諏訪の女神。イズハヤオとタマルヒメの娘で、会津比売の別名ともされる。
イズハヤヒメとは何の神様か
イズハヤヒメの漢字表記と読み方
読みは「いずはやひめ」または「いつはやひめ」です。
「イズ(出・伊都)」は出る・厳めしい、「ハヤ」は速い、「ヒメ」は女神を指します。
父の名イズハヤオと、「イズハヤ」の部分が共通しています。
諏訪の御子神には、こうした親子で名の一部を共有する例が多く見られます。名の形が、そのまま系譜を示しています。
出早比売命(いずはやひめのみこと)
一般に用いられる表記。
伊都速比売命(いつはやひめのみこと)
別の表記。
伊自波夜比売(いじはやひめ)
阿波国の天村雲神社の祭神。同一視する説がある。
出速姫命(いずはやひめのみこと)
大日本地名辞書での表記。
イズハヤヒメの物語
両方の血を引く
この女神の系譜は、諏訪の歴史をそのまま映しています。
父方の祖父 タケミナカタ ─ 諏訪へ入った神。
母方の祖父 洩矢神 ─ それを迎え撃って敗れた神。
父イズハヤオが、洩矢神の娘タマルヒメを娶って生まれたのがこの女神です。
つまり、征服した側と、された側の孫にあたります。
二代で縁組が成立していることは、諏訪の伝承の特徴です。争いを語りながら、その後の和解も同じ系図に書き込まれています。
兄妹たち
この女神には、多くの兄妹がいます。
可毛羽神
若木比売神
草奈井比売神
佐和恵多良六老彦神
いずれも、諏訪周辺の社の祭神になっています。
可毛羽神は長野市篠ノ井の可毛羽神社、草奈井比売神は諏訪市湖南の蓼宮神社の祭神とされます。
貞観八年(八六六年)六月一日、草奈井比売神は会津比売神とともに従四位下を授けられています。国の記録に名が残る数少ない例です。
阿波の天村雲神社
この女神をめぐる最大の論点が、四国との関係です。
阿波国の式内社「天村雲伊自波夜比売神社二座」に比定される天村雲神社の祭神に、伊志波夜比売命があります。
大日本神祇誌はこの神について、こう述べます。
建御名方命の孫にあたる出速雄命の女であり、天村雲命の妃である。
つまり、諏訪の女神が四国へ嫁いだという解釈です。
修補諏訪氏系図は「伊都速、伊自波夜、音訓相通ズ真ニ同神ナルベシ」と結び、天香語山命が越を、出速雄命が信濃を治めて境を接したことから婚約が結ばれたのだろうと推測しています。
会津比売との関係
この女神は、会津比売神の別名ともされます。
会津比売神 ─ 長野市松代町岩野の会津比売神社に祀られる。
同じ女神に、三つの名が当てられていることになります。
出早比売命、伊自波夜比売命、会津比売神。
諏訪の御子神は数が多く、系図によって親子関係や兄妹関係が入れ替わります。別名と別神の区別がつかないまま伝えられてきました。
この女神は、その混乱をもっともよく示す例のひとつです。
イズハヤヒメの家系図と家族
イズハヤヒメの性格と人物像
イズハヤヒメは、境目に立つ女神です。
諏訪と阿波、征服した側とされた側。どちらにも足をかけています。
しかもその立ち位置は、確定していません。
会津比売と同じなのか。阿波の女神と同じなのか。どの説も決め手を欠いたまま並んでいます。
諏訪の御子神とは、そういう存在です。土地ごとに祀られ、系図が書かれるたびに位置が動く。この女神は、その動きやすさをそのまま体現しています。
イズハヤヒメを祀る神社
この女神を祀る社としては、阿波国の天村雲神社が挙げられます。ただしそこでの神名は伊志波夜比売命です。
諏訪では、御子神をまとめて祀る形が中心になります。
上社前宮の若御子社には二十二柱、下社春宮・秋宮の若宮社には十三柱が祀られ、この女神もそのなかに数えられます。単独で主祭神とする社は多くありません。
イズハヤヒメが現代に残した痕跡
イズハヤヒメの名は、諏訪と阿波の両方に残りました。
天村雲神社: 徳島県の式内社。祭神の伊志波夜比売命をこの女神と同一視する説がある。
修補諏訪氏系図: 延川和彦が編んだ系図。諏訪と阿波の女神を同神と結論づける。
若御子社: 諏訪大社上社前宮の摂社。御子神二十二柱を祀る。
イズハヤヒメのご利益
縁結び
争った二つの家をつなぐ系譜による。
五穀豊穣
諏訪の御子神として土地を守ることによる。
イズハヤヒメについてよくある質問
イズハヤヒメとはどんな神様ですか。
諏訪地方の伝承に見える女神です。タケミナカタの子イズハヤオと、洩矢神の娘タマルヒメの間に生まれたとされます。
阿波の女神と同じですか。
修補諏訪氏系図は「音訓相通ズ真ニ同神ナルベシ」として同一神と結論づけています。ただし決定的な根拠があるわけではありません。
会津比売と同じですか。
別名とされることがあります。諏訪の御子神は数が多く、系図によって別名と別神の区別がつきにくくなっています。