟を表す語が生まれました。
朝の。時期が来た。熟した。
夜明けと実りが、同じ語で結ばれています。
後にギリシャの女神レウコテアと重ねられました。海に身を投げて女神になった女の話ですが、ローマ側の祭とはうまく噛み合っていません。
Mater Matuta(マーテル・マートゥータ)
ラテン語。「母なるマートゥータ」。
Matralia(マートラーリア)
6月11日の祭の名。
マートゥータの物語
姉妹の子のために祈る ─ 理由が分からない決まり
マートラーリアの祭で、女たちは自分の子のためには祈りませんでした。
祈るのは、姉妹の子のためです。
プルタルコスは『ローマの諸問題』でこの決まりを取り上げ、いくつかの説明を試みています。
- レウコテアが姉妹の子を育てた話に由来する
- 自分の子を思う気持ちが強すぎて、祈りが濁るから
- 家どうしの結びつきを保つため
どれも決め手を欠いています。
同じ祭には、もう一つ変わった決まりがありました。
女奴隷を神殿から追い出す。
ただし一人だけ中に入れ、手で打って外へ出す。
こちらも理由が分かっていません。
古代のローマ人自身が、自分たちの祭の由来を説明できずにいました。
手順だけが伝わり、意味が失われている。 ローマの古い祭には、この形のものが数多くあります。
フォルム・ボアリウムの双子の神殿 ─ 二柱を並べる
ローマのティベリス川のほとり、フォルム・ボアリウム(牛の市場)と呼ばれた一角があります。
ここに、双子の神殿がありました。
一方はマートゥータ。もう一方はフォルトゥーナ。
伝えでは、王セルウィウス・トゥッリウスが建てたとされます。
この場所は、後にサンタントーニオの教会が建ったため、遺構がその下に残りました。
発掘の結果、前6世紀にさかのぼる神殿の跡が見つかっています。
ローマでもっとも古い神殿の跡の一つ。
出土品には、ギリシャとエトルリアの品が混じっていました。ローマが早い時期から交易の場だったことを示しています。
夜明けの女神と、運の女神。この二柱がなぜ並ぶのかは、はっきりしていません。
どちらも王セルウィウス・トゥッリウスに結びつけられている点は共通します。
サトリクムの聖域 ─ 前7世紀からの祭場
ローマから南へおよそ50キロメートル、サトリクムという町の跡があります。
ここに、この女神の大きな聖域がありました。
前7世紀から前5世紀にかけて使われていた。
ローマ市内の神殿より古い時期の遺構です。
出土品のなかに、ラピス・サトリカー?ヌスと呼ばれる石があります。
刻まれた文字は、ローマ最古級のラテン語の碑文の一つとされます。
マールスに捧げる、という趣旨の言葉と、
ポプリオス・ワレシオスという人名が読める。
この名は、共和政初期の人物プブリウス・ウァレリウスに当たるとみられています。
神話ではなく、実在の人物の名が刻まれた最古級の資料です。
聖域そのものは、住所を確かめることができます。基壇の跡が残っています。
マートゥータの家系図と家族
マートゥータの性格と人物像
マートゥータは、由来の分からないことが多い女神です。
夜明けを司る神が、なぜ姉妹の子を守るのか。
なぜ女奴隷を打って追い出すのか。
なぜ運の女神と並んで祀られるのか。
どれも、古代のローマ人自身が説明できずにいました。
一方で、この女神の聖域はローマでもっとも古い層にあります。フォルム・ボアリウムの神殿は前6世紀、サトリクムの聖域は前7世紀にさかのぼります。
古いほど、由来が分からない。
ローマの宗教には、この関係がはっきり見られます。
意味が失われても手順が残る。 ローマ人は、意味の分からない祭を、意味が分からないまま続けました。
マートゥータを祀った神殿と遺跡
マートゥータの聖域は、ローマでもっとも古い層にあります。
フォルム・ボアリウムの神殿は前6世紀、サトリクムの聖域は前7世紀にさかのぼります。
記録より先に、遺構がある。
どちらも住所を確かめることができました。
この女神には、ローマ市内に他の祠もあったとされますが、位置は分かっていません。
サトリクムのマートゥータ聖域(Templum Matris Matutae Satricanum)
前7世紀からの古い聖域
サトリクムのマートゥータ聖域の住所: イタリア ラツィオ州 サトリクム遺跡(北緯41.5131 東経12.7551)
サトリクムのマートゥータ聖域の祀られた神: マーテル・マートゥータ
サトリクムのマートゥータ聖域に残るもの: 神殿の基壇、奉納品の出土層
サトリクムのマートゥータ聖域のご利益: 子の守り
前7世紀から前5世紀にかけて使われた聖域です。ローマ市内の神殿より古い時期の遺構です。
ここからラピス・サトリカーヌスと呼ばれる石が出土しました。刻まれた文字は、ローマ最古級のラテン語の碑文の一つとされます。
碑文にはマールスへの奉納と、実在の人物とみられる名が読めます。
奉納された品からは、当時の暮らしと信仰が分かります。
ローマから南へおよそ50キロメートル。基壇の跡が残る。
サンタントーニオの聖域(Area Sacra di S. Omobono)
マートゥータとフォルトゥーナの双子の神殿の跡
サンタントーニオの聖域の住所: イタリア ローマ フォロ・ボアリオ(北緯41.8907 東経12.4810)
サンタントーニオの聖域の祀られた神: マーテル・マートゥータ、フォルトゥーナ
サンタントーニオの聖域に残るもの: 前6世紀からの神殿の基礎(教会の下)
サンタントーニオの聖域のご利益: 子の守り・運
ティベリス川のほとり、牛の市場と呼ばれた一角にある聖域です。
マートゥータとフォルトゥーナの双子の神殿があったとされます。伝えでは王セルウィウス・トゥッリウスが建てました。
前6世紀にさかのぼる神殿の跡が見つかっており、ローマでもっとも古い神殿の跡の一つです。
出土品にはギリシャとエトルリアの品が混じっており、早い時期から交易の場だったことを示しています。
中世の教会が上に建っている。発掘区は柵の外から見える。
マートゥータが現代に残した痕跡
マートゥータの名は、朝と成熟を意味する語に残りました。
朝を意味する語: この女神の名と同じ語幹から、朝や早朝を指す語が生まれた。
成熟を意味する語: 果実が熟すことを指す語も、同じ系統から出ている。
ラピス・サトリカーヌス: サトリクムの聖域から出土した石。ローマ最古級のラテン語碑文の一つとされる。
マートゥータが司るもの
子の守り
姉妹の子のために祈る祭が行われた。
夜明け
朝と、日が昇ることを司る。
航海の安全
ギリシャのレウコテアと重ねられ、海に関わる面が加わった。
マートゥータが登場するゲーム・アニメ
作品に出ることは、ほとんどありません。
夜明けの女神としては、アウローラの名のほうが広く使われています。
一方、サトリクムの碑文は、ラテン語の歴史を扱う場面で必ず取り上げられます。
神殿の跡から、最古級の文字が出た。
この女神の聖域が、ローマの言葉の歴史を支えています。
マートゥータが登場するゲーム・アニメ
夜明けを扱う作品
暁の女神として名が使われることがあります。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
マートゥータについてよくある質問
マートゥータは何の女神ですか。
夜明けの女神です。名は「朝の」「熟した」を意味する語につながります。6月11日のマートラーリアが祭日でした。
なぜ姉妹の子のために祈ったのですか。
分かっていません。プルタルコスもこの問いを立て、いくつかの説明を試みていますが、決め手を欠いています。
神殿はどこにありますか。
ローマのフォロ・ボアリオに双子の神殿の跡があり、中世の教会の下に残っています。ラツィオ州のサトリクムにも、前7世紀からの聖域の跡があります。
サトリクムの碑文とは何ですか。
この女神の聖域から出土した石です。ローマ最古級のラテン語碑文の一つとされ、マールスへの奉納と実在の人物とみられる名が読めます。
マートゥータと併せて覚えたい言葉・用語
プルタルコス(Plutarch)
ギリシャの著述家。『イシスとオシリスについて』を書いた。オシリス神話が一続きの物語として読めるのはこの書だけだが、ギリシャ語で、神話の成立から二千年以上あとの記録である点に注意が要る。
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。