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北欧神話

ノッケンとは何の神様か|家系図・物語

Nøkk  / ノッケン

精霊

水に棲み、姿を変え、弦の音で人を招き寄せる精霊。

ノッケンとは何の神様か

ノッケンはひとことで言えば水から人を呼ぶ者です。滝や川、池の淵に棲み、姿を自在に変える精霊とされます。

エッダに出てくる神ではありません。中世より後の、北欧の家々で語り継がれた民間伝承の存在です。 それでも北欧の水辺の言い伝えでは、これほど広く知られたものはほかにありません。

姿が定まらないことが、この存在の本体です。若い男にも、老人にも、白い馬にも、水面そのものにもなります。共通するのは弦楽器を奏でることと、その音を聞いた者が水へ引かれていくことでした。

ただし怖い話ばかりではありません。人に曲を教えたという伝えも、人間と暮らすことに同意したという伝えも残っています。北欧の民衆にとって、水は恵みでもあり、命を奪うものでもありました。その両方を一つの姿にまとめたのが、この精霊です。

ノッケンの名前の表記と読み方

日本語ではノッケンネックと書かれます。もとの語はノルウェー語の nøkk(ノック)、スウェーデン語の näck(ネック)です。

同じ語根の名が、ゲルマン語圏に広く分布しています。オランダ語では nikker(ニッケル)、フィンランド語では näkki(ネッキ)、エストニア語では näkk(ネック)。言い方は違っても、語られている話はほとんど同じです。

注意したいのは性別が地域で入れ替わることです。ドイツ語の Nix(ニクス)とスカンジナビアの対応語は男性を指しますが、ドイツ語の Nixe(ニクセ)は川に棲む人魚、つまり女性を指します。英語圏の伝説に出るナッカーも同じ語根とされますが、そちらは竜として語られることが多く、時代によって姿が変わりました。

Nøkk(ノック)

ノルウェー語の綴り。日本語の「ノッケン」はこの語の定形にあたる形から来ている。

Näck(ネック)

スウェーデン語の綴り。同じ存在を指す。

Nixe(ニクセ)

ドイツ語の形。ドイツ語では女性形が川の人魚を指し、性別の扱いが北欧と異なる。

ノッケンの物語

  1. 弦の音 ─ 引きこむ者か、教える者か
  2. フォッセグリム ─ 滝に帰っていく
  3. バッケヘスト ─ 小川の馬
  4. なぜエッダに出てこないのか

弦の音 ─ 引きこむ者か、教える者か

ノッケンの語りで欠かせないのが音楽です。水辺で弦楽器を奏で、その音に惹かれた者を川や池へ引きこむ、というのが最も広く伝わった形でした。

狙われるのは女性と子どもだとされます。ただし伝承をよく読むと、そう単純ではありません。男を呼ぶ話も、聞いた者に何も起こらない話も、少なからず残っています。

むしろ北欧の民衆が語り継いだのは、この精霊から曲を習うという筋でした。腕のいい奏者が、その技を水辺で授かったのだと噂される。土地の名手をめぐる言い伝えとして各地に残っています。

フォッセグリム ─ 滝に帰っていく

ノルウェーでは、滝に棲むものをフォッセグリムと呼び分けることがあります。滝の水音そのものが、この存在の音楽だとされました。

人間と恋に落ちる話も伝わります。ともに暮らすことを承知した話さえあります。しかしたいていの筋では、最後に滝か小川のそばの家へ帰っていきます。

理由がはっきり語られているのが面白いところです。水源との行き来ができなくなると、この存在は元気を失ってしまう。惚れた相手より、水のほうが先にくる。 人と結ばれない理由を、性格ではなく体のつくりで説明しています。

バッケヘスト ─ 小川の馬

ノッケンが取る姿のうち、最もよく知られているのが白い馬です。スカンジナビアではバッケヘスト(小川の馬)と呼ばれました。「小川の馬」がそのまま名前になっています。

現れるのは決まって霧の出た日の川辺です。立派な白馬がそこにいて、乗ってみたくなる。背にまたがった者は、馬もろとも川へ飛びこみ、二度と戻りません。

よく似た伝承が、スコットランドのケルピー、ウェールズの馬の妖にもあります。北海をはさんだ広い範囲で、水辺の馬に近づくなという戒めが同じ形で語られていました。

なぜエッダに出てこないのか

北欧神話の名を並べたとき、この存在だけは出どころが違います。オーディントールが十三世紀の写本に記された神であるのに対し、ノッケンは文字に書き留められるのがずっと遅いからです。

語られていたのは、神殿や宮廷ではなく、水車小屋や渡し場でした。危ない場所を子どもに教えるとき、大人はこの名を使います。淵に近づくな、という戒めが、そのまま姿を持ったものと考えられます。

近代に入って民俗学者が村々の話を書き取ったことで、ようやく形が残りました。神話の書物からではなく、暮らしの側から立ち上がってきた存在です。

ノッケンの家系図と家族

ふつうのつながり きょうだい 敵対・国ゆずり 本によって話がちがう

ノッケンの性格と人物像

ノッケンは、善悪の枠に入らない存在です。

人を溺れさせる話と、人に音楽を授ける話が、同じ地方に並んで伝わっています。どちらかが後から付け足されたのではなく、はじめから両方あったと考えられます。

手がかりは、この精霊が何であるかにあります。水そのものです。 水は飲み水であり、粉を挽く力であり、同時に人を吞むものでした。恵みと危険が同じ一つのものから来る以上、それを人の姿にすれば、こういう形にしかなりません。

姿が定まらないのも同じ理由でしょう。人、馬、水面。決まった顔を持たないことが、この存在の顔です。

ノッケンゆかりの地と遺跡

ノッケンを祀った場所は見つかっていません。 神殿も社も、そもそも作られていません。エッダの神ではなく、民間伝承の存在だからです。

かわりに結びついているのは、名のある滝や淵そのものです。ノルウェーとスウェーデンには、この名を含む滝や沼の呼び名が各地に残っています。ただし語形が川や水を指す普通の語と紛れやすく、どれがこの精霊に由来するかを一つずつ確かめるのは難しいのが現状です。

ノッケンが現代に残した痕跡

この名は、いまも北欧の日常語と地名のなかに生きています。

ノルウェー語の nøkk: 水の精霊を指す語として現代語に残る。滝に棲むものはフォッセグリムと呼び分けられる。

スウェーデン語の näcken: 「ネッケン」の形で今も使われ、絵画や音楽の題材として繰り返し取り上げられてきた。

バッケヘストの言い伝え: 「小川の馬」の意。霧の川辺に現れる白馬に近づくなという戒めとして、スカンジナビア各地に残る。

ノッケンが司るもの

水難除け

水辺の危険を戒める伝承として、子どもに語り聞かせられてきた。

音楽

弦楽器の名手が、この精霊から技を授かったとする言い伝えが各地に残る。

川と水の守り

滝や淵に棲むとされ、その水場そのものと結びついて語られた。

ノッケンについてよくある質問

ノッケンは北欧神話の神ですか。

エッダに出てくる神ではありません。中世より後の北欧の民間伝承に語られた水の精霊です。

ノッケンは人を襲うのですか。

水へ引きこむ話が最も広く伝わりますが、それだけではありません。人に音楽を教えた話や、人間と暮らすことに同意した話も残っています。

ネックやニクセと同じものですか。

同じ語根から出た呼び名です。ただしドイツ語のニクセは川に棲む人魚を指し、地域によって性別の扱いが入れ替わります。

バッケヘストとは何ですか。

「小川の馬」を意味する言い伝えです。霧の日に川辺へ現れる大きな白い馬で、背にまたがった者は馬とともに川へ飛びこんで戻らないとされます。ノッケンが馬の姿を取ったものと考えられています。

ノッケンと併せて覚えたい言葉・用語

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。