メンフィスの墓域の主。サッカラという地名は、この神の名から来ている。
セケルとは何の神様か
セケルのヒエログリフの表記と読み方
エジプト語では skr。日本語ではセケル、ソカル、ソカリスと表記が揺れます。
注意したいのは、同じ神が二通りの名で紹介されることです。
日本語の資料では「ソカル」のほうが多く見られます。
どちらも同じ神です。
この名がもっとも広く残ったのが、地名です。
サッカラ。
カイロの南西にある巨大な墓域で、階段ピラミッドがあることで知られます。エジプト政府の遺跡案内も、この地名がこの神に由来すると記しています。
もうひとつ重要なのが、三重の名です。
プタハ=ソカル=オシリス。
メンフィスの創造神、墓域の神、冥界の王を一つにまとめた形で、後期にはこの名の像が大量に作られました。エジプトの神が混ざるとは、こういうことです。
skr(セケル)
ヒエログリフの転写。日本語ではセケル、ソカル、ソカリスなどと表記される。
ptḥ-skr-wsjr(プタハ=ソカル=オシリス)
三柱が融合した形。後期にはこの名で広く祀られ、木製の合体像が大量に作られた。
rꜣ-sṯꜣw(ロセタウ)
「通路の入口」。この神が治める墓域を指す語で、冥界への入口も意味した。
セケルの物語
ロセタウ ─ 墓域が冥界の入口になる
セケルが治めるのは、ロセタウと呼ばれる場所です。
「通路の入口」を意味する語。
これは二つのものを同時に指します。
現実の墓域。そして、冥界への入口。
地上の場所と、死後の世界の入口が、同じ名で呼ばれています。
エジプトの墓域は、都市の西側に置かれました。太陽が沈む方角だからです。
メンフィスの西には、
アブ・ラワシュ、ギザ、アブシール、サッカラ、ダハシュール
と墓域が南北に連なります。エジプト政府の世界遺産の解説も、この一連の墓域をメンフィスの構成要素として挙げています。
この帯全体が、ロセタウでした。
セケルは、その主です。
死者は西へ行き、この神の領域に入り、そこから冥界へ下る。
死者の書?には、ロセタウの門を通るための呪文が収められています。
現実の砂漠が、そのまま来世の地形として書かれています。 エジプトの死後の世界は、抽象的な場所ではありませんでした。
ヘヌ舟を引く ─ 玉ねぎの首飾りの祭
セケルの祭は、エジプトでも古い部類に属します。
中心にあるのがヘヌ舟です。
船首に羚羊の頭がつく、独特の形の舟。
水に浮かべず、そりの上に載せる。
川ではなく、砂漠を引きます。
綱をかけ、人々が引く。
祭が行われたのは、コイアクの月。増水が引いて種を蒔く時期にあたります。
死と再生の祭が、農耕の節目に置かれている。
参加者は、玉ねぎの首飾りをかけたと伝えられます。葬送の祭に、玉ねぎが使われました。
理由は、はっきりしません。
強い匂いが、死者を目覚めさせると考えた。
層が重なる構造が、再生を表すと見た。
いくつかの説が出されています。実際、ミイラの目や体腔に玉ねぎが納められた例が知られています。
この祭の場面は、テーベ西岸のメディネト・ハブにも刻まれました。メンフィスの神の祭が、遠く離れたテーベでも行われていたことになります。
三つの神が一つになる ─ プタハとオシリスと
後の時代、この神は三重の名で呼ばれるようになります。
プタハ=ソカル=オシリス。
組み合わせに、筋が通っています。
プタハは、メンフィスの創造の神。心で思い、舌で言葉にして世界を作った。
ソカルは、メンフィスの墓域の神。
オシリスは、冥界の王。
作ることと、葬ることと、蘇ることが、一柱にまとめられています。
この融合神の像が、大量に作られました。
木でできた、ミイラの形の彩色像。
台座の内部が空洞になっていて、そこに呪文を書いたパピルスを納める。
墓に置く副葬品です。中身のある像でした。
エジプトの神の融合は、
一方が他方を吸収するのではなく、名を並べたまま一体にする
形をとります。アメン=ラー、ラー=ホルアクティ、ソベク=ラーも同じです。
三つの神が、消えずに同居している。
矛盾を解消しないまま束ねるのが、エジプトのやり方でした。
審判と心臓 ─ 裁きの前に通る場所
エジプトの死後の道筋は、順序が決まっています。
遺体を整える。清める。口を開く儀式を行う。
西の墓域へ運ぶ。
冥界の門を、いくつも通る。
そして、心臓の計量?。
心臓の計量は最後にあります。天秤の一方に心臓、もう一方にマアトの羽根を載せ、釣り合えば来世へ進みます。
セケルの領域は、この道筋の入口にあたります。
西へ運ばれた死者が、最初に入る場所。
死者の書には、ロセタウの門を通るための呪文が収められています。
正しい言葉を唱えなければ、門は開かない。
心臓の計量までたどり着くこと自体が、簡単ではありませんでした。
この神が隼の頭を持つのも、意味があります。
隼は、天へ昇る鳥。
ミイラの体に、飛ぶ鳥の頭。動かない体と、飛ぶ力が組み合わされています。 墓に横たわりながら、そこから出ていくという状態そのものが、この神の姿です。
セケルの家系図と家族
セケルのきょうだい: ネフェルテムともにメンフィスの神として祀られる
セケルの性格と人物像
セケルは、入口の神です。
墓域であり、冥界への入口であるロセタウの主。
裁きません。導きません。そこに入るときに、通る神です。
注目すべきは、姿が矛盾していることです。
ミイラの体に、隼の頭。
ミイラは動きません。隼は飛びます。止まっていることと、飛び立つことが、同じ体に載っています。
そして、この神は混ざりました。
プタハ=ソカル=オシリス。
創造と葬送と復活が、名を並べたまま一体になります。エジプトは、矛盾を解消せずに束ねます。
もうひとつ、この神は地名として生き延びました。
サッカラ。
神殿は残らず、物語も乏しいのに、地図の上に名前が残っています。毎日、世界中の人がこの神の名を口にしています。 そうと知らずに。
セケルを祀った神殿と遺跡
セケルの独立した大神殿は、残っていません。
メンフィスのプタハ神殿のなかに、この神の場所があった。
という形が基本でした。融合した神は、相手の神殿に同居します。
そのかわり、この神は
墓域そのもの
として残りました。サッカラという地名が、その証拠です。
また、祭の場面はテーベにも刻まれています。メンフィスの神でありながら、記録がもっともよく残るのはテーベ西岸という、ねじれた状況になっています。
サッカラ(Saqqara)
この神の名が地名になった墓域
エジプト政府の遺跡案内は、この地を
カイロの南西40キロに位置し、メンフィスのもっとも重要な墓域のひとつ
としたうえで、
この地名は、おそらくこの墓域の神ソカルに由来する
と明記しています。神の名が、そのまま現代の地名になっています。
階段ピラミッドは、石で作られた世界最古級の大建築とされます。
セラペウムと呼ばれる地下の回廊では、聖牛アピスが葬られました。プタハの化身とされた牛です。
一度に一頭だけが生き、死ぬと十分な礼をもって葬られた。
この神を訪ねるのに、これ以上ふさわしい場所はありません。名前そのものが残っています。
カイロから日帰り可能。内部公開されるピラミッドと墓は時期により変わる。
メンフィス(ミト・ラヒーナ)(Memphis / Mit Rahina)
融合神プタハ=ソカル=オシリスの本拠
メンフィス(ミト・ラヒーナ)の住所: エジプト メンフィス(ミト・ラヒーナ)
メンフィス(ミト・ラヒーナ)の祀られた神: プタハ・セクメト・ネフェルテム・ソカル
メンフィス(ミト・ラヒーナ)に残るもの: プタハ神殿址・ラメセス2世の巨像・スフィンクス
エジプト政府の世界遺産の解説は、この地を
初期王朝時代と古王国時代の首都
とし、プタハ信仰の中心であったと記しています。
セケルにとって重要なのは、この町の神プタハと融合したことです。
プタハ=ソカル=オシリス。
創造の神と、墓域の神と、冥界の王が、名を並べたまま一体になりました。
現在の遺跡は、
横たわるラメセス2世の巨像と、雪花石膏のスフィンクス
を中心とした野外の展示区画です。かつての都市の大部分は耕地と村の下にあります。
西に広がる墓域が、この神の領域です。町と墓が、一続きで見られます。
カイロ南方。サッカラとダハシュールを結ぶ一日の行程に組み込みやすい。
メディネト・ハブ(Medinet Habu)
ソカルの祭の場面が刻まれた場所
エジプト政府の案内は、この建物を
ラメセス3世の葬祭殿であり、王の葬送の儀礼とアメンの礼拝を行うためのもの
と記しています。
セケルにとって重要なのは、祭の記録です。
壁面には年ごとの祭が順に刻まれており、そのなかに
ヘヌ舟をそりに載せて引く行列
の場面が含まれます。メンフィスの神の祭が、遠く離れたテーベでも行われていました。
浮き彫りの彩色がよく残るため、
舟の形、参加者の姿、供物の内容
まで読み取れます。祭の実際を知るのに、もっとも情報量の多い場所のひとつです。
ルクソール西岸。デイル・エル・メディーナから近い。
セケルが現代に残した痕跡
セケルの名は、地名と、木製の合体像に残りました。
サッカラという地名: カイロ南西の巨大な墓域。エジプト政府の遺跡案内も、この地名がこの神に由来すると記している。
ヘヌ舟: 船首に羚羊の頭がつく独特の舟。水に浮かべず、そりに載せて砂漠を引いた。
玉ねぎの首飾り: この神の祭で参加者がかけたと伝えられる。ミイラの目や体腔に玉ねぎが納められた例も知られる。
プタハ=ソカル=オシリス像: 木でできたミイラ形の彩色像。台座の内部が空洞で、呪文を書いたパピルスを納めた副葬品。
セケルが司るもの
墓域の守り
メンフィスの墓域ロセタウの主。死者が最初に入る領域を治める。
再生
プタハ、オシリスと融合し、創造と葬送と復活を一体で担う形になった。
職人の守護
金銀を扱う職人の守り神とされた。
農耕の節目
祭は増水が引いて種を蒔く時期に行われ、死と再生が農耕の節目に置かれた。
セケルが登場するゲーム・アニメ
名前だけが有名な神です。
サッカラ。
この地名は誰でも知っていますが、それが神の名であることは、ほとんど知られていません。
また、創作では冥界の神といえばアヌビスとオシリスで、この神の出番はありません。原典では、
死者が西へ運ばれて最初に入る領域
の主でした。順序でいえば、アヌビスより前にいる神です。
セケルが登場するゲーム
セケルが登場するアニメ・漫画・映像
古代エジプト展
プタハ=ソカル=オシリス像が、副葬品として展示されることがあります。
ピラミッドを扱った番組
サッカラの地名の由来として、この神が触れられることがあります。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
セケルについてよくある質問
セケルは何の神様ですか。
メンフィスの墓域を治める冥界の神です。隼の頭を持つミイラの姿で描かれ、ロセタウと呼ばれる領域を治めました。ロセタウは現実の墓域であり、冥界への入口でもあります。
ソカルと同じ神ですか。
同じ神です。日本語の資料では「ソカル」の表記のほうが多く見られます。ソカリスと書かれることもあります。
サッカラの地名の由来というのは本当ですか。
エジプト政府の遺跡案内が、この地名はおそらくこの墓域の神ソカルに由来すると記しています。神の名が、そのまま現代の地名として残っている例です。
プタハ=ソカル=オシリスとは何ですか。
三柱が融合した形です。メンフィスの創造神プタハ、墓域の神ソカル、冥界の王オシリスが、名を並べたまま一体になりました。後期にはこの名の木製の像が大量に作られ、副葬品として墓に納められました。
なぜ祭で玉ねぎを身につけるのですか。
はっきりした理由は分かっていません。強い匂いが死者を目覚めさせると考えたとする説や、層が重なる構造を再生の表れと見たとする説があります。実際、ミイラの目や体腔に玉ねぎが納められた例が知られています。
この神はどこで見られますか。
サッカラそのものがこの神の領域です。祭の場面については、テーベ西岸のメディネト・ハブの浮き彫りに、ヘヌ舟をそりで引く行列が刻まれています。メンフィスの神でありながら、記録がよく残るのはテーベ西岸です。
セケルと併せて覚えたい言葉・用語
死者の書(ししゃのしょ)
正しくは「日のもとに出現するための書」。冥界を通るための呪文集で、パピルスに書いてミイラとともに納めた。名前の欄を空けた既製品が売られており、購入者の名を書き入れて使った。
心臓の計量(しんぞうのけいりょう)
死者の心臓とマアトの羽根を天秤にかける冥界の裁き。アヌビスが天秤を扱い、トートが記録する。釣り合えば来世へ、釣り合わなければアメミットが心臓を食い、存在そのものが消える。死者の書第125章。