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北欧神話

ラタトスクとは何の神様か|家系図・物語

Ratatoskr  / ラタトスク

大地 神獣

世界樹を駆けのぼり駆けおりるリス。悪口を運んで争わせる。

ラタトスクとは何の神様か

ラタトスクはひとことで言えば世界樹の伝令です。名は「牙のねずみ」「旅の牙」などと解されます。

古エッダ『グリームニルの言葉』第32聯によれば、世界樹ユグドラシルを上下に走り、頂にとまる鷲と、根を噛む竜ニーズヘッグのあいだで言葉を運びます。

新エッダギュルヴィたぶらかし』第16章は、もっと踏みこんで書きます。このリスは中傷を運び、鷲と竜を煽り立てているのだ、と。

世界を貫く巨木の上と下で、竜と鷲が延々と悪口を言い合い、そのあいだをリスが往復している。壮大な宇宙の中心に、小さな告げ口屋がいる。 北欧神話の語り口がよく出た配置です。

ラタトスクの名前の表記と読み方

古ノルド語では Ratatoskr。後半の toskr は「牙」で異論がありませんが、前半の rata- は決着していません。 「旅する」とも「穴を穿つ」とも読め、「ドリルの牙」と訳す研究者もいます。

古英語の ræt(ねずみ)を含むとみて「ねずみの牙」と読む説もあります。

いずれにせよ、歯で世界樹を行き来する小動物という像は共通しています。

Ratatoskr(ラタトスク)

古ノルド語の表記。rata(旅する・穴を穿つ)と toskr(牙)から成るとされる。

Ratatosk(ラタトスク)

英語圏や現代北欧語での綴り。

Ratatöskr(ラタテスク)

写本によって見られる表記の揺れ。

ラタトスクの物語

  1. 木の上と下 ─ 誰と誰をつなぐのか
  2. 運ぶのは言葉か、悪口か
  3. なぜリスなのか

木の上と下 ─ 誰と誰をつなぐのか

世界樹ユグドラシルには、いくつもの生きものが棲んでいます。

頂にはがとまり、その眉間には鷹ヴェズルフェルニルがとまっています。幹には四頭の牡鹿が葉を食い、根もとでは竜ニーズヘッグが噛み続けています。

ラタトスクは、この上と下を結ぶ唯一の存在です。

ラタトスクという名のリスが走り回る。ユグドラシルの木を上下して、鷲の言葉を運び、下のニーズヘッグへ告げる。

世界樹に暮らす者のなかで、上下を行き来できるのはこのリスだけです。

運ぶのは言葉か、悪口か

古エッダは「言葉を運ぶ」としか書きません。ところが新エッダは、はっきり悪意を加えます。

このリスは、鷲とニーズヘッグのあいだで中傷の言葉を運ぶ。

運び屋から、煽り屋への変化です。

スノッリが独自に付け加えたのか、古い言い伝えを写しただけなのかはわかりません。ただ、古エッダの簡潔な記述に、新エッダが人格を足していく例は他にもいくつもあり、その一つとみるのが自然でしょう。

名の「牙」も、この読み方を後押ししてきました。

なぜリスなのか

巨大な世界樹に、なぜリスなのか。

北欧の森でリスは、実際に幹を上下に走り回る動物です。日々目にする小動物が、そのまま宇宙の伝令に据えられている。

北欧神話には、こうした置き換えが多くあります。雷は槌、風は鷲の翼、地震はロキの身悶え。日常の光景に世界規模の理由を与えるのが、この神話の説明のしかたです。

現代の研究では、鷲と竜の反目そのものを、天と地の対立の表現とみる読み方もあります。その場合、あいだを走るリスは、対立を保ち続けるための装置ということになります。

ラタトスクの家系図と家族

ふつうのつながり きょうだい 敵対・国ゆずり 本によって話がちがう

ラタトスクの性格と人物像

ラタトスクは、神話でもっとも小さい登場人物です。

戦わず、宝も持たず、誰かを救うこともしない。ただ上下に走って、悪口を届けている。

それでもこの一匹に役割があるとすれば、争いを絶やさないことでしょう。鷲と竜は互いに顔を見ることもできません。それでも憎み合い続けられるのは、このリスが往復しているからです。

世界樹という壮大な柱の中心に、噂を運ぶ小動物が置かれている。 北欧神話が真面目一辺倒でないことを、この一匹がよく示しています。

現代の作品でよく取り上げられるのも、この役どころのおかしみによります。

ラタトスクゆかりの地と遺跡

ラタトスクを祀った場所はありません。 世界樹に棲む生きものの一つとして語られただけです。

遺物としても、このリスを彫ったと確かめられるものは見つかりませんでした。世界樹そのものを描いたとされる図像はいくつかありますが、どれもリスと特定できる根拠がなく、位置も断定できません。

ラタトスクが現代に残した痕跡

この名は、生きものの学名と現代の作品に残っています。

小惑星の名: 北欧神話の名を持つ小天体は多く、世界樹に棲む生きものの名も採用されている。

ゲームでの登場: 世界樹を行き来する伝令という役どころが扱いやすく、案内役として登場することが多い。

「牙」を含む名: 名の後半 toskr(牙)は、北欧語で牙や象牙を指す語として残り、地名や姓にも見られる。

ラタトスクが司るもの

交渉

木の上と下をつなぐ唯一の使いとして、言葉を運ぶ役を負う。

不和

中傷を運んで鷲と竜を煽り立てるとされる。

ラタトスクについてよくある質問

ラタトスクは何をしているのですか。

世界樹ユグドラシルを上下に走り、頂の鷲と根もとの竜ニーズヘッグのあいだで言葉を運びます。新エッダはそれを中傷だと書きます。

ラタトスクはリスですか。

リスとされます。ただし名の意味から「ねずみの牙」と読む説もあり、どの動物を指すかについて異論はあります。

ラタトスクはラグナロクでどうなりますか。

原典に記述がありません。終末での役割は語られていません。

なぜ鷲と竜は争っているのですか。

原典は理由を書きません。天と地の対立の表現とみる読み方や、リスが往復することで争いが保たれているとみる読み方があります。

ラタトスクと併せて覚えたい言葉・用語

ユグドラシル(Yggdrasill)

世界を貫いて立つ巨大な樹。三つの根がそれぞれ別の世界へ伸び、その根元に泉がある。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。