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エジプト神話

サフとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

sꜣḥ  / サフ

都市の神

オリオン座の神。「星々の父」と呼ばれ、オシリスに重ねられた。

サフとは何の神様か

サフはひとことで言えば夜空を歩く神です。

オリオンそのものであり、「星々の父」と呼ばれます。

姿は、

星を手にし、あるいは星に囲まれて舟に立つ男。

として描かれます。

この神には、他の神話の星座のような物語がありません。

生まれの話がない。争いの話もない。

記録されたのは、位置と、いつ昇るかです。

重要なのは、オシリスと重ねられたことです。

冥界の王が、夜空を横切る星座になっている。

ピラミッド・テキストには、死んだ王がこの星座になって天へ昇る一節があります。

妻はソプデト(シリウス)、子はソペドとされます。オリオンとシリウスは、実際の夜空でも近くに並んで見えます。 家族の系譜が、星の配置をなぞっています。

サフのヒエログリフの表記と読み方

エジプト語では sꜣḥ。日本語ではサフサアフサーフと表記されます。

この語は、オリオン座そのものを指します。

星座の名が、そのまま神の名。

ギリシャ人は同じ星の並びをオリオンと呼び、狩人の物語を与えました。同じ星を見て、まったく別の話が作られています。

称号の星々の父は、この神の位置を示す言葉です。オリオン座は夜空で目立つため、

他の星を数えるときの基準

になりました。

日本語の資料では、この神がオシリスの名で説明されることがあります。

オリオン座はオシリスである。

という同一視が広まったためです。もとは別の神であり、後に重ねられたという順序を押さえておきたいところです。

sꜣḥ(サフ)

ヒエログリフの転写。オリオン座を指す語。日本語ではサフ、サアフなどと表記される。

Ὠρίων(オリオン)

ギリシャ人が同じ星座に与えた名。同じ星の並びを、別の物語で説明している。

jt-sbꜣw(イト・セバウ)

「星々の父」。この神の称号のひとつ。

サフの物語

  1. 王が星になる ─ ピラミッド・テキストの昇天
  2. オシリスと重なる ─ 星座が冥界の王になる
  3. なぜ記録が少ないのか ─ 星の神の宿命
  4. シンボル ─ 星に囲まれた男と、棺の星表

王が星になる ─ ピラミッド・テキストの昇天

エジプトでもっとも古い宗教文書が、ピラミッド・テキストです。ピラミッドの内部の壁に刻まれた呪文集で、紀元前2400年頃のものとされます。

そこに書かれているのは、

死んだ王が、天へ昇るための言葉

です。

そのなかに、サフが現れます。

王はサフとなり、星々のなかへ入る。

死んだ王が、星座そのものになるという考え方です。来世は地下ではなく、空にありました。

古い時代のエジプトでは、死後の行き先が

北の空の、沈まない星々

とされていました。決して地平線の下へ行かない星は、死なない者の姿と見られたのです。

時代が下ると、来世の主流は

オシリスの治める冥界

へ移ります。しかし星への昇天という古い層は消えず、

オリオン座がオシリスである

という形で残りました。新しい信仰が、古い信仰を上書きせずに取り込んでいます。

オシリスと重なる ─ 星座が冥界の王になる

サフとオシリスの同一視は、時代とともに強まりました。

理由は、いくつも重なります。

どちらも「死んで、また現れる」性格を持つ。
オリオン座も、季節によって見えなくなり、また昇ってくる。
妻とされるシリウスが、イシスと重ねられた。

星の配置も味方しました。

オリオン座の三ツ星の延長線上に、シリウスがある。

夫婦とするのに無理がありません。

神話の系譜と、実際の星の並びが一致しています。

この同一視には、副産物があります。

ギザのピラミッドの配置が、オリオン座の三ツ星に対応する

という説が、二十世紀後半に唱えられました。広く知られた話ですが、

学術的には支持されていません。

配置の精度や建設年代の問題が指摘されています。

ただし、エジプト人が星と死後を強く結びつけていたことは、ピラミッド・テキストが証明しています。説の当否とは別に、方向としては間違っていません。

なぜ記録が少ないのか ─ 星の神の宿命

サフについて残っているものは、驚くほど少ないのです。

神殿がない。神像がほとんどない。物語がない。

理由は、この神が星座だからです。

エジプトの神は、多くが

特定の町の守り神として始まった

ものです。町があれば神殿が建ち、神官がつき、祭が行われ、記録が残ります。

星には、町がありません。場所を持たない神は、神殿を持ちません。

かわりに残ったのは、

天井の星図。棺の内側の星表。呪文のなかの一行。

です。

もうひとつの理由が、オシリスへの吸収です。

同一視された神は、独立した記録を失っていく。

物語のある神に呑み込まれると、その神の名で語られるようになります。ソプデトがイシスに吸収されたのと、同じ過程です。

記録が少ないこと自体が、この神の性格を示しています。 場所を持たず、物語を持たず、それでも三千年、夜空にい続けました。

シンボル ─ 星に囲まれた男と、棺の星表

この神の図像は、限られています。

代表的なのが、

星に囲まれ、舟に立つ男。手に星を持つこともある。

という姿です。舟に立つのは、

天も川である

というエジプトの考え方によります。太陽も船で渡ります。

もうひとつが、棺の内側の星表です。

中王国時代の棺の蓋の裏に、星の一覧が格子状に書かれる。

夜のどの時間にどの星が昇るかを記した表で、死者が時間を知るための道具でした。

死んでからも、時刻を確かめる必要があった。

という発想です。この表に、サフの名が並びます。

三つめが、天体図です。デンデラの神殿の天井には、

星座を円形に配置した彫刻

があり、そこにオリオン座とシリウスが並んで刻まれています。

神殿と棺の天井に、星の地図があります。 見上げる場所に、この神はいました。

サフの家系図と家族

サフの親: ヌト体に並ぶ星のひとつとして産み出す

サフの妻・夫: ソプデト夫婦(オリオンとシリウス)

サフの子・子孫: ソペド

サフの性格と人物像

サフは、場所を持たない神です。

神殿がない。町がない。祭の記録もほとんどない。

エジプトの神としては、極端に手がかりが少ない一柱です。

注目すべきは、それでも消えなかったことです。

夜になれば、必ず見える。

神殿がなくても、星は毎晩昇ります。祀る場所を持たない神が三千年残った理由は、それだけです。

もうひとつ、この神は死者の行き先でした。

王はサフとなり、星々のなかへ入る。

古いエジプトの来世は、地下ではなく空にありました。上を向いていた時代の記録が、この神に残っています。

そして、最後にはオシリスに吸収されます。

物語のない神は、物語のある神に混ざる。

ソプデトがイシスに吸収されたのと、同じ道筋です。それでも、星の名は消えませんでした。 いまも同じ星が、同じ場所に見えます。

サフを祀った神殿と遺跡

サフの神殿は、存在しません。

星には、町がない。

エジプトの神の多くは特定の町の守り神として始まり、そこに神殿が建ちました。場所を持たない神は、神殿を持ちません。

そのかわり、この神は

天井と、棺の裏

に残りました。デンデラの天体図、王墓の星図、中王国の棺の内側の星表。

いずれも、見上げる場所にあります。

この神を探すときは、上を向いてください。 神殿の天井か、棺の蓋の裏か、あるいは実際の夜空です。

デンデラ神殿(Temple of Dendera)

天井に天体図が刻まれた神殿

地図で開く

デンデラ神殿の住所: エジプト デンデラ

デンデラ神殿の祀られた神: ハトホル

デンデラ神殿に残るもの: ハトホル柱の列柱室・天体図・地下室

エジプト政府の案内は、この神殿を

エジプトでもっとも保存状態のよい神殿のひとつ

とし、天井の天文の彫刻を特徴として挙げています。

サフを見るなら、ここです。天井に、星座を円形に配置した図が刻まれています。

オリオン座のサフと、シリウスのソプデトが並んで描かれる。

夫婦とされた二柱が、実際の夜空と同じ位置関係で彫られています。

プトレマイオス朝の建立ですが、この場所には古王国の時代から建物がありました。

浮き彫りの保存がよく、星座の一つひとつまで読み取れます。屋上の礼拝堂も見学の対象です。

ルクソールから車で行ける。アビドスと合わせた一日の行程が一般的。

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デンデラの現地ツアーや入場券を探せます。

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サッカラ(Saqqara)

ピラミッド・テキストが刻まれた場所

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サッカラの住所: エジプト カイロ南西約40キロ

サッカラの祀られた神: ソカル・プタハ

サッカラに残るもの: 階段ピラミッド・第5第6王朝の王墓・セラペウム

エジプト政府の遺跡案内は、この地を

カイロの南西40キロに位置し、メンフィスのもっとも重要な墓域のひとつ

とし、第5王朝と第6王朝の王のピラミッドがあると記しています。

サフにとって重要なのは、この第5第6王朝のピラミッドです。

その内部の壁に、ピラミッド・テキストが刻まれている。

現存する世界最古の宗教文書とされる呪文集で、王の魂が天へ昇るための言葉が並びます。

そのなかに、

王はサフとなり、星々のなかへ入る

という一節があります。

この神の名がもっとも古く現れる場所が、ここです。神殿ではなく、墓の内壁でした。

カイロから日帰り可能。内部公開されるピラミッドは時期により変わる。

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サフが現代に残した痕跡

サフの名は、天井の星図と、棺の裏の星表に残りました。

ピラミッド・テキストの昇天: 死んだ王がこの星座になって天へ昇るという呪文。サッカラの第5第6王朝のピラミッド内部に刻まれている。

デンデラの天体図: 神殿の天井に星座を円形に配置した彫刻。シリウスのソプデトと並んで刻まれている。

棺の星表: 中王国時代の棺の蓋の裏に格子状に書かれた星の一覧。夜のどの時間にどの星が昇るかを示し、死者が時刻を知るための道具とされた。

オリオンという名: ギリシャ人が同じ星の並びに与えた名。同じ星を見て、まったく別の物語が作られた。

サフが司るもの

死者の昇天

ピラミッド・テキストで、死んだ王がこの星座になって天へ昇るとされた。

時を知る

棺の内側の星表に名が並ぶ。夜のどの時間にどの星が昇るかを示す道具だった。

星々の統率

「星々の父」と呼ばれ、他の星を数えるときの基準になった。

再生

季節によって見えなくなり、また昇ってくる。オシリスと重ねられた理由のひとつ。

サフが登場するゲーム・アニメ

オシリスの名で語られてしまう神です。

オリオン座はオシリス。

という説明が一般的で、もとは別の神で、後に重ねられたという順序は省かれます。

また、ギザのピラミッドの配置をオリオン座に対応させる説は広く知られていますが、

学術的には支持されていません。

配置の精度や建設年代の問題が指摘されています。ただし、エジプト人が星と死後を強く結びつけていたことは、ピラミッド・テキストが示すとおりです。

サフが登場するゲーム

女神転生シリーズ

星座に関わる存在として扱われることがあります。

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Assassin's Creed オリジンズ

星座を扱う要素があり、オリオン座に関わる場面が置かれています。

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サフが登場するアニメ・漫画・映像

ピラミッドを扱った番組

ギザの配置とオリオン座を結びつける説が、繰り返し取り上げられています。

古代エジプト展

棺の星表や天体図の解説のなかで、この神の名が出ることがあります。

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サフについてよくある質問

サフは何の神様ですか。

オリオン座そのものである神です。「星々の父」と呼ばれ、星に囲まれて舟に立つ男の姿で描かれます。

オシリスと同じ神ですか。

もとは別の神で、後に重ねられました。どちらも死んでまた現れる性格を持ち、妻とされるシリウスがイシスと重ねられたことから、同一視が進みました。

なぜ王が星になるのですか。

古いエジプトでは、来世が地下ではなく空にあると考えられていました。とくに北の空の沈まない星は、決して死なない者の姿と見られました。ピラミッド・テキストには「王はサフとなり、星々のなかへ入る」という一節があります。

ギザのピラミッドとオリオン座の関係は本当ですか。

学術的には支持されていません。配置の精度や建設年代の問題が指摘されています。ただし、エジプト人が星と死後を強く結びつけていたこと自体は、ピラミッド・テキストが示しています。

なぜこの神の記録は少ないのですか。

星座だからです。エジプトの神の多くは特定の町の守り神として始まり、そこに神殿と神官と祭ができて記録が残りました。星には町がないため、神殿も祭もありません。さらにオシリスに吸収され、独立した記録が減っていきました。

この神はどこで見られますか。

デンデラ神殿の天井の天体図です。オリオン座のサフとシリウスのソプデトが、実際の夜空と同じ位置関係で並んで刻まれています。中王国時代の棺の蓋の裏に書かれた星表にも名が並びます。

サフと併せて覚えたい言葉・用語

ソプデト(Sopdet/シリウス)

シリウスが日の出直前に再び現れる日が、ナイルの増水の到来とほぼ一致した。エジプトの暦の起点であり、女神として神格化され、のちにイシスと同一視された。