人の顔に蛇の体を持つ始祖。八卦を作り、狩りと漁を人に教えたとされる。
伏羲とは何の神様か
伏羲はひとことで言えば世界の読み方を作った神です。
三皇の一柱に数えられます。姿は上半身が人、下半身が蛇。妹であり妻でもある女媧と、蛇の尾をからめた姿で描かれてきました。
生まれ方が変わっています。西北の華胥という国の娘が、雷沢という地で大きな足跡を踏み、そのとき宿った子が伏羲だと伝えられます。
誰の足跡かは、書かれていない。
雷神のものだろうとする説がありますが、決まっていません。
最大の功績は八卦です。天地のありさまを見て、切れ目のある線と無い線の組み合わせで世界を写し取りました。これが『易経』の土台になります。
あわせて、蜘蛛の巣に倣って網を作り、魚を捕ることを教え、縄の結び目で用を足していた政を文字に代えたとされます。
発明の中身より、「見て、写し取る」という方法そのものを教えた神である。 そこが伏羲の性格です。
伏羲の漢字表記と読み方
日本語ではふくぎ、またはふっきと読みます。どちらも用いられていて、一方に決まってはいません。
字の当て方が多いのも、この神の特徴です。庖犧・包犧・宓羲・伏戯──いずれも同じ音を写した表記とされます。音が先にあって、字は後から選ばれたことをうかがわせます。
「太皞(太昊)」という呼び名は、五行で東・春・木を司る帝としての名です。 もとは伏羲とは別の神で、漢代までに重ねられたとする見方があります。
伏羲(ふくぎ)
もっとも一般的な表記。日本語では「ふっき」「ふぎ」とも読む。
庖犧(ほうぎ)
古い書物に見える別表記。「包犧」「宓羲」「伏戯」など、同じ音に多くの字が当てられてきた。
太皞(たいこう)
東方を司る帝としての呼び名。「太昊」とも書く。もとは別の神で、後に重ねられたとする説がある。
伏羲の物語
足跡から生まれる ─ 父の名が無い神
伏羲の誕生には、父がいません。
西北にある華胥という国の娘が、雷沢という地を歩いていて、大きな足跡を見つけました。踏んでみたところ、身ごもったと伝えられます。
足跡の主が誰であったかは、記されていない。
雷神のものではないか、天帝のものではないか、という説はありますが、原典は名を書いていません。
この「踏んで身ごもる」という形は、中国神話に繰り返し現れます。周の始祖后稷の母姜嫄も、巨人の足跡を踏んで后稷を身ごもったと伝えられます。
父の名を書かない誕生譚が、始祖の話に集まっている。 母系の記憶を残したものだとする見方がありますが、確かめられてはいません。
八卦を画く ─ 世界を線に写す
伏羲の名を残したのは八卦です。
『易経』の繋辞下伝は、その手順をこう伝えます。
仰いで天の象を観、俯して地の法を観、鳥獣の文と土地のありさまを観た。 近くは自分の身に取り、遠くは物に取って、はじめて八卦を画いた。
見て、写し取る。 それだけです。神から授かったとは書かれていません。
八卦は、切れ目のある線と無い線を三本重ねた組み合わせです。八通りあり、それを二つ重ねると六十四通りになります。この六十四で世の移り変わりを言い当てようとしたのが『易経』です。
易学では、黄河から現れた龍馬の背の模様から八卦を得たとも伝えられ、その模様を河図と呼びます。
神話が「発明の話」として語られるとき、中国では発明者の観察力が語られます。 天から降ってきた、とはしません。
網を編み、文字を作る ─ 暮らしの発明
洪水を生き延びる ─ 兄妹が人類の祖になる
もうひとつ、書物ではなく口伝えで広く残った話があります。
大洪水が起きて人が滅び、伏羲と女媧の兄妹だけが生き残った。二人は結ばれ、いまの人類の祖になった──という筋書きです。
雲南省で採集された伝えでは、こう語られます。
父が雷公を閉じ込めていたが、子供たちが逃がしてしまった。 怒った雷公が洪水を起こし、人が滅びた。 兄妹は、礼にもらった種から育った巨大な瓢箪の中に隠れて助かった。
似た話は苗族やチワン族にも、そして東南アジアや沖縄にも残っています。洪水型兄妹始祖神話と呼ばれる型です。
中国の古典学者聞一多は、伏羲が「庖羲」とも書かれる点に注目し、その音が舟になった瓢箪を指すのではないかと考えました。ただしこれは仮説であって、証明されたわけではありません。
伏羲の家系図と家族
伏羲の性格と人物像
伏羲には、怒る場面も、争う場面もありません。
黄帝は蚩尤と戦い、女媧は崩れた天を繕い、禹は水と格闘します。伏羲だけが、ただ観察して、写し取る神です。
仰いで天を見、俯して地を見る。鳥獣の模様を見る。蜘蛛の巣を見る。龍馬の背を見る。やっていることは、最初から最後まで「見ること」に尽きます。
その結果として残したものが、八卦・網・文字・婚姻の制度でした。どれも道具ではなく、世界を区切る枠組みです。
蛇の体で描かれることも、この性格と無縁ではないでしょう。蛇は脱皮によって姿を改める生き物であり、変化そのものを扱う神にふさわしい姿とされました。
女媧が「作り、繕う神」なら、伏羲は「読み、教える神」です。二柱が対で描かれ続けたのは、この役割の違いがはっきりしていたからだと考えられます。
伏羲ゆかりの地と遺跡
伏羲を祀る廟の住所を、一次情報で確かめられませんでした。 そのため、この欄には何も入れていません。
中国には伏羲を祀る施設が実在します。甘粛省天水市の伏羲廟、河南省淮陽の太昊陵が知られ、後者は伏羲の墓とされる場所です。ただし、それぞれの公式の案内や地方政府の記載を確かめられなかったため、住所を書くことは控えます。
確かめられないまま所在地を書くより、書かないほうが読者の役に立ちます。
日本では、伏羲を単独で祀る社は見あたりません。もっとも、江戸時代の易学や暦の学びの中で、この神の名は繰り返し引かれてきました。
伏羲が現代に残した痕跡
伏羲の名は、占いと学問の言葉として残りました。
八卦: 切れ目のある線と無い線を三本重ねた八つの記号。易占の基本であり、韓国の国旗にも四つが用いられている。
易経: 六十四卦で世の移り変わりを説く書。著者が伏羲に仮託されてきた。四書五経の一つ。
河図: 黄河から現れた龍馬の背にあったとされる模様。八卦の由来とされ、後世の図像に繰り返し描かれる。
太極図: 陰と陽が巴の形に組み合う図。八卦と組み合わせて用いられ、東アジア各地の意匠に残る。
伏羲のご利益
学問
八卦と易の祖とされ、学びと占いの守り神とされる。
予知
易は先を読む術であり、その源に置かれた神として仰がれる。
婚姻
婚姻の制度を定めたとされ、女媧と対で縁の神とされる。
秩序
世界を八つに区切る枠組みを作った神として、物事の順序を司るとされる。
伏羲が登場するゲーム・アニメ
創作では「女媧と対の存在」として描かれることがほとんどです。 八卦を作った功績よりも、蛇身の姿と兄妹という関係が使われます。
一方、原典で最も大きく扱われる「観察して写し取る」という性格は、物語にしにくいためか、ほとんど描かれません。
伏羲が登場するゲーム
真・三國無双シリーズ
直接の登場は限られますが、八卦や易の意匠が武将の技として繰り返し使われています。
伏羲が登場するアニメ・漫画
封神演義(漫画・アニメ)
原作小説には伏羲の名がわずかに現れる程度ですが、漫画版では大きく取り上げられ、物語の根に据えられました。
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伏羲についてよくある質問
伏羲は何の神様ですか。
八卦を作り、漁と狩り、婚姻の制度を人に教えたとされる神です。三皇の一柱に数えられます。上半身が人、下半身が蛇の姿で描かれます。
伏羲と女媧はどういう関係ですか。
兄妹であり、夫婦でもあるとされます。大洪水を二人だけが生き延びて人類の祖になったという話が、中国各地に伝わっています。漢代の石室の画像では、二柱が蛇の尾をからめた姿で描かれます。
伏羲は実在した人物ですか。
わかっていません。神話上の帝王として語られる存在で、実在を示す当時の記録は見つかっていません。神とみる立場と、古い時代の指導者の記憶とみる立場があります。
八卦とは何ですか。
切れ目のある線と無い線を三本重ねた、八通りの記号です。伏羲が天地を観察して作ったとされます。二つ重ねると六十四通りになり、それで世の移り変わりを読むのが『易経』です。
なぜ蛇の姿で描かれるのですか。
はっきりした理由は伝えられていません。蛇は脱皮で姿を改める生き物であり、変化を扱う神にふさわしいとされたという見方があります。女媧も同じく蛇身人首で描かれます。