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北欧神話

セーフリームニルとは何の神様か|家系図・物語

Sæhrímnir  / セーフリームニル

大地 神獣

毎日煮られ、毎晩よみがえる猪。ヴァルハラの食卓を支え続ける。

セーフリームニルとは何の神様か

セーフリームニルはひとことで言えば尽きない食べものです。ヴァルハラの食卓に毎日のぼる猪で、名は「煤けた海棲動物」と解されます。

この獣の性質はひとつだけです。何度食べても無くならない。 どれほど多くの戦死者エインヘリャルがいても食い尽くされることはなく、毎日料理されて、夕方にはまた元の姿に戻っています。

料理するのはアンドフリームニルという料理人、使う鍋はエルドフリームニル三者の名がそろって同じ音で終わるのは、偶然ではなく詩の言葉遊びです。

出典は古エッダ『グリームニルの言葉』第18聯です。新エッダギュルヴィたぶらかし』第38章はその部分を引き、説明を足しています。

飢えが身近だった土地でこそ意味を持つ設定でした。ヴァルハラが楽園である理由の半分は、この猪が担っています。

セーフリームニルの名前の表記と読み方

古ノルド語では Sæhrímnir(セーフリームニル)。名の意味は「煤けた海棲動物」と解されます。

猪なのに海の獣を指す語が入っている理由は、はっきりしていません。を意味する前半と、煤・霜に関わる後半の組み合わせで、後半の語は火にかけられ続けたことを指すとみられています。

注目したいのは、料理人アンドフリームニル、鍋エルドフリームニルと、三つの名がそろって同じ「フリームニル」で終わることです。 音をそろえて三点を結ぶのは、古い詩でよく使われた手法でした。

日本語ではセーフリームニル、サイフリームニル、セフリームニルなどと書き分けられます。

Sæhrímnir(セーフリームニル)

古ノルド語の表記。「煤けた海棲動物」と解される。

Andhrímnir(アンドフリームニル)

この猪を料理する料理人の名。

Eldhrímnir(エルドフリームニル)

この猪を煮る鍋の名。「火の煤けたもの」と解される。

セーフリームニルの物語

  1. ヴァルハラの一日 ─ 殺し合って、食べる
  2. 毎日よみがえる ─ トールの山羊との違い
  3. 尽きない食べものという願い

ヴァルハラの一日 ─ 殺し合って、食べる

この猪の役目を知るには、ヴァルハラの日課を見る必要があります。

戦って死んだ勇者エインヘリャルは、ワルキューレに選ばれてこの館へ運ばれます。そこでの一日はこうです。

昼のあいだ、庭に出て互いに殺し合う。日が暮れるとすべての傷が癒え、そろって宴の席に着く。

毎日殺し合い、毎晩よみがえって食べる。 その食卓に出るのが、この猪です。

飲みものも尽きません。牝山羊ヘイズルーンが出す蜜酒がそれです。

傷が治る戦士と、生き返る猪が、同じ館で同じ周期を回している。 ヴァルハラという場所の理屈が、ここでそろいます。

毎日よみがえる ─ トールの山羊との違い

生き返る獣は、北欧神話にもう一組います。トールの戦車を引く山羊タングリスニタングニョーストです。

この二頭も食べられ、翌朝よみがえります。ただし条件がありました。骨と皮が残っていることです。骨を割られると、生き返っても足を引きずったままになります。実際、シャールヴィが腿の骨を割ってしまい、トールの怒りを買いました。

この猪には、そうした条件がありません。骨まで煮られても、夕方には元に戻ります。

同じ「よみがえる獣」でも、山羊は現実の縛りを負い、猪は負わない。

違いは場所の違いだと考えられます。山羊は地上を走り、猪は死者の館にいる。生と死の境の向こう側では、条件が要らないということでしょう。

尽きない食べものという願い

北欧の冬は長く、蓄えが尽きれば死に直結しました。食べものが無くならないという設定は、そうした土地から生まれた願いです。

同じ発想は、他の宝にも現れます。オーディンの腕輪ドラウプニルは九夜ごとに同じ腕輪を八つ落とし、フレイの猪グリンブルスティは闇を照らして走り、船スキーズブラズニルは畳んで懐に入ります。

北欧神話の宝は、たいてい「減らない」か「増える」か「持ち運べる」ものです。

この猪はその筆頭に置かれます。豪華な料理でも珍しい食材でもありません。ただ無くならない。 それが最上の贅沢でした。

戦士たちが求めたのが黄金ではなく尽きない肉だった、という点に、この神話の生まれた土地の暮らしがのぞきます。

セーフリームニルの家系図と家族

セーフリームニルの性格と人物像

セーフリームニルは、意志を持たない登場人物です。

逃げません。抵抗しません。毎日殺され、毎日戻ってきます。感情を描かれることもありません。

しかし読み返すと、この設定はどこか不穏です。終わらない戦いのために、終わらない食事が用意されている。

エインヘリャルは毎日殺し合い、毎晩傷を癒やして食卓に着きます。猪は毎日煮られ、毎晩元に戻ります。どちらも同じ輪のなかにいます。

そしてその輪は、ラグナロクの日まで続きます。戦士たちが蓄えられているのは、終末に主神の側で戦うためです。

楽園に見える場所が、実は準備の期間である。 その準備を毎日支えているのが、この猪でした。名前しか与えられていない存在ですが、ヴァルハラの意味は半分この獣が背負っています。

セーフリームニルゆかりの地と遺跡

この猪を祀った場所は見つかっていません。 地名にも残っていません。

猪そのものは、北欧で神聖な獣として扱われました。フレイの猪グリンブルスティ、フレイヤの猪ヒルディスヴィーニと、主だった神が猪を持ちます。ただし、この猪と結びつけられる遺跡や出土品は確認できていません。

セーフリームニルが現代に残した痕跡

この猪の名は、ヴァルハラの設定の一部として書物に残りました。

三つの「フリームニル」: 猪セーフリームニル、料理人アンドフリームニル、鍋エルドフリームニル。音をそろえて三点を結ぶ、古い詩の手法が残っている。

『グリームニルの言葉』第18聯: この猪について記す最古の出典。新エッダ第38章はこの部分を引用し、説明を足している。

尽きない宝という発想: ドラウプニル、グリンブルスティ、スキーズブラズニルと並ぶ「減らない宝」の一つ。北欧の宝物観をよく表している。

セーフリームニルが司るもの

再生

毎日食べられて毎晩よみがえる獣として語られる。

豊作

尽きることのない食べものの象徴とされる。

循環

殺されては戻るという繰り返しそのものが、この獣の性質である。

セーフリームニルについてよくある質問

セーフリームニルとは何ですか。

ヴァルハラの食卓に毎日のぼる猪です。どれだけ食べられても尽きることがなく、毎日料理されて夕方には元の姿に戻ります。

誰が料理するのですか。

アンドフリームニルという料理人が、エルドフリームニルという鍋で煮ます。猪と料理人と鍋の三つの名が、そろって同じ音で終わります。

トールの山羊と同じですか。

似ていますが違います。トールの山羊は骨と皮が残っていれば生き返り、骨を割られると足を引きずったままになります。この猪にはそうした条件がありません。

名前の意味は何ですか。

「煤けた海棲動物」と解されます。猪なのに海を意味する語が入っている理由は、はっきりしていません。

セーフリームニルと併せて覚えたい言葉・用語

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

エインヘリャル(Einherjar)

ヴァルキュリャに選ばれてヴァルハラへ迎えられた戦死者たち。ラグナロクでオーディンの軍勢となる。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。