洩矢神の孫。狩猟の神として東日本に広く祀られる。
チカトとは何の神様か
チカトはひとことで言えば東へ広がった狩りの神です。諏訪の伝承では洩矢神の御子神、あるいは孫神とされます。
神長守矢氏系譜によれば、モリタカの子であり、守矢氏の三代目にあたります。
父が鹿狩りで千頭の鹿を捕らえたことから、この名がついたと伝えられます。
チカトの漢字表記と読み方
読みは「ちかと」または「ちかとう」です。「チ」は千、「カ」は鹿、「ト」は頭を指します。
千頭の鹿という、そのままの名です。
東へ広がるにつれて、表記も読みも変わりました。
千賀多、千方、千勝、近津、近戸、近外、血方、血形、智方、智勝、智賀都、地勝、親都。読みも「ちかた」「ちかつ」「ちかと」に分かれます。音だけが残り、字は土地ごとに当てられたことが分かります。
千鹿頭神(ちかとのかみ)
一般に用いられる表記。
千鹿頭神(ちかとうのかみ)
別の読み方。
近津神(ちかつのかみ)
関東・東北での表記。
智賀都神(ちかつのかみ)
栃木県での表記。
チカトの物語
千頭の鹿
神長守矢氏系譜が、この神の名の由来を伝えます。
守宅神、生まれて霊異幹力あり。父に代りて弓矢を負ひ、大神に従ひ遊猟し、千の鹿を得る。
一男有りて、これを名つけて千鹿頭神と曰ふ。
千鹿頭神、継ぎて祭政を主る。
父の狩りの成果が、子の名になりました。
諏訪信仰は狩猟と切り離せません。上社の御頭祭では、いまも鹿の頭が供えられます。
古い神楽歌にも「千鹿頭ノ キタノハヤシノ ススムシワ」と歌われ、この神の名が繰り返されます。
諏訪を離れる
七つの県に分布する
ミシャグジ信仰を調べた今井野菊の調査によれば、千鹿頭社の分布はきわめて広いものです。
長野 十三社。山梨 八社。埼玉 十二社。
群馬 二十社。栃木 十二社。茨城 七社。福島 十五社。
関東から東北にまで及んでいます。
特徴は、山岳地帯に沿って移動したように見えることです。八ヶ岳、榛名山、赤城山、男体山、八溝山。
狩猟に長けた山人の集団が東へ進んだことによって広まった、という説があります。山づたいに神が動いたという見方です。
ミシャグジと重なる
この神の信仰は、他の信仰と重なります。
ミシャグジ信仰
天白信仰
今井の調査から、山梨・埼玉・群馬ではミシャグジ社と千鹿頭社が重なっていることが分かっています。
石棒を神体として祀るところもあります。
信州から来た狩猟の神とする地域のほか、農耕や火防の神とする地域もあります。
ただし、多くの社では祭神が入れ替わっており、長野県内ですら地域によって違います。未調査の社も多く、謎の部分が数多く残されています。
チカトの家系図と家族
チカトの性格と人物像
チカトは、移動した神です。
諏訪を離れ、松本へ移り、そこからさらに東へ広がりました。関東から東北まで、名を変え字を変えながら社が残っています。
しかし、どの社でも祭神が同じとは限りません。
名だけが伝わり、中身は土地ごとに変わりました。狩りの神であったり、農耕の神であったり、火を防ぐ神であったりします。信仰が人とともに動くとき、何が残り何が変わるかを示す例です。
チカトを祀る神社
この神を祀る社は、東日本に広く分布します。
長野県松本市の神田千鹿頭神社・林千鹿頭神社、諏訪市豊田有賀の千鹿頭神社が中心です。
関東では群馬県前橋市の近戸神社、栃木県宇都宮市の智賀都神社、茨城県大子町の近津神社などがあります。
東北では福島県棚倉町の都都古和氣神社などに名が残ります。
チカトが現代に残した痕跡
チカトの名は、東日本の社名に残りました。
近津・近戸: 関東での表記。千鹿頭が音を残して字を変えた形。
智賀都: 栃木県での表記。宇都宮市に智賀都神社がある。
御頭祭: 諏訪大社上社の祭。鹿の頭を供える。
宇良古山: この神が移ったとされる山。いまの松本市神田。
チカトのご利益
狩猟守護
千頭の鹿を得た父の伝えによる。
五穀豊穣
東へ広がる過程で農耕の神とされた地域があることによる。
火防
火を防ぐ神とする地域があることによる。
チカトについてよくある質問
チカトとはどんな神様ですか。
洩矢神の孫、あるいは御子神とされる神です。父モリタカが狩りで千頭の鹿を得たことから、この名がついたと伝えられます。
なぜ諏訪を離れたのですか。
宇良古比売を娶って宇良古山へ移ったと系譜にあり、諏訪から追放された、あるいは自ら離れたことを示すと考えられています。
どのくらい広く祀られていますか。
長野・山梨・埼玉・群馬・栃木・茨城・福島に社があります。千方・千勝・近津・近戸・智賀都など、表記も読みも多様です。