風火輪に乗る少年の神。父に逆らい、一度は肉体を返して蓮の花で生まれ直した。
哪吒とは何の神様か
哪吒はひとことで言えば体を返して生まれ直した少年です。
道教で崇められる護法神で、托塔天王(毘沙門天が原型)の三男とされることから哪吒太子とも呼ばれます。道教では太子爺、中壇元帥など、いくつもの尊称があります。
姿は決まっています。蓮の花や葉の形の衣を着け、乾坤圏(金色の輪の投擲武器)、混天綾(不思議な力を秘めた布)、火尖槍(火を放つ槍)を持ち、風火二輪に乗って戦います。
物語の中心は父子の対立です。竜王の子を殺したことで父が責められ、哪吒は責めを引き受けて、
自身の肉を割り、骨を刻んで父親に還した。
自ら命を絶ちます。のちに蓮の花と茎で体を作り直され、よみがえりました。
哪吒はインド由来の神が中国で作り替えられたものです。
哪吒の漢字表記と読み方
日本語ではナタと読むのが基本です。
ただし、日本には読みが三通りあります。 中国語の音に近いのは「ナァーヂャ」で、上海の動画作品の邦題ではナーザが使われました。
いっぽう、ナタクという読みも広く通っています。安能務訳『封神演義』がこの読みを採り、それを翻案した藤崎竜の漫画版が広く読まれたためです。三浦義臣訳『封神伝』、邱永漢『西遊記』も同じ読みを採っています。
ナタ、ナーザ、ナタク。
どれも間違いではありません。 どの本を通って知ったかで変わります。
「吒」の字は、日本の文字の規格のうち古いものには含まれておらず、表記に苦労してきた経緯もあります。
哪吒(なた)
一般的な表記。仏教の説話では「那吒」と書くものも見られる。
中壇元帥(ちゅうだんげんすい)
道教での尊称。台湾ではこの名で広く祀られる。
哪吒三太子(なたさんたいし)
托塔天王の三男であることによる呼び名。「太子爺」「太子元帥」とも。
哪吒の物語
インドから来た神 ─ ナラクーバラの変化
哪吒の由来は、中国ではなくインドにあります。
前身はナラクーバラという神で、財宝神クベーラの息子とされます。
クベーラが仏教に取り入れられて毘沙門天(中国では多聞天王)になると、その三男とされるナラクーバラも陪神として取り入れられ、那吒三太子の名で信仰されるようになりました。中国での記載が始まるのは晋代あたりとみられます。
中国で毘沙門天の信仰が高まると、毘沙門天は唐代初期の武将李靖と同一視され、道教でも托塔李天王として崇められるようになります。それに伴って那吒太子も道教に入りました。
宋以後に毘沙門天の信仰が衰えると、仏教では那吒は忘れられます。 しかし道教では民間の説話に取り入れられて人気があり、
次第にインドの神であることは忘れられ、道教の神の一柱に収まった。
父母や兄弟の設定が説話ごとに違うのは、この長い変化の跡です。
体を返す ─ 父との対立
哪吒の物語で最も知られるのが、体を父に返す場面です。
『三教源流捜神大全』が伝える筋はこうです。生まれて五日後に東海で水浴びをし、東海龍王の領域に踏み込んで宮殿を壊しました。怒った竜王と七日戦い、九匹の竜を殺します。
竜王が玉皇に訴えると、哪吒は天界の門まで行き、竜王をも殺してしまいました。 さらに如来の弓を引いて放った矢が、石記娘々の子を射殺します。
父の李天王は、魔物の首領を殺したことで報復を招くと息子を叱りました。そこで哪吒は、
自身の肉を割り、骨を刻んで父親に還した。
魂となった哪吒は世尊のもとへ赴きます。仏はその降魔の力を見込み、
蓮を折って骨とし、蓮根を肉とし、糸を筋とし、葉を衣として組み立て、新生させた。
『封神演義』では、作り直すのは師の太乙真人です。 書物によって、誰が生まれ直させたかが違います。
台湾の中壇元帥 ─ いまも祀られる少年神
哪吒は、いまも生きた信仰の対象です。
台湾では中壇元帥、あるいは太子爺と呼ばれ、広く祀られています。多くの廟で、主神の前に立つ武の神として置かれます。
祭りの場では、電音三太子と呼ばれる出し物が知られます。哪吒をかたどった大きな人形をかぶった演者が、音楽に合わせて踊るものです。伝統の行列と現代の音楽を組み合わせたもので、台湾の祭りの名物になりました。
少年の神だから、踊る。
神々の中で、これほど「若さ」が前面に出ている存在は多くありません。
物語でも、哪吒は最後まで子どもの姿です。生まれ直したあとも成長しません。永遠に少年であるという設定が、そのまま信仰の性格になっています。
子どもの守り神として願われるのも、この点によります。
哪吒の家系図と家族
哪吒の性格と人物像
哪吒の性格は、「加減を知らない」ことです。
生まれて五日で海に入り、竜宮を壊します。悪意があったわけではありません。遊んでいるうちに壊したという書き方です。
竜王が怒れば戦い、九匹の竜を殺す。訴えられれば天界まで行って竜王も殺す。止まりません。
そして、父に叱られると今度は自分の体を返します。これも極端です。 詫びるのでも、逃げるのでもなく、体そのものを返してしまう。
借りたものだから、返す。
肉は母から、骨は父から。その理屈のまま実行しています。
子どもの論理です。加減がなく、途中がなく、いつも全部です。
生まれ直したあとも父を追いかけ、父が塔を授かってようやく収まったとされます。和解ではなく、抑えられて止まったわけです。
成長しない神。 それが哪吒のいちばんの特徴であり、台湾の祭りで踊り続けている理由でもあります。
哪吒ゆかりの地と遺跡
哪吒を祀る廟の住所を、一次情報で確かめられませんでした。 そのため、この欄には何も入れていません。
台湾には哪吒を中壇元帥として祀る廟が数多くあり、多くの廟で主神の前に立つ武の神として置かれています。中国の四川省江油市は哪吒ゆかりの地とされ、関連する施設が整えられています。ただし、それぞれの公式の案内を確かめられなかったため、住所は書きません。
日本に哪吒を祀る社はありません。 ただし、前身とされる毘沙門天の信仰は日本にも深く入っています。
台湾の祭りで見られる電音三太子は、哪吒をかたどった人形をかぶって踊る出し物で、いまも各地の行列に登場します。
哪吒が現代に残した痕跡
哪吒の名は、祭りと物語に残りました。
電音三太子: 哪吒をかたどった大きな人形をかぶって踊る台湾の出し物。伝統の行列と現代の音楽を組み合わせたもの。
風火二輪: 火と風を放ちながら空を飛ぶ二つの車輪。速い乗り物の意匠として繰り返し使われる。
乾坤圏: 金色の輪の形をした投擲武器。哪吒の姿を示す目印になっている。
中壇元帥: 台湾で哪吒を指す呼び名。多くの廟で主神の前に立つ武の神として置かれる。
哪吒のご利益
子どもの守護
少年の姿の神として、子の成長を守るとされる。台湾では太子爺として広く願われる。
厄除け
護法神として、魔を退ける力があるとされる。
必勝
中壇元帥として武の神とされ、勝ちを願う対象になる。
再生
蓮の花と茎で体を作り直された話から、やり直しの願いに結び付けられる。
哪吒が登場するゲーム・アニメ
創作では、父子の対立が必ず取り上げられます。 体を返すという場面が強烈で、物語の山場として使いやすいためでしょう。
いっぽう、インドのナラクーバラを前身とするという由来は、ほとんど触れられません。中国の神として完全に定着したあとの姿だけが描かれています。
哪吒が登場するアニメ・漫画・映像
封神演義(漫画・アニメ)
ナタクの読みで、主要な人物の一人として描かれます。
中国のアニメーション映画
哪吒を主人公にした作品が複数作られ、大きな観客を集めました。父子の対立が物語の軸に据えられています。
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哪吒についてよくある質問
哪吒は何の神様ですか。
道教の護法神です。托塔天王の三男とされ、中壇元帥・太子爺などの尊称で呼ばれます。乾坤圏と混天綾と火尖槍を持ち、風火二輪に乗る少年の姿で表されます。
哪吒はどう読みますか。
日本語では「ナタ」と読むのが基本です。中国語の音に近いのは「ナーザ」で、安能務訳『封神演義』と藤崎竜の漫画版が広まったことから「ナタク」の読みも定着しています。どれも間違いではありません。
なぜ自分の体を父に返したのですか。
竜王の子を殺したことで父が責めを負うことになったためです。肉は母から、骨は父からもらったものだという理屈のまま、肉を割き骨を刻んで返したと伝えられます。のちに蓮の花と茎で体を作り直され、よみがえりました。
哪吒はもともと中国の神ですか。
インド由来です。財宝神クベーラの息子ナラクーバラを前身とし、クベーラが毘沙門天として仏教に取り入れられたときに陪神として入りました。中国で道教に取り込まれ、次第にインドの神であることは忘れられていきました。