諏訪の土着神。鉄輪を持ってタケミナカタと戦い、敗れて仕えた。
モリヤノカミとは何の神様か
モリヤノカミはひとことで言えば負けた側の神です。長野県諏訪地方に伝わる土着の神で、守屋大臣・守矢大神とも呼ばれます。
諏訪へ入ろうとしたタケミナカタと争い、敗れて服従しました。
国譲り?で敗れて逃げてきたはずのタケミナカタが、諏訪では逆に土地を征服する側になっています。この食い違いが、諏訪信仰のもっとも大きな謎です。
モリヤノカミの漢字表記と読み方
読みは「もりや」、地元では「もれや」とも読まれます。
「モリ」は森あるいは守る、「ヤ」は矢あるいは屋と解されますが、定説はありません。
諏訪の南に守屋山という山があり、この神の名と同じです。
山が先か神が先かは決められていません。守矢氏という神官の家がいまも続いており、名はその家に受け継がれています。
洩矢神(もりやのかみ)
一般に用いられる表記。
守屋大臣(もりやだいじん)
諏訪信重解状での表記。
守矢大神(もりやのおおかみ)
守矢氏に伝わる表記。
守屋大明神(もりやだいみょうじん)
近世の社での呼び名。
モリヤノカミの物語
藤の鎰と鉄の鎰
この神の物語のもっとも古い記録は、宝治三年(一二四九年)の諏訪信重解状です。諏訪上社の大祝から鎌倉幕府へ出された文書でした。
当砌は守屋大臣の所領なり。大神天降り御ふの刻、大臣は明神の居住を禦ぎ奉り、制止の方法を励ます。
爰に明神は藤鎰を持ち、大臣は鉄鎰を以て、此の処に懸けて之を引く。
藤のかぎと鉄のかぎを引き合い、藤を持つ側が勝ちました。
鉄を持つ者が藤に負けるという、逆さまの結末です。
勝ったタケミナカタが藤を地に植えると根づいて茂り、藤諏訪の森と呼ばれるようになったと記されます。
天竜川をはさんだ二つの社
室町時代の諏訪大明神画詞では、武器が藤の枝と鉄輪になっています。
洩矢は鉄輪を持して争ひ、明神は藤の枝をとりて是を伏し給ふ。
現在は、天竜川をはさんで向かい合う二つの社が、二柱の陣地の跡と考えられています。
藤島神社 ─ 岡谷市川岸三沢。
洩矢神社 ─ 岡谷市川岸東橋原。
両社の藤が川の上で絡み合い、空中に花を咲かせて橋のように見えたと伝えられます。
寛文年間、藩主の命でこの藤を伐った男が正気を失って死に、神罰と噂されたという話も残っています。
敗れたあとに神官になる
敗れたこの神は、追い払われませんでした。諏訪明神に仕える側に回ります。
洩矢神 ─ 諏訪上社の神長官をつとめた守矢氏の始祖。
神長官は、上社の神事を実際に取り仕切る役でした。大祝という現人神を立てる儀式を執り行うのも、この家です。
つまり、負けた側の子孫が祭祀の実権を握り続けたことになります。
守矢氏は明治まで七十六代続いたと伝え、いまも茅野市に神長官守矢史料館があります。征服の物語が、そのまま職掌の由来になっている珍しい例です。
モリヤノカミの家系図と家族
モリヤノカミの性格と人物像
モリヤノカミは、歴史の側から見える神です。
記紀に名はありません。中世の文書と、神官の家の系図にだけ現れます。それでも、この神の物語は実際の土地と家に結びついて残りました。
天竜川の両岸に社があり、神長官の家がいまも茅野にあります。
負けた神が消えず、勝った神の祭祀を担い続けた。征服の記憶を、征服された側が語り継いだという、めずらしい形です。
モリヤノカミを祀る神社
モリヤノカミを祀る社は、諏訪盆地に集まっています。
岡谷市川岸東橋原の洩矢神社が代表で、天竜川をはさんだ対岸の藤島神社と向かい合います。
諏訪大社の背後にそびえる守屋山は、この神の名と同じ字を負います。上社の神体山とする説もありますが、社の公式の見解ではありません。
モリヤノカミが現代に残した痕跡
モリヤノカミの名は、家と山に残りました。
守矢氏: 諏訪上社の神長官を代々つとめた家。この神の子孫と伝える。
守屋山: 諏訪盆地の南にそびえる山。標高1,650メートル。
ミシャグジ: 守矢氏が祀った精霊。この神と同一視されることがある。
藤島社: タケミナカタが投げた藤が根づいたと伝える社。
モリヤノカミのご利益
狩猟守護
弓矢と鉄を持つ神とされたことによる。
土地守護
諏訪の先住神とされることによる。
モリヤノカミについてよくある質問
モリヤノカミとはどんな神様ですか。
諏訪地方の土着の神です。諏訪へ入ろうとしたタケミナカタと鉄の鎰を持って争い、藤の鎰を持つ相手に敗れて服従しました。
なぜタケミナカタが征服する側なのですか。
記紀では国譲りに敗れて諏訪へ逃げた神とされますが、諏訪の地元伝承では天から守屋山に降りて現地の神を征服した神とされます。二つの筋が食い違っています。
守矢氏とはどんな家ですか。
諏訪上社の神長官を代々つとめた神官の家です。この神を始祖と伝え、上社の神事を実際に取り仕切ってきました。
モリヤノカミと併せて覚えたい言葉・用語
国譲り(くにゆずり)
オオクニヌシが葦原中国の統治権を天津神に明け渡した出来事。