人の顔に虎の足を持つ四凶の一つ。のちに歴史書の名にもなった。
檮杌とは何の神様か
檮杌はひとことで言えば教えが通じない者です。
四凶の一つ。前漢の『神異経』は、その姿をこう記します。
西方の荒地に獣がいる。形は虎に似て、長さ二尺の犬のような毛が生えている。 人の顔、虎の足、豚の歯を持ち、尾の長さは一丈八尺。 荒れ野を撹乱している。
名は「切り株」を意味する語に由来し、動かないこと・頑なであることを表すとされます。
『春秋左氏伝』は、姿ではなく性質を書きます。顓頊氏に不才の子孫がいて、教え諭してもどうにもならず、善い言葉をわきまえなかった。だから人々はこれを檮杌と呼んだ、と。
別名は難訓(教え難い)、傲狠。どちらも「聞き入れない」ことを指す語です。
四凶の中で、檮杌だけは力ではなく態度によって凶とされました。
檮杌の漢字表記と読み方
日本語ではとうごつ、またはとうこつと読みます。
「檮」は切り株、「杌」は枝を切り落とした木の幹を指す字です。どちらも「そこから伸びないもの」を意味します。 教えても伸びない者、という名づけです。
別名の難訓は「教え難い」、傲狠は「おごって、もとる」の意。性質をそのまま名にした点が、この怪物の特徴です。
檮杌(とうごつ)
一般的な表記。「とうこつ」とも読む。
難訓(なんくん)
別名。「教え難い」の意。
傲狠(ごうこん)
別名。おごり、もとることを指す。
檮杌の物語
荒れ野の獣 ─ 『神異経』が描く姿
檮杌の姿を具体的に記したのは、前漢の『神異経』です。
西方の荒地に獣がいる。 形は虎に似ており、長さ二尺の犬の様な毛が生えている。 人の顔、虎の足、豚の歯を持ち、尾の長さは一丈八尺ある。 荒の中を撹乱している。
尾が一丈八尺というのが目を引きます。おおよそ四メートルを超える長さで、体よりはるかに長いことになります。
人の顔を持つ点は、饕餮とも共通します。中国の怪物には、人の顔を持つものが少なくありません。 人でありながら人でないものを、いちばん不気味な形として描いたのでしょう。
「荒れ野を撹乱している」という一句以外に、何をしたかは書かれていません。 具体的な悪事の記録がないのは、四凶に共通する特徴です。
名指しされること自体が、この怪物の役割でした。
顓頊の子 ─ 聞き入れない者
『春秋左氏伝』の檮杌は、獣ではなく人です。
顓頊氏に不才の子孫がいた。 教え諭してもどうにもならず、善い言葉をわきまえていなかった。 そこで、天下の人々はこれを檮杌と呼んだ。
才が無いのではなく、聞かないのです。 教えを与えても届かない。良い言葉を語っても受け取らない。
四凶のほかの三つと並べると、性質の違いがはっきりします。
饕餮はむさぼる。窮奇は善悪を逆に扱う。渾敦は善人を嫌う。 檮杌は、ただ聞かない。
行いによってではなく、聞く耳を持たないことによって凶とされた。 これは、教えることを重んじる社会でこそ生まれる評価です。
舜が追放した四罪の一人鯀と重ねる説もありますが、書物によって扱いが分かれ、一致していません。
歴史書の名になる ─ 悪を記録する
檮杌の名には、他の三凶にない後日談があります。
楚の国の歴史書は『檮杌』と呼ばれました。 『孟子』に、晋の歴史書を『乗』、楚の歴史書を『檮杌』、魯の歴史書を『春秋』という、と記されています。
なぜ悪しき者の名を、国の歴史書の名にしたのか。
悪い者の名を書き残すのは、繰り返さないためである。
そう説明されてきました。記録とは、良いことを讃えるためだけのものではないという考え方です。
四凶の中で、名前がそのまま「戒め」の意味を帯びたのは檮杌だけです。
現代でも、中国語で「檮杌」は「悪人」「悪しき歴史」を指す語として使われることがあります。台湾の小説の題名に用いられた例もあります。
教えが通じない者の名が、教えるための書物の名になった。 この反転が、檮杌のいちばん面白いところです。
檮杌の家系図と家族
檮杌の性格と人物像
檮杌の性格は、「変わらないこと」に尽きます。
名の由来である「切り株」は、そこから何も伸びない木です。教えを受けても伸びない者を、その形で言い当てました。
悪事を働いたとは書かれていません。荒れ野を撹乱している、という一句があるだけです。積極的な害よりも、変わらないことそのものが罪とされています。
才が無いのではない。聞かないのだ。
この区別は重要です。能力の話ではなく、態度の話です。
中国の思想では、人は教えによって変わりうるという考えが根にあります。だからこそ、変わらない者はもっとも扱いに困る存在になります。
饕餮は欲によって、窮奇はねじれた判断によって凶とされました。檮杌だけは、何もしないことによって凶とされています。
それでいて、その名が国の歴史書に付けられました。戒めとして記憶されるという役割を、この怪物は与えられたのです。
檮杌ゆかりの地と遺跡
檮杌を祀る廟はありません。 四凶の一つであり、信仰の対象ではないからです。
『神異経』は「西方の荒地」に置きますが、これは実在の地名ではなく、中原から遠い場所を漠然と指す言い方です。
場所の記録がないのは、この怪物が「どこかにいるもの」ではなく「名指しされるもの」だからです。 四凶は、追放された先の方角だけが語られ、住む場所は語られません。
舜が四罪を追放したとき、檮杌に重ねられる鯀は羽山へ流されたとされます。
檮杌が現代に残した痕跡
檮杌の名は、歴史書と言葉に残りました。
『檮杌』: 楚の国の歴史書の名。『孟子』が、晋の『乗』、魯の『春秋』と並べて記す。
「難訓」: 檮杌の別名。教え難い者を指す語として用いられる。
四凶: 渾沌・窮奇・檮杌・饕餮の四つ。『春秋左氏伝』が、舜に追放された者として挙げる。
檮杌のご利益
報い
悪しき者の名を記録して戒めとする考え方から、行いの結果を示す存在とされる。
応報
楚の歴史書の名になったことから、記録が戒めになるという考えに結び付く。
厄除け
四凶の一つとして、その名を挙げることで悪を退けるとされた。
檮杌が登場するゲーム・アニメ
創作では、四凶の一体として力の強い怪物に描かれます。 尾が一丈八尺という記述が、そのまま長い尾を持つ姿として使われることが多いようです。
いっぽう、「教えても改まらない」という原典の性質は、力に置き換えにくいためか、ほとんど扱われません。
檮杌が登場するアニメ・漫画
封神演義(漫画・アニメ)
四凶を題材にした敵として扱われることがあります。
中国の歴史小説
悪しき歴史を指す語として、題名に用いられた例があります。
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檮杌についてよくある質問
檮杌とは何ですか。
四凶の一つに数えられる怪物です。『神異経』では人の顔・虎の足・豚の歯を持ち、尾が一丈八尺ある獣とされます。『春秋左氏伝』では、顓頊氏の子孫で、教え諭しても改まらない者として記されます。
なぜ「檮杌」という名なのですか。
「檮」は切り株、「杌」は枝を切り落とした木の幹を指します。どちらもそこから伸びないものを意味し、教えても伸びない者という名づけになっています。
なぜ楚の歴史書の名になったのですか。
悪しき者の名を記録することが、繰り返さないための戒めになると考えられたためです。『孟子』は、晋の歴史書を『乗』、楚の歴史書を『檮杌』、魯の歴史書を『春秋』と記しています。
四凶とは何ですか。
渾沌・窮奇・檮杌・饕餮の四つを指します。『春秋左氏伝』が、舜に追放された者として挙げたものです。四神とは別の体系であり、対になっているわけではありません。